ナレッジマネジメントの進め方|手法・失敗例と対策もわかりやすく解説
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- ナレッジマネジメントは、まず目的を明確にするところから始める
- ナレッジの集約には、ナレッジマネジメントツールの導入が効果的である
- ナレッジ共有・活用を促すために、社内制度への反映など仕組みを整えることが重要
ナレッジマネジメントを始める際は、まず進め方を整理し、目的の設定・ツールの導入など段階を経て社内に浸透させていく必要があります。本記事ではこれからナレッジマネジメントを始める方へ向けて、ナレッジマネジメントの進め方や手法、さらに失敗例とその対策を解説します。
ナレッジマネジメントとは
ナレッジマネジメントとは、社員が持つ知識やノウハウなどのナレッジを企業全体で共有し、新たな知識を創出する経営手法を指します。社員が業務で得た知識は、言語化や図式化をしなければ、個人の中で蓄積されていくだけ、つまり属人化した状態となります。
しかし、それでは組織全体の成長には繋がりません。そこで、社員が個々に持つ知識を第三者に共有可能な形に変換し、企業全体で共有して活用しようとする取り組みが行われるようになっています。これが、ナレッジマネジメントです。
ナレッジマネジメントが重要とされる背景
ナレッジマネジメントが注目されている背景には、人材の流動化や働き方の多様化があります。従来は終身雇用で長きにわたって勤務することが常識とされており、知識やスキル、ノウハウの共有を積極的に行わなくても大きな問題は起きない環境でした。
しかし、現代では1つの企業で働き続けるのではなく、さまざまな企業に移動することで雇用が活性化される「人材流動化」が一般化しています。そのため、業務担当者の入れ替わりも従来より増え、その都度ノウハウや知識を一から習得する必要があります。
また、テレワークやフレックス制度の導入など働き方の多様化により、社員同士のコミュニケーションが減っています。これにより、社員個人に蓄積されたナレッジが社内に共有されにくいのが現状です。
このような背景によって、ナレッジマネジメントの重要性が高まっており、取り組みを急ぐ企業が増えています。
ナレッジマネジメントを行うメリット
ナレッジマネジメントを行うことで、以下のようなさまざまなメリットが得られます。
- 業務の効率化・生産性の向上
- 業務の属人化を防げる
- 社員のスキルアップに活かせる
- 組織内連携の強化
- 新たなナレッジの創出
社員が個々に持つノウハウや知識などのナレッジを共有し蓄積することで、業務を効率化し、属人化を防げるといったメリットがあります。情報共有により、社員教育や顧客対応の強化にも繋がり、企業の生産性向上も期待できます。
また、企業内の連携が強化され、蓄積された情報から新たなナレッジが生まれることにより、企業競争で勝ち抜くきっかけにもなります。
ナレッジマネジメントの進め方
ナレッジマネジメントを成功させるには、適切なステップを踏んで社内に浸透させていくことが重要なポイントとなります。ここからは、ナレッジマネジメントの進め方を手順に沿って解説します。
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ナレッジマネジメントの進め方
目的を明確にする
ナレッジマネジメントを進める際にまず行うべきステップは、目的を明確にすることです。なぜナレッジマネジメントが必要なのか、その理由となる自社の課題を洗い出して、どのような成果を得ることが目的なのか明確にする必要があります。
目的が定まっていない状態でナレッジマネジメントを進めると、社員に理解を得られないことで蓄積すべきナレッジが収集できず、業務に活用できないケースもあります。よって、明確な目的を社員全員に周知させることから始めるべきです。
ナレッジマネジメントの管理推進者を配置する
ナレッジマネジメントを社内に定着させるには、リーダーとなる管理推進者を配置する必要があります。ナレッジの共有・蓄積を推進し、活用しやすい環境を整えることが管理推進者の役割です。
管理推進者は、ナレッジマネジメントのプロセスを理解し、率先してナレッジの共有を行いましょう。先頭に立って社員にナレッジ共有を促進することで、ナレッジの収集スピードが上がり、業務に有効活用できるようになります。
ナレッジを集約する場所を決める
ナレッジマネジメントを進めるには、ナレッジを集約する場所を決めておかなければなりません。ナレッジが1か所にまとめられる状態にしておかないと、ナレッジの蓄積と共有がスムーズに進みません。
ナレッジの集約の場として活用できるツールはさまざまあり、Excelなど既存のツールで行うことも可能ですが、収集・整理のしやすさや検索・閲覧のしやすさが重要になります。
効率的に集約したいなら、専用のナレッジマネジメントツールの導入がおすすめです。ナレッジマネジメントツールにはナレッジの蓄積・共有を行うための機能が揃っているため、簡単にナレッジの管理をすることができます。
ナレッジマネジメントツールを導入するメリット
ナレッジマネジメントツールを導入することで、ナレッジマネジメントそのもののメリットに加えて以下のようなメリットが得られます。
- ナレッジの整理・検索が効率化できる
- 他システムとの連携ができる
- ナレッジの分析ができるため経営戦略に活かせる
ナレッジマネジメントツールを活用すればナレッジを体系的にまとめやすくなるため、ナレッジの整理や検索もしやすくなります。また、他システムと連携すれば、ツール同士の情報共有を促進できるため、ナレッジの収集が捗ります。
登録されたデータからナレッジの分析もできるため、さらに生産性を向上させるにはどうしたら良いかなど、経営戦略の立案にも役立ちます。
ナレッジマネジメントツールとは?導入のメリットや選び方を解説
ナレッジマネジメントツールとは、社員が持つ知識や経験などを社内で共有するためのツールです。本記事では、ナレッジマネジメントツールをよく知らない方・導入を検討している方のために、ナレッジマネジメントツールの機能やメリット・デメリット、選び方を解説しています。
収集するナレッジを定める
ナレッジマネジメントを進めるには、収集するナレッジの設定を行うことが重要です。目的を達成するために必要なナレッジの内容を定め、社員にどのようなナレッジを共有すべきか周知しておきます。
収集したいナレッジを具体的に設定することで、社員はどのようなナレッジを共有すべきか理解でき、積極的にナレッジの提供に取り組むことができます。
なお、社員にヒアリングをしてどのようなナレッジが必要だと感じているのか把握する方法も有効です。ナレッジマネジメントの必要性を周知すると同時に、ナレッジをより充実したものにすることができ、ナレッジマネジメントの取り組みを成功に導きます。
ナレッジの共有・活用を促す仕組みを整備する
スムーズにナレッジマネジメントを社内に浸透させるためには、ナレッジ共有・活用を促すための仕組みを整備する必要があります。
社員に対し、ナレッジマネジメントの取り組みについて理解を得るために、説明会の実施は事前に行いましょう。さらに、ナレッジ共有・活用の促進施策として、評価制度・インセンティブへの反映などを検討すると良いでしょう。
ナレッジを収集・蓄積する
体制が整ったら、実際にナレッジの収集・蓄積を行います。管理推進者を中心に、個々人が持つ知識を収集していくことから始めましょう。
ナレッジを収集・蓄積する際は、以下のような方法論が役立ちます。ナレッジ化の基礎理論である「SECIモデル」や、新しい方法論として注目される「KCS」などのフレームワークを参考にすることで、収集・蓄積したナレッジを効率的に活用できます。
SECIモデル
SECIモデルとは、個人が持つ知識や経験を指す「暗黙知」を、組織に共有することを指す「形式知化」にて、新たなナレッジを生み出すための方法論です。
暗黙知を形式知化に変換することで、社員個人が持つスキルが社内全体に共有されるようになります。SEKIモデルは、以下の4ステップで構成されており、繰り返し実践することで、新しいナレッジを創出していくことができます。
- 共同化(Socialization)
- 表出化(Externalization)
- 連結化(Combination)
- 内面化(Internalization)
KCS
KCSとは、「Knowledge‐Centered Service(ナレッジセンターサービス)」の略で、ナレッジの構造化・再利用・改善といった一連の流れを実践する、ナレッジマネジメントの新しいナレッジ管理の方法論です。
KCSは主にコールセンターや、ヘルプデスクの運用で活用されています。問い合わせに対して、担当者の知識の有無に関わらず必ずナレッジの登録を確認する方法です。毎回検索をして確認することで、担当者の認識とナレッジの質を高めることができます。
対象のナレッジの登録がない場合は担当者がすぐに登録を行います。ナレッジの収集・活用を業務の中心に据えることで、ナレッジマネジメントの運用が大きく改善する効果が期待できます。
ナレッジが活用されているか確認する
ナレッジの収集・蓄積を始めたら、ナレッジ共有・活用が適切に行われているか、定期的に確認する必要があります。社員が共有するナレッジの質や効果を適正に評価し、改善を繰り返すことで、企業力を高めることができます。
ナレッジマネジメントの効果を測定する例としては、KGI(最終目標)・KPI(中間目標)を基にした測定方法があります。企業がKGI・KPIで設定した目標値が、ナレッジマネジメントによってどのように変化しているか数値で測定できます。
また、社員個人のおける効果測定では、MBO(目標管理)を基にした測定方法にて効果を判断できます。
ナレッジに頼りすぎない姿勢も大切
ナレッジを活用することはもちろん大切ですが、既に蓄積されたナレッジに頼りすぎると新たなナレッジの創造が滞り、組織の成長というナレッジマネジメントの大きな目的から遠ざかってしまいます。
社員の思考力やモチベーションを低下させないためにも、ナレッジの参照によって業務の効率化を図りつつ、新しい知識やスキルを取り入れようとする姿勢や、今の知識やスキルをブラッシュアップしようとする意識を高めるマネジメントを行わなければなりません。
ナレッジマネジメントのメリットの1つである「新たなナレッジの創出」が実現できるよう、ナレッジに対する考え方についてもしっかり教育しましょう。
PDCAを回して継続的な改善を図る
ナレッジマネジメントの効果を確認したら、改善点を見つけて改善策を実施していきましょう。ナレッジマネジメントに限ったことではありませんが、長期的に取り組む施策ではPDCA(Plan、Do、Check、Action)のサイクルを回して常に改善を図ることが重要です。
運用を進めながら上手くいっている部分、上手くいっていない部分を把握し、上手くいっていない部分に関しては追加で補助的な施策を立案し、実行に移していくことで運用効果の向上を実現できます。このステップも、管理推進者の役割の1つです。
ナレッジマネジメントの4つの手法
ナレッジマネジメントを進める上で、知っておきたい4つの手法があります。それぞれの手法に特徴があり、目的や活用方法が異なるため、自社の課題に合った手法を取り入れると良いでしょう。以下では、ナレッジマネジメントの手法について解説します。
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ナレッジマネジメントの4つの手法
経営資本・戦略策定型
経営資本・戦略策定型は、組織が持つ知識を分析し、経営戦略に活かす手法です。組織内のデータだけでなく、競合他社など組織外の分析も行います。分析結果によって、自社の業務プロセスを洗い出し、課題が見つかりやすくなります。
また、競合他社の中にある自社の立ち位置も把握できます。経営資本・戦略策定型の手法により、戦略的な判断ができるため、業務プロセスの改善や見直しを検討する際に役立ちます。
専門知識共有型
専門知識型は、ネットワークを活用して、組織内外の専門知識をデータベース化する手法です。専門知識や問い合わせが多い事項をFAQなどにデータベース化することで、検索や閲覧がしやすくなります。
専門知識型の手法は、ヘルプデスクや問い合わせの多い部門などで活用されています。データベース化し共有することで、社員のスキルや専門性を高めることができます。
ベストプラクティス型
ベストプラクティス共有型は、組織内で優秀な評価を得る社員の思考や行動を形式知化し、ナレッジとして共有する手法です。優秀な社員の成功例を分析・形式知化することで、社員のスキルアップに繋がります。
身近な成功者のノウハウを得ることで、生産性向上への近道にもなります。
顧客知識共有型
顧客知識共有型は、顧客への対応やクレーム内容などの情報をデータベース化し、共有する手法です。クレームが発生した場合などの顧客対応に活用できます。顧客知識共有型の手法により、顧客対応の標準化が図れることから、顧客満足度の向上にも繋がります。
また、事例はクレームだけでなく、アンケート結果などで得た顧客の声も情報として収集・蓄積できます。これにより、蓄積した情報は商品やサービスの品質向上や、商品開発の際にも活用することができます。
ナレッジマネジメントの失敗例と対策
ナレッジマネジメントは進め方によっては、失敗を招く可能性があります。失敗を回避するためにも、失敗例とその対策をチェックしておくと良いでしょう。ここからは、ナレッジマネジメントが失敗する原因と、対策について解説します。
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ナレッジマネジメントの失敗例と対策
ナレッジマネジメントツールが活用されない
ナレッジマネジメントツールを導入しても活用されない原因は、ツールが自社の目的に合っていないことや、社員がツールの操作方法を理解していないことなどが挙げられます。ツールを導入する際は、目的を明確にして社員に周知させなければなりません。
また、ツールの操作や画面が複雑だと活用されにくいため、シンプルな操作なものを選ぶ必要があります。活用を促進するためには、上司が率先して活用したり、評価制度に取り入れたりするなどの対策も必要です。
ナレッジが集まらない
ナレッジが集まらない原因は、ナレッジを共有するのが面倒、ナレッジ共有のための時間を割けられない、ナレッジマネジメントに対する理解が不十分といった理由が挙げられます。
ナレッジを集めることにより、社員が得られるメリットを周知することが重要です。また、どのようなナレッジを共有するのか、いつナレッジ共有を行うのかなど、管理推進者を中心にナレッジが集まりやすい環境づくりの対策を行いましょう。
ナレッジが活用されない
ナレッジを収集・蓄積しても、社員に活用されない状態では意味がありません。ナレッジが活用されない原因は、社員全員で取り組んでいなかったり、活用方法が周知されていなかったりすることが考えられます。
ナレッジを活用してもらうには、社員全員にナレッジマネジメントツールの使い方を教えることや、ナレッジ活用をしやすくするため組織風土改革を行うのが、対策として効果的です。
ナレッジが整理されていない
ナレッジマネジメントの失敗を招く原因として、ナレッジが整理されていないことが挙げられます。ナレッジを収集する場所が点在していたり、ナレッジが更新されず陳腐化していたりすると、活用しにくい状態にあるため効果が得られません。
ナレッジマネジメントは、ナレッジの整理が基本となります。収集する場所を1箇所に決め、古いナレッジは定期的に更新する必要があります。陳腐化したナレッジが増えていくと、検索しても古い情報ばかりがヒットして欲しい情報になかなか辿り着けません。
業務効率化のためにも、ナレッジの整理は定期的に行いましょう。
暗黙知を形式知にできない
「暗黙知」とは、個人が持つ知識や経験を指し、潜在的なナレッジと言えます。これに対し
「形式知」とは、組織の誰もが知っている知識や経験を指す顕在的なナレッジです。ナレッジマネジメントは、暗黙知を形式知に変換できなければ効果が得られません。
暗黙知が形式知化されない原因は、暗黙知をデータベース化する作業に時間がかかることで煩雑さを感じたり、時間を割けなかったりすることが挙げられます。また、どのように暗黙知を形式知に変換したら良いのかわからない、といったことも考えられます。
形式知への変換を効率的に行うためには、使いやすいナレッジマネジメントツールの導入や、SECIモデルなど形式知への変換方法を十分に教育する必要があります。
まとめ
ナレッジマネジメントの取り組みを開始する際は、目標を明確にし、自社に合った手法や、SECIモデル・KCS等の方法論を取り入れながら、進めていくことが重要です。適切なステップで段階を踏んでいくことで、業務が大幅に改善されることが期待できます。
しかし、取り組みの仕方によっては、失敗を招く可能性も少なくありません。失敗例も把握したうえで、あらかじめ対策を取りながら進めていくのがポイントです。
ナレッジマネジメントを効率的に実施して、社内に浸透させるには、ナレッジマネジメントツールの導入がおすすめです。自社に合ったツールを導入して、ナレッジを共有・活用しやすい環境を整えましょう。
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