派遣社員の労務管理における責任の所在は?派遣会社・派遣先企業の違い

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  • 派遣社員の労働時間や休日、安全衛生教育などに関する労務管理は派遣先企業が行う
  • 派遣社員への賃金の支払い、有給休暇の管理などに関する労務管理は派遣会社が行う
  • 派遣先企業は、派遣契約締結・受け入れに関する制度を遵守しなければならない

派遣社員は派遣会社と雇用契約を結び、派遣先企業で就業する働き方です。そのため、派遣社員の労務管理は派遣会社・派遣先企業の双方で行う必要があります。本記事では、派遣社員の受け入れを検討する方・受け入れ中の方に向けて、労務管理の責任の所在や注意点を解説します。

目次

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  1. そもそも派遣社員とは
  2. 派遣社員の労務管理方法
  3. 派遣社員の労務管理における注意点
  4. 労務管理を効率化して行う方法
  5. 労務管理をスムーズに行うためのポイント
  6. 労務管理に関するトラブルの対処法
  7. まとめ

そもそも派遣社員とは

派遣社員とは、派遣会社と雇用契約を結んだ労働者のことです。自社と直接的な雇用契約を結ぶ、正社員・契約社員・アルバイト・パートとは異なり、派遣社員の業務内容や勤務条件は、派遣会社との契約に基づいて決められます。

そのため、派遣社員の労務管理は、正社員やアルバイトなどの直接雇用の労務管理とは、異なる部分があります。派遣会社が行うべき労務管理と、派遣先企業で行うべき労務管理があり、派遣社員を受け入れる場合は適切な労務管理方法を理解しなければいけません。

派遣社員の労務管理方法

派遣社員の労務管理は、管理する項目によって責任の所在が異なるため、派遣先企業と派遣会社との間で連携して行います。以下の表に、派遣先企業と派遣会社において、それぞれが管理すべき項目をまとめます。

責任の所在労務管理項目
派遣先企業・勤怠管理(時間外労働・休日労働の管理を含む)
・安全衛生教育
・特殊健康診断
派遣会社・労働契約
・給与計算
・賃金の支払い
・災害補償
・一般健康診断
・有給休暇・産前産後休業の管理

上記の労務管理は、労働基準法や労働安全衛生法を含めた労働法に基づいています。そのため、派遣先企業・派遣会社は各項目について適切に管理しなければいけません。

なお、常時雇用する労働者が50人以上の事業場においては、業種を問わず衛生管理者を選任する必要がありますが、労働者の中には派遣社員も含まれます。

参考:衛生管理者について教えてください。|厚生労働省

労働時間・休日などの管理は派遣先企業が行う

労働時間・休日・時間外労働・休日労働などは、責任の所在が派遣先企業にあるため、適切に管理する必要があります。就業時間・休憩時間など、日々の労働時間の管理に加え、遅刻・早退が発生した場合の情報管理や調整も行います。

休日の管理には、休日出勤の管理・調整も含まれており、時間外労働の管理責任も派遣先企業が負います。ただし、休日出勤や時間外労働については、事前に派遣企業への確認を行わなければなりません

労働時間の管理以外では、労働災害を防止する目的で行う安全衛生教育の実施も、派遣先企業の責任の下で行います。また、労働安全衛生法で有害と定められた業務における特殊健康診断は、原則として派遣先企業が執り行います。

参考:36協定で定める時間外労働及び休日労働について留意すべき事項に関する指針|厚生労働省

賃金の支払い・有給休暇などの管理は派遣会社が行う

賃金の支払い管理を行うのは、派遣社員と雇用契約を結ぶ派遣会社です。賃金の管理には、時給や振込先口座の管理も含まれます。そのため、派遣社員が派遣先企業に対して、振込先口座の変更希望や時給交渉をしても、派遣先企業にはそれらを変更する権限はありません。

また、年次有給休暇や産前産後休業の管理も派遣会社が行います。ただし、休日の管理は派遣先企業が行うため、派遣社員が休む場合は、事前に派遣先企業への相談・報告が求められます

さらに、勤務中や通勤中のケガ・病気など、災害補償の管理も派遣会社が行います。なお、健康診断については、特殊健康診断の場合は派遣先企業が行いますが、一般健康診断の場合は派遣会社が実施します。

派遣社員の労務管理における注意点

派遣社員の労務管理は、契約内容や法律に基づいて行うことが大切です。ここでは、派遣社員の労務管理における注意点について解説します。

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派遣先企業と派遣社員の間に雇用関係はない

派遣社員は、派遣会社と雇用契約を結んでおり、派遣先企業との間に直接的な雇用関係はありません。そのため、派遣先企業は直接雇用の従業員と同じように扱うことはできず、以下の点に注意する必要があります

  1. 労働者派遣契約書に記載のない業務は、派遣社員に依頼できない
  2. 労働者派遣契約書に記載のない出張・残業・接待などは依頼できない
  3. 所属部署以外での業務や、部署の移動はできない

労働者派遣契約書とは、派遣会社と派遣先企業の間で交わされる契約書のことです。派遣社員は、派遣会社と派遣先企業が労働者派遣契約を結ぶことにより、派遣先企業で働くことができます。

参考:第5 労働者派遣契約|厚生労働省

派遣先企業は派遣社員に対して指揮命令権を持つ

労働者派遣契約によって、派遣先企業は派遣社員に対する指揮命令権を持つことができるのが特徴です。指揮命令権とは、業務上の指示を行う権限のことです。

派遣社員は、業務内容が労働者派遣契約によって定められています。そのため、派遣先企業は、契約の範囲内で業務上の指示を行わなければなりません。

また、派遣社員を派遣先企業から別の企業へと派遣させる「二重派遣」は禁止されています。派遣先企業以外の人が派遣社員に業務指示を出すのも、二重派遣になります。したがって、子会社や別の企業と共同業務を進める際には、十分に気をつけるようにしましょう。

参考:労働者派遣法第24条の2|e-Gov法令検索

契約変更の際は3者間の同意が必要となる

派遣先企業は、独断で契約内容を変更することはできません。契約変更を行う際は、派遣先企業・派遣会社・派遣社員の3者間で協議を行い、同意することが求められます。この同意には、派遣先企業と派遣会社だけではなく、派遣社員からの同意も含まれます。

派遣先企業は、労働者派遣契約にはない業務を派遣社員に課すことはできません。そのため、業務の変更が必要な場合は、事前に協議が必要です。些細な変更だったとしても、契約内容に反する場合は事前に協議を行い、3者間で同意しなければなりません。

派遣契約締結・受け入れに関する制度を遵守する

派遣先企業は、派遣労働契約の内容だけではなく、契約に関する制度についても理解しておくことが重要です。ここでは、派遣契約締結と受け入れに関する制度を遵守することについて解説します。

参考:派遣先の皆様へ|厚生労働省・都道府県労働局・ハローワーク

参考:派遣先の皆様へ|厚生労働省・都道府県労働局

時間外労働を求めるには36協定の締結が必要

36協定とは、労働基準法第36条に基づく労使協定のことです。法定労働時間を超えて労働させたり、休日労働をさせたりする場合には、労働者との間で36協定の取り決めを行う必要があります。また、所轄の労働基準監督署長への届出も求められます。

派遣先企業が派遣社員に時間外労働を求める場合は、派遣会社と派遣社員の間で36協定が結ばれている必要があります。なお、法定労働時間は「1日8時間・週40時間」であり、36協定を結んでいない派遣社員に、法定労働時間を超える労働を求めることはできません。

36協定の締結は、労働者の過半数で組織する労働組合、または労働者の過半数を代表する者と企業との間で締結します。

参考:36協定で定める時間外労働及び休日労働について留意すべき事項に関する指針|厚生労働省

参考:サブロク協定をご存知ですか?|国土交通省

派遣先責任者の選任・派遣先管理台帳の作成が必要

派遣先責任者とは、派遣社員が安全かつ円滑に業務を遂行できることを目的とし、派遣社員に関連する管理や調整を行う役割を担う者です。派遣先企業が派遣社員を1人でも受け入れる場合には、必ず派遣先責任者を選任しなければいけません

派遣先責任者は100人につき1人必要なため、仮に101人の派遣社員を受け入れている場合の派遣先責任者は2人です。なお、派遣先責任者は派遣先企業と雇用契約を結ぶ従業員から選任されます。

派遣先責任者は、労働者派遣契約の遵守・派遣会社との連絡や調整・派遣社員からの苦情処理などを行います。また、派遣社員ごとに、氏名・派遣元企業名・派遣就業日といった情報を管理するための「派遣先管理台帳」を作成する必要があります。

参考:労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律|e-Gov法令検索

離職後1年以内の労働者派遣は禁止されている

派遣社員の労務管理は、労働基準法や労働安全衛生法などに加え、労働者派遣法を遵守することが求められます。

例えば、労働者派遣法では、企業が直接雇用していた労働者を離職後1年以内に派遣社員として受け入れることを禁止しています。直接雇用の全従業員が対象となり、契約社員やアルバイトも含まれます。

これは、企業が直接雇用すべき労働者を派遣労働者にして、不当に利益を得ることを回避するための規制です。したがって、派遣会社も派遣社員を離職後1年以内の企業に派遣してはなりません。

労働者派遣法では、他にも均衡待遇・福利厚生・教育訓練などについて、派遣先企業の義務を定めています。派遣社員を受け入れる際には、必ず確認しておきましょう。

参考:離職後1年以内の労働者派遣の禁止について |厚生労働省

労務管理を効率化して行う方法

派遣社員の労務管理は、直接雇用の従業員に対する労務管理よりも複雑化しやすい傾向があります。ここでは、派遣社員の労務管理を行う方法について解説します。

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人材派遣管理システムを活用する

人材派遣管理システムとは、派遣社員に関わる管理業務を効率化するためのシステムです。勤怠管理機能や派遣社員の情報管理機能が備わっています。また、求人媒体と連携して情報を一元管理できる求人案件管理機能や、契約書管理機能が備わっているものもあります。

人材派遣管理システムを活用するメリット・デメリットは、以下の表にまとめた通りです。適切な人材派遣管理システムを選ぶためには、導入目的を明確にすることが大切であり、無料版がある場合には積極的に活用し、機能や操作性を確かめることを推奨します。

メリットデメリット
・情報の一元管理による業務効率化
・ペーパーレス化の実現
・後のシステム変更が難しい
・さまざまな形態のシステムがあり、適切な選定が重要

人材派遣管理システムとは|機能やメリット・デメリットを解説

人材派遣業では扱うデータが膨大にありますが、人材派遣管理システムを導入することで、人材派遣業に関わる情報を一元管理でき、業務が効率化します。本記事では、人材派遣管理システムの特徴や主な機能、メリットデメリットの他、選び方・導入する際の比較ポイントを解説します。

派遣管理デスクを活用する

派遣管理デスクとは、人材派遣に関する業務について、複数の派遣会社との交渉や手続きも含めた管理業務を請け負うアウトソーシングサービスです。MSP(Managed Service Program)とも呼ばれます。

派遣管理デスクでは、人材派遣管理システムの導入・運用だけでなく、システムでカバーできない業務を依頼することもできます。以下の表に、派遣管理デスクを活用するメリット・デメリットをまとめます。

メリットデメリット
・派遣社員に関する管理業務の効率化
・採用業務の依頼ができる
・派遣会社との調整を代行できる
・採用プロセス・採用コストが可視化されやすい
・安定的な人材の供給や定着を支援
・社内に管理のノウハウが蓄積されない
・費用対効果を検討することが重要

労務管理をスムーズに行うためのポイント

直接雇用の正社員・アルバイトなどとは異なり、派遣社員の労務管理では独自の理解しておきたいポイントがあります。特に、スムーズな労務管理を行うためには、以下の点について把握しておきましょう。

自社が管理する意識を持たないようにする

派遣社員は自社の業務に大切な人材ですが、賃金・休暇などに関する規定は派遣会社が管理を行います。そして、就業時間は派遣先企業に準ずることになりますが、時間外労働などの変更がある場合には必ず3者間の同意が求められます。

したがって、自社がすべてを管理する他の従業員などとは異なり、人力を借りている意識を持つことが大切です。派遣社員は自社の社員としても考えられますが、主に派遣会社の社員です。よって、立場の違いを十分に把握しつつ、適切な労務管理を行いましょう

36協定を遵守した勤怠管理を徹底する

直接雇用の従業員に対しては、繁忙期などに合わせて特別な取り決めを行わずとも、時間外労働を課すことができます。しかし、派遣社員の場合は、契約の際に定めた勤務形態・就業時間に変更がある際、事前に派遣会社への報告が必要です。

仮に勤怠管理を疎かにし、契約とは違う就業時間で業務を遂行させていた場合、36協定違反として罰せられる可能性があります。そのため、勤怠管理の方法や業務内容には常に注意を払い、契約時との差異がないようにしなければなりません

勤怠管理を適切に行うことで、労務管理の効率化にもつながります。

労務管理に関するトラブルの対処法

派遣社員の労務管理については、問題が起こらないように、法律・契約に基づく管理方法の理解を共有することが大切です。しかし、事前に対策をしていたとしても、派遣会社・派遣先企業・派遣社員の3者間でトラブルが発生する場合があります。

その際は、3者間で話し合うことが必要ですが、話し合いで解決できなかった場合は、労働局・ハローワーク・労働基準監督署などへの相談を視野に入れましょう。例えば、労働局では、労働派遣に関する制度や手続き上の疑問について相談窓口を設けています。

また、労働基準監督署では、労働基準法に関係するトラブル全般について相談を受け付けています。

まとめ

派遣社員は、企業が直接雇用する正社員やアルバイトとは異なり、責任の所在を理解した上で労務管理を行わなければいけません。例えば、勤怠管理は派遣先企業が行いますが、賃金の支払いや有給休暇の管理などは、派遣社員と雇用契約を結ぶ派遣会社が行います。

また、派遣社員の労務管理は、労働者派遣契約に基づいたものでなければならず、契約にない業務や契約違反となる業務を指示することはできません。特に、派遣会社と派遣社員の36協定が締結されていなければ時間外労働を課せられないため、法律の理解も重要です。

派遣社員に関する業務を効率化するなら、人材派遣管理システムや人材派遣管理デスクの活用が推奨されます。これにより、社内のコアの業務に効果的にリソースを割くことができます。人材を適切かつ効果的に活用するために、さまざまな方法を考慮しましょう。

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