給与前払いサービスは違法?法律上の問題や違法業者の見分け方を解説
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- 給与前払いサービスは、従業員が希望するタイミングで給与を受け取れるサービスである
- 給与前払いサービスは違法ではないが、賃金業登録や賃金移動業の資格がない業者は違法
- サービス内容の記載が明確か、手数料が高すぎないか確認し、悪質業者であるか判断する
給与前払いサービスとは、従業員が希望するタイミングで給与を受け取れるサービスです。金融庁の見解から原則違法ではありませんが、法律に違反しているケースもあります。本記事では、給与前払いサービスの法律上の問題を中心に、見極める方法などを解説します。
目次
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給与前払いサービスは違法になるのか
給与前払いとは、従業員が通常の給与支給日よりも前に、それまで働いた分の給与を受給できる制度のことです。これにより、予期せぬ事態で急な出費が必要になった場合に、有効な手段として利用できます。
しかし、給料日前に給与を受け取ることは違法にはならないのか、気になるところです。原則として、適切な手続きや制度に従って行われている場合は違法性を指摘されることはありませんが、ケースによっては違法になる場合があります。
そこで、本記事では、給与前払いサービスの法律上の問題や違法・悪徳の給与前払いサービスを見極める方法、法的なリスクなどを中心にわかりやすく解説します。
給与の前払いは労働基準法で定められている
給与の前払い自体は、労働基準法第二十五条に、従業員が生計を営むために急な経済的困難に直面している状況において、企業が「非常時払」を実施するための要件が規定されています。
つまり、従業員が健康上の都合や冠婚葬祭などにより、突発的に経済的な出費が必要となった場合において、企業は給料支給日前であっても、従業員に対してそれまで働いた分の給与を前払いすることを定めています。
給与の「前借り」はできない
前述の労働基準法二十五条では、従業員に出産・疾病・災害などの事態が発生した際に、急な出費が必要な場合には、企業は給料日前でも給料を支払うように規定しています。
この条文で定めている内容は、すでに行った労働に対する給与を給料日前でも支払うことです。すなわち、これから行う予定の労働に対して給料を支払う「前借り」に対する規定ではありません。
したがって、「前払い」と「前借り」は相異するものとされ、企業は「前借り」に対して応じる義務はありません。
給与前払いサービスは原則違法ではない
金融庁は「グレーゾーン解消制度」に基づいて、平成30年に行われた給与前払いサービスが「貸金業法2条1項の貸金業に該当するか」という質問に対し、「貸金業に該当しない」という見解を示しています。
そのため、企業による従業員への前払い制度が適切な手続きや方法に従って行われている場合には、原則違法とはされず、違法性を指摘されることはありません。
給与ファクタリングには注意が必要
給与ファクタリングとは、ファクタリング業者が従業員から給与債権を買い取るという名目で現金を支払う契約です。例えば、従業員が給料日前にファクタリング業者から7万円を受け取り、給料日にファクタリング業者に10万円を返済する処理を指します。
原則、給与ファクタリング業者は貸金業者登録が必要となります。しかし、多くのケースでファクタリング業者は貸金業者登録をしておらず、利息制限法を大きく上回る暴利で貸付を行うケースが多いため、明確に違法であるとされています。
このように、給与前払いサービスと給与ファクタリングの内容は大きく異なっており、給与ファクタリングを行う違法な業者も多いため、金融庁などからも注意喚起されています。よって、自社の従業員が給与ファクタリングに関与していないか、厳重な注意が必要です。
参考:給与の買取りをうたった違法なヤミ金融にご注意ください!|金融庁
給与前払いサービスの法律上の問題
給与前払いサービスは原則として違法ではありませんが、法律上の問題が起こる場合もあります。ここからは、給与前払いサービスの法律上の問題の可能性として、以下の項目について詳しく解説します。
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給与前払いサービスの法律上の問題
立替型は借金にあたる場合がある
給与前払いサービスを提供している会社が、「立替型」を採用している場合は、法律に抵触する場合があります。「立替型」の場合は、実際の支払いはサービス提供会社が行うことになります。
サービス提供会が立て替えた分は後日企業側が支払うことになりますが、このタイムギャップにより、サービス提供会社がお金を貸している「貸付け行為」とみなされる可能性があります。
貸付け行為とみなされた場合、給与前払いサービスの利用で発生する手数料が「貸付利息」とみなされます。そのため、前払い金額や給料日までの日数によって、手数料の額が「利息制限法」に抵触しないか注意しなければなりません。
賃金業に該当する可能性がある
「立替型」の給与前払いサービスを提供している会社を利用した場合、申請した従業員に対してサービス会社が金額を立て替えて支払います。このケースでは、企業側が提供会社から一時的な「借金」をしていることになります。
そのため、サービス提供会社は、金融庁が定める貸金業法により「貸金業登録」が必要となります。もし、貸金業者の登録をしないまま前払い資金を立て替えると、賃金業法違反になる可能性があります。
給与前払いサービスが「立替型」の場合は、サービス会社が「貸金業登録」をしているかどうか、金融庁の「登録貸金業者情報検索入力ページ」などを利用して、事前チェックを行うようにしましょう。
無資格の預託型サービスは違法
企業が給与前払いサービス会社に対して、事前に前払い金を預託する場合、サービス会社から従業員への前払い金の支払いは為替取引として扱われます。通常、100万円以下の為替取引を行う場合には「資金移動業者登録」が必要となります。
そのため、給与前払いサービス会社が「資金移動業者登録」を受けずに、企業から前払い金の預託を受けて従業員に支払う場合、必ず違法となるため注意が必要です。
なお、100万円を超える為替取引の場合は銀行業にあたり、一般的に銀行以外は事業として取り扱うことができません。
違法・悪徳の給与前払いサービスでないか見極める方法
近年、給与前払いサービスを行っている会社は多数存在し、さまざまな企業が参入しています。利用するサービス会社が違法・悪徳でないかを見極めるためには、いくつかのポイントに留意することが重要です。
ここでは、サービス会社が安心して利用できる信頼性のあるサービス会社かどうか、見極める際のポイントについて詳しく解説します。
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違法・悪徳の給与前払いサービスでないか見極める方法
サービス内容を明確に記載しているか
給与前払いサービスの導入に際しては、サービス内容の詳細が明確化されていることが重要です。導入によって、従来までの給与計算の方法が変更され、給与・勤怠データの連携や共有なども必要となるため、どこまで委託できるかなどを確認することが大事です。
また、費用やコスト面の確認も大きなポイントになります。利用料や手数料・振込料・支払い方法などは、サービス提供会社により異なります。そのため、費用に関しては、さまざまなケースを想定しつつ、多方面から検討することをおすすめします。
その他に、実際の申請や金額の受け取り方法などが明確で使いやすいことも重要です。仮に、サービスが複雑な場合には利用がスムーズに進まなくなるため、企業や従業員にとってサービス内容がわかりやすく使いやすいことが求められます。
手数料の設定が法外で高すぎないか
給与前払いサービスの手数料が法外・高すぎないかを確認することも重要です。手数料には、大きく分けて「システム利用料(月額)」と「振込手数料」の2種類があります。システム利用料は企業負担が原則となっており、振込手数料は従業員負担が一般的です。
システム利用料には、定率型と定額型があり、定率型の場合、3〜6%で設定されていることが多いです。また、定額型の場合は1件につき200〜400円が相場となっています。どちらを選ぶかは、自社の利用形態を考慮しながら試算・決定するのが良いでしょう。
必要な資格・登録を行っているか
前払いサービスを預託型で行う場合には、サービスの提供会社は「資金移動業」の資格が必要になります。そのため、給与前払いサービスの提供会社が保有している資格や免許について確認することも大事です。
給与前払いサービスの提供会社が、適切な資格・免許を保有しているかを確認する場合には、サービス提供会社のホームページや広告などでチェックできます。通常であれば、登録を受けている資格や免許の登録番号などが表記されているはずです。
また、金融庁のホームページでも登録状況が確認できます。「資金移動業」や「貸金業」というような免許の取得会社の一覧が掲載されており、その一覧からサービス会社の保有状況がチェック可能です。
給与前払いサービスを選ぶ際のその他のポイント
給与前払いサービスを選ぶ際には、機能面やコストなどの他にも、チェックしておきたいポイントがあります。ここでは、その他のポイントとして、以下の項目について解説します。
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給与前払いサービスを選ぶ際のその他のポイント
提携銀行の種類・数を確認
給与前払いサービスを選ぶ際には、提携銀行の種類や数を確認することが重要です。提携している銀行が多い場合には、銀行口座への振り込みが手軽に行えたり、従業員が利用するATMの手数料が無料になったりするため、利便性が高まります。
また、近年はコンビニなどに設置されているATMでも現金を引き出すことが多くなっています。よって、提携銀行に加えてコンビニのATMなどの利用が可能かどうか、導入前に確認することをおすすめします。
従業員が使いやすいか
給与前払いサービスを選ぶ際、利用する従業員が使いやすいかどうかは非常に大事なポイントになります。従業員が給与前払いの申請を行う際、スマートフォンやパソコンを使って簡単に申請を完了できれば、急な資金ニーズに対応しやすくなります。
また、使いやすい給与前払いサービスは、利用者の満足度を高めるだけでなく、作業効率やモチベーションの向上にもつながります。そのため、企業は従業員の利便性を重視し、使いやすいサービスを選択することが重要です。
海外に送金できるか
外国人労働者が多く働いている企業にとっては、給与前払いサービスで海外送金ができるかどうかを確認しましょう。前払いサービスにおいて海外送金が可能であると、外国人労働者にとっても利便性が高まります。
外国人の従業員は、給与を海外に送金するケースが多いため、給与前払いサービスで国際送金が可能になると、経由するシステムが少なく済みます。そして、前払いの給与を送金する際の海外手数料が低減されるなど、利点も増えます。
給与前払いサービス導入における注意点
違法性のない給与前払いサービスを選択し、従業員のニーズに適切に対応することにはメリットがありますが、導入においてはいくつかの注意点も存在します。ここでは、給与前払いサービス導入における注意点として、以下の項目を解説します。
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給与前払いサービス導入における注意点
勤怠管理データとの連携が必要
給与前払いサービスを利用する際、従来の給与振込日とは異なり、別途給与計算をする必要があります。つまり、すでに利用している勤怠管理データと連携し、個別の勤務時間から正確な給与を計算しなければなりません。
そのため、既存の勤怠管理システムなどがある場合、利用する給与前払いサービスと連携できるかを確認しましょう。勤怠管理データとの連携・照合は、従業員数が多いほど作業負担が大きくなるため、事前に把握しておくことがおすすめです。
ニーズがないと利用されない
給与前払いサービスの導入を検討するなら、まずは自社の従業員に前払いサービスを利用するニーズがあるかを確認しましょう。仮に、一切利用されない場合は導入コストが無駄になってしまいます。
また、サービスの利用における手数料が高すぎると、2度目以降全く利用されなくなることも考えられます。そのため、企業負担が大きいサービスを選択するか、従業員負担が大きいサービスを選択するか、自社の規模・目的に合わせて選択することが大切です。
まとめ
給与前払いサービスは、従業員の利便性を高める手段として注目されています。ただし、特定の法律に従わない場合や、高金利・不透明な手数料の設定などがある場合は違法とみなされる可能性が高まります。
したがって、給与前払いサービスを選ぶ際には、法的な規制や提供会社の資格保有などを確認し、利用者の使いやすさにも注目しながら信頼性の高いサービスを選定することが重要です。
これらを踏まえながら、法令を遵守しつつ、合法かつ効果的な給与前払いサービスを導入するようにしましょう。
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