資産除去債務とは|会計基準や仕訳方法をわかりやすく解説
Check!
- 資産除去債務とは、有形固定資産を取得するときに発生する負債
- 将来、有形固定資産を撤去するための費用を見積もり、負債として計上する
- 資産除去債務の会計処理は複雑であるため、システムの導入がおすすめ
資産除去債務とは、将来、施設や設備を撤去するためにかかる費用を見積もって、あらかじめ負債として計上する会計手法のことです。本記事では、資産除去債務が導入された背景に触れ、会計基準や仕訳方法、固定資産管理システムの導入がおすすめな理由をわかりやすく解説します。
おすすめ記事
目次
開く
閉じる
開く
閉じる
資産除去債務とは
資産除去債務とは、企業が将来的にその資産を撤去・除去することが義務付けられている有形固定資産を取得する場合に、その撤去・除去で発生すると見込まれる費用を現在価値で計上する負債のことを指します。
例えば、企業が原発やガスプラントなどの大型施設を建設した場合、将来的にその施設を撤去する責任が発生することが多いです。このような撤去義務に関連する将来の支出を現在の金額で計上することで、実際の財務状況を反映させることが目的となっています。
この資産除去債務は、企業の財務諸表上での負債として計上され、その後の経営活動や投資判断に影響を与える要素です。資産除去債務の計上は、企業の財務健全性を示す指標としても利用されるため、経営者や投資家にとっても重要な情報となっています。
参考:企業会計基準第18号「資産除去債務に関する会計基準」及び企業会計基準適用指針第21号「資産除去債務に関する会計基準の適用指針」の公表|企業会計基準委員会
資産除去債務が発生する具体例
資産除去債務は、特定の有形固定資産の取得や利用に伴い、将来的な撤去や除去の義務が発生する場合に計上されます。
例えば、原子力発電所の建設においては、将来的にその施設を解体し、廃棄物を適切に処理する義務が発生します。この解体や廃棄物処理にかかる費用が、資産除去債務として計上されることが一般的です。
また、油田やガス田開発のケースでは、開発後、資源の採掘が終了すると、その場所を自然の状態に戻す責任が発生することが多いです。この原状回復作業に必要な費用が、資産除去債務として認識されることがあります。
以下、資産除去債務の対象となる除去の具体例について、表にまとめました。
資産除去の具体例 | 内容 |
---|---|
建物の解体 | 古い建物や施設を解体する作業 |
生産設備の撤去 | 工場内の機械や設備を取り除く作業 |
環境保護設備の除去 | 汚染防止装置や廃棄物処理施設の撤去 |
放射性廃棄物の処理 | 原子力施設の使用済み燃料や放射性廃棄物の処理 |
石油・ガス設備の廃棄 | パイプラインや掘削装置の撤去や埋め戻し作業 |
インフラ設備の撤去 | 橋や道路などの大規模インフラの取り壊しや撤去作業 |
資産除去債務が適用される企業
資産除去債務は、以下に該当する企業で適用されています。
- 金融商品取引法の適用を受ける会社並びにその子会社及び関連会社
- 会計監査人を設置する会社及びその子会社
これらに該当しない中小企業に関しては、中小企業庁が取りまとめる「中小企業の会計」に基づき、現在は計上の義務はありません。
これを引き継ぐ形で民間団体により策定・公表された「中小企業の会計に関する指針」においても、「本指針における資産除去債務の取扱いについては、今後の我が国における企業会計慣行の成熟を踏まえつつ、引き続き検討することとする。」と明記されています。
このように、中小企業においては負担が重くなるため、適用が除外されていますが、上場企業などでは資産除去債務の会計処理が必要となります。
参考:中小企業の会計について|中小企業庁
参考:財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則|e-Gov法令検索
資産除去債務が導入された理由
なぜ、資産除去債務の計上が必要になったかというと、国際的な会計基準を統一する動きに沿ったものであるためです。
資産除去債務は、IFRSでも取り扱われているテーマであり、日本の会計基準がこれを取り入れることで、国際的な基準との一致を図る動きが強まりました。また、企業の環境意識の向上も、資産除去債務が導入された主な理由の一つです。
環境問題への関心の高まりとともに、事業終了後の環境復元の責任が増加しています。このような将来の責任を果たすための費用を、今の事業と一緒に計上することで、企業の本当の財務状況がより分かりやすくなります。
資産除去債務の会計基準
資産除去債務は、企業会計基準第18号「資産除去債務に関する会計基準」により定義されています。この基準は、資産除去債務の定義、会計処理、および開示に関する指針を明示しています。
資産除去債務を負債として計上すると、その負債額と同じだけの費用が帳簿に加わります。この費用は、対象となる資産の残存耐用年数にわたり、少しずつ減価償却して毎年計上されます。
このように、会計上は将来の除去費用を見積もって計上する一方で、税務上は実際に除去費用が発生した時点で費用として認められます。そのため、資産除去債務に関して会計上と税務上とでは差異が生じます。
税効果会計の導入が必要
会計上と税法上の処理の差異をなくすためには、税効果会計の導入が必要です。税効果会計とは、会計上の利益と税法上の所得の間の一時的な差異を調整するための会計処理を指します。
資産除去債務の計上によって生じる会計上の費用と税務上の費用には時間差があるため、その差異を調整するために税効果会計を適用します。具体的には、資産除去債務に関連する繰延税金資産や繰延税金負債を計上し、将来の税負担を適切に反映します。
- 繰延税金資産:将来、税務上の負担が軽減されることを見越して計上する資産。例えば、会計上の除去費用を先に計上し、税務上の費用が後になる場合など。
- 繰延税金負債:将来、税務上の負担が増加することを見越して計上する負債。例えば、税務上の除去費用を先に計上し、会計上の費用が後になる場合など。
繰延税金資産や繰延税金負債を計上することで、将来の税負担を適切に反映します。これにより、会計上の利益と税務上の利益を調整し、企業の財務状況を正確に報告することが可能になります。
参考:税効果会計に係る会計基準の適用指針|企業会計基準委員会
時点別資産除去債務の計算・仕訳方法
資産除去債務は、有形固定資産の取得時に将来発生すると予想される撤去や処分に関する費用を現在価値で計上するものです。そのため、有形固定資産の購入時や決算時、資産を除去した際などに仕訳が必要になります。
\気になる項目をクリックで詳細へジャンプ/
時点別資産除去債務の計算・仕訳方法
有形固定資産を購入した時
資産の購入は単なる取得だけで終わりではありません。特に有形固定資産の場合、その後の処理や撤去にかかる費用も考慮する必要があります。この撤去や処分にかかる費用の概算を、資産除去債務として計上します。
例えば、新しい工場を建設する場合、その工場の寿命が尽きたときにどれくらいの費用がかかるのかを予測し、その額を現在の価値に換算して計上します。
除去費用を算出する際は、将来の撤去方法や処分方法を具体的に考え、それにかかる費用や使用する技術の進歩、割引率の設定など、さまざまな要因を考慮することが重要です。
決算時
決算の時期が近づくと、企業は資産除去債務の調整額の計算や減価償却の計算を行う必要があります。これは、資産の価値が時間とともに変動するため、その会計基準変動を正確に反映させるためのものです。
資産除去債務の調整額の計算では、前回の計算からの変動分や新たな撤去費用の見積もり、割引率の変動などを考慮して、新たな資産除去債務の額を算出します。一方、減価償却の計算では、資産の取得価格や残存価値、使用年数を基に、その年度での償却額を計算します。
2年目以降の決算時
初年度に計上した資産除去債務の額は、その後の経過年数や市場の変動、技術の進歩などによって変動する可能性があります。
そのため、2年目以降の決算時には、前年度の資産除去債務の残高を確認し、新たな撤去費用の見積もりや割引率の変動、さらにはインフレーションの影響などを考慮して、資産除去債務の調整を行う必要があります。
資産を除去した時
有形固定資産の寿命が尽きたり、使用目的がなくなったりした場合、その資産を撤去する必要が生じます。資産を撤去したときは、実際にかかった撤去費用を計上します。
この実際の撤去費用と、初めに計上していた資産除去債務との間に差額が生じた場合、企業の財務諸表上で調整しなければなりません。
また、有形固定資産の取得時に資産除去債務を計上した時点では、課税取引に該当しないため、消費税は発生しません。しかし実際の撤去作業に関連して外部の業者に支払いを行う場合、その支払いに伴う消費税も計上する必要があります。
敷金の支払いがある時
建物賃貸契約において敷金の支払いがある場合は、手続きを簡単にするための簡便法が認められています。簡便法が適用されるケースでは、支払った敷金のうち回収不能と見込まれる金額を見積もり、その年の費用として計上します。
ただし、敷金を計上していれば必ず簡便法が適用されるわけではありません。あくまで除去費用を敷金が上回る場合のみ、簡便法が適用されます。
参考:資産除去債務に関する会計基準の適用指針 |企業会計基準委員会
会計処理を効率的に行うならシステムの導入がおすすめ
会計処理は、多くの企業にとって重要な業務の一つです。しかし、資産除去債務などの特定の計算や仕訳には、簿記の専門知識や経験が必要なため、人材不足や特定の人に依存しやすくなります。
さらに、人の手による作業は、人為的ミスのリスクも高まります。こうした課題の解決には、固定資産管理システムの導入がおすすめです。システムを利用することで、計算や仕訳の自動化が進み、作業効率が向上しミスの低減も期待できます。
また、システムは最新の会計基準や税法の変更情報を随時更新するため、常に正確な情報で計算が行えることもメリットです。
システムによって搭載機能に違いがあるため、自社に必要な機能が搭載されているシステムを選ぶことで、資産管理がよりスムーズになります。
\詳しくはこちらの記事をチェック/
固定資産管理システムとは?機能やメリット、選び方について解説!
固定資産管理システムとは、企業が保有する固定資産の管理や、会計上の処理などを効率的に行うためのシステムです。導入の際は、自社の目的に合った費用対効果の高いシステムを選ぶことが大切です。本記事では、固定資産管理システムの機能やメリット、選び方などを解説します。
固定資産管理システムの便利な機能
固定資産管理システムに搭載されていると便利なおすすめの機能に、リース資産管理機能と他システムとの連携機能があります。以下で、それら2点の機能の概要とメリットを解説します。
リース資産管理機能
リース資産管理機能では、リース契約の期間や条件、支払い管理、資産の価値などの複雑な管理を一元化でき、コストを正確に把握してリース資産の最適な利用ができます。
さらに、監査対応の際にも、必要なリース契約に関する情報を迅速に提供でき、リース契約の自動更新日をアラートで通知できるため、正確な契約の自動更新管理にも役立ちます。
他システム連携機能
固定資産管理システムと他システムとの連携機能があると、企業内での情報の一元化や業務の効率化を図れます。会計システムとの連携では、資産の取得や売却、減価償却費のデータを会計処理をする際に取り込むことで、二重入力などのミスを防ぐ効果があります。
また、人事・給与計算システムとの連携では、社員の入退社に伴い、個別に割り当てられた固定資産・リース資産の情報を自動更新できます。
\おすすめの固定資産管理システムをご紹介/
固定資産管理システムおすすめ10選(全23選)を徹底比較!|選定のポイントや導入時の注意点を解説
固定資産管理システムとは、企業が保有・使用する土地・建物・設備・車両などの固定資産の情報を一元管理し、管理の効率を上げるためのシステムです。本記事では、徹底比較して分かったおすすめの固定資産管理システムと選び方、導入時の注意点などを詳しく解説しています。
まとめ
資産除去債務は、企業が有形固定資産を取得する際に将来的に発生すると予想される撤去や処分の費用を現在価値で計上する会計処理です。この処理は、企業の財務状況をより正確に反映させるためのものであり、正確な計算や適切な仕訳が求められます。
しかし、資産除去債務の計上においては、会計上と税務上で差異があったり、簡便法が適用されるケースがあったりと、その会計処理は複雑です。
会計処理の複雑さや変動性を考慮すると、これらの作業を人の手だけで行うのは非常に手間がかかります。人材の不足や属人化の問題、さらには人為的ミスのリスクも考慮すると、固定資産管理システムの導入が有効な手段といえます。
タイプ別|おすすめの固定資産管理システム
多くのシステムを比較して選びたい方におすすめ
固定資産管理システムおすすめ10選(全23選)を徹底比較!|選定のポイントや導入時の注意点を解説
固定資産管理システムとは、企業が保有・使用する土地・建物・設備・車両などの固定資産の情報を一元管理し、管理の効率を上げるためのシステムです。本記事では、徹底比較して分かったおすすめの固定資産管理システムと選び方、導入時の注意点などを詳しく解説しています。
無料トライアルを利用したい方におすすめ
無料トライアル期間のあるおすすめ固定資産管理システム5選|無料の管理方法と注意点も解説
無料の固定資産台帳テンプレートなどを利用すれば、コストをかけずに固定資産を管理できます。しかし、業務効率化を目指すなら、固定資産管理システムの導入が有効です。この記事では、無料トライアル期間で使用感を試せる、おすすめの固定資産管理システムを紹介します。
できるだけ安く導入したい方におすすめ
価格が安い固定資産管理システムおすすめ10選|費用を抑えるポイントも解説
固定資産管理システムの導入で、企業は資産管理の効率化やリスク管理を実現できます。しかし、導入・運用にはコストがかかるため、できるだけ安く導入したい企業も多いでしょう。本記事では、価格が安いおすすめの固定資産管理システムや、費用を抑えるポイントなどを解説します。
業務をさらに効率化!関連サービスはこちら
ERPシステム
ERPおすすめ12選(全30選)を徹底比較!選び方や人気システムの特長・価格も紹介
ERPシステムとは、ヒト・モノ・カネといった企業資源を一元管理し、経営活動に活用するためのシステムです。本記事ではERPシステムの選び方とおすすめ12選(全30選)をご紹介します。人気システムの特長や価格も比較して紹介するので、ぜひ参考にしてください。
会計ソフト
会計ソフトおすすめ10選(全26製品)を徹底比較!無料の会計システムや個人事業主の確定申告に
企業の簿記や経理業務を効率的に行うためには、最適な会計システムの導入が必要です。本記事では、個人事業主の確定申告におすすめの無料ソフトや、小規模法人向けのクラウドソフトなどおすすめ会計ソフトをご紹介。会計ソフトの業界シェアランキングも合わせて解説します。
IT資産管理ツール
おすすめのIT資産管理ツール8選|選び方や導入時の注意点も解説
IT資産管理ツールとは、ハードウェア・ソフトウェア・ライセンスなどの企業内のIT資産を管理できるツールです。情報収集方法や機能はツールごとに異なり、自社に適したツール選びは困難です。本記事では、おすすめのIT資産管理ツールや選び方などを詳しく解説します。
この記事に興味を持った方におすすめ