個別原価計算とは|総合原価計算との違いをわかりやすく解説
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- 個別原価計算では、製品ごとの正確な生産コストを算出することでスムーズな経営が可能
- 総合原価計算では、原価計算の手間を減らし、全体の生産コストを総合的に評価できる
- 個別原価計算と総合原価計算を組み合わせることで、効果的な経営戦略を立てられる
個別原価計算は、製品の生産コストを正確に把握する方法であり、総合原価計算は企業全体の収益性や効率性を評価する手法です。本記事では、個別原価計算と総合原価計算の違いや、それぞれのメリット・デメリットを解説し、使い分けの方法について紹介します。
目次
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原価計算の必要性
原価計算とは、商品の製造やサービスの提供にかかる費用を割り出すこと、その方法を指します。商品の製造にかかる材料代をはじめ、加工のための労働や管理費などを集計することで、製造原価を算出します。
各企業における原価計算は、主に決算書の作成や経営管理を目的としたものです。したがって、製造業では製造原価を計算しないと決算書を出すことができないため、重要視されています。
また、算出した原価を基に商品やサービスの価格を決めるなど、原価計算は経営を管理する上で必要不可欠な要素といえます。
個別原価計算とは
個別原価計算とは、商品1つごとの原価を算出する方法です。複数種類の商品を製造するにあたって、それぞれの製造指図書に沿って原価を求めるために集計を行う作業を指します。
この計算方法は、建築物や船舶といった個別で製造・販売する商品や、顧客からの注文を個別に反映したオーダーメイド商品に対して採用されることが多いです。それぞれの商品仕様の違いから、商品ごとに異なる原価を正確に把握することを目的としています。
個別原価計算と総合原価計算の違い
個別原価計算に対して、総合原価計算と呼ばれる計算方法があります。それぞれどのような違いがあるのかを「生産方式」「基準となる単位」「計算する費目」「向いている業種」の4つの観点から解説します。
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個別原価計算と総合原価計算の違い
生産方式の違い
個別原価計算と総合原価計算は、その生産方式の違いによって使い分けられることが多いです。
個別原価計算は、顧客からの注文に沿った商品を個別に生産する場合に適しているのに対して、総合原価計算は、同じ製品を大量に生産する場合や同一の製造ラインを使って継続的に生産する場合に適しています。
基準となる単位の違い
個別原価計算と総合原価計算では、基準となる単位にそれぞれ違いがあります。個別原価計算の場合は、顧客から注文を受けて生産した商品1つごと、あるいは提供したサービス1件ごとに原価計算を行います。
一方、総合原価計算の場合は、1ヶ月単位などのような、ある一定の期間に発生した製品生産における費用をまとめて生産数で割ることにより、商品1つあたりの原価を算出します。
計算する費目の違い
個別原価計算と総合原価計算は、計算の際に分類される費目もそれぞれ異なります。個別原価計算では、生産にかかる費用を「直接費」と「間接費」とに分けて算出します。
これに対して、総合原価計算では材料にかかる以外の費用をまとめて加工費とし、「材料費」「加工費」の費目で計算することを基本としています。
ただし、同一の製造ラインで異なる製品を作ったり、複数の工程を持っていたりする場合には、総合原価計算においても直接費・間接費を考慮するのが一般的です。
向いている業種の違い
個別原価計算と総合原価計算は その性質の違いから、それぞれで向いている業者が異なります。個別原価計算が向いている業種には、個別注文・個別建築されることの多い建設業などに加えて、システム開発業や公認会計士・弁護士などが挙げられます。
一方、食品製造メーカーをはじめとした自動車産業・鉄鋼業など、同一の部品・製品を多く生産する業種においては、総合原価計算が採択されています。
【比較表】個別原価計算と総合原価計算との違い
個別原価計算 | 総合原価計算 | |
---|---|---|
生産方式 | 顧客からの受注品を個別に生産 | 同一製品を大量に生産 |
基準となる単位 | 商品やサービス1つ(件)ごと | 一定期間内に発生した費用をまとめて |
計算する費目 | 直接費・間接費 | 材料費・加工費(直接費・間接費を考慮する場合もあり) |
向いている業種 | 建設業・システム開発業・公認会計士・弁護士など | 食品製造業・自動車産業・鉄鋼業など |
個別原価計算のメリット
個別原価計算における最大の強みは、商品・サービスごとの原価を正確に把握できることにあります。各商品・サービスの提供にかかる費用を個別に把握・分析することによって、より適切な販売価格を割り出すことができます。
これらは、経営をスムーズに進める上で大きなメリットとなります。
個別原価計算のデメリット
個別原価計算を行う際には、1つの製品ごとに個別で吟味していく必要があるため、その分手間がかかります。つまり、原価を計算するにあたって多くの時間・人件費がかかってしまうことが、個別原価計算のデメリットです。
そして、日頃の業務においてプロジェクトの工数管理を適切に行いながら、正確な数字・状況を記録しておかなければなりません。
総合原価計算のメリット
総合原価計算を行うメリットの1つは、原価計算の手間を減らせることにあります。大量生産を前提とした同一製品においては、各原価が同じであることから計算をまとめて行うことが可能です。
よって、商品の生産数が多い場合であっても、総合原価計算なら原価の算出にあまり時間をかけずに済みます。
そして、もう1つのメリットとしては、浮いた手間・時間や人件費を他の作業に費やせる点が挙げられます。これらを人手不足の部署へ補填することで、業務の効率化が期待できます。
総合原価計算のデメリット
総合原価計算では製品を一定数まとめて計算するため、期末になるまで原価を把握できないといったデメリットがあります。
原価を把握できないままに営業・販売活動を続けると、適正な利益を上げるための対応が遅れてしまうなどのリスクを伴います。
たとえば、原価に対する販売価格が釣り合っていないにも関わらず、原価が算出されるまではその事態に気づくことができないといったケースが考えられます。
【比較表】個別原価計算と総合原価計算 それぞれのメリットとデメリット
個別原価計算 | 総合原価計算 | |
---|---|---|
メリット | 原価をより正確に把握できる→適切な販売価格を割り出せる | 計算の手間を減らせる→業務の効率化が期待できる |
デメリット | 手間・人件費がかかる | 原価把握の時期が遅れるリスクがある |
個別原価計算の計算方法
個別原価計算をする際の主な費目の1つである直接費は、さらに直接材料費・直接労務費・直接経費などに分けられます。
具体的な例として、材料費・労務費を共通とする商品Aと商品Bにおいて、1㎏あたりの直接材料費が400円・1時間あたりの直接労務費が950円、また直接経費が商品Aは100,000円・商品Bは50,000円である場合について考えてみます。
なお、直接材料費・直接労務費は、商品A・Bそれぞれにかかる材料消費量と作業時間を考慮して計算します。
商品A | 商品B | |
---|---|---|
材料消費量 | 200㎏ | 100kg |
作業時間 | 100時間 | 200時間 |
つまり、上記の場合における商品A・Bの製造原価のうち直接費の合計は、下記の計算式(表)によって求めることができます。
商品A | 商品B | |
---|---|---|
直接材料費 | 400×200=80,000 | 400×100=40,000 |
直接労務費 | 950×100=95,000 | 950×200=190,000 |
直接経費 | 100,000 | 50,000 |
直接費 合計(円) | 275,000 | 280,000 |
また、もう1つの主な費目である間接費については、複数の商品にまたがっている場合がほとんどであるため個別の原価として上げることができません。そこで、一定基準に沿って間接費を分ける「配賦」と呼ばれる作業を行います。
その基準は各企業によって異なりますが、合計で450,000円かかった製造間接費を直接材料費の消費量をもとに割り振る場合には、商品ごとの製造間接費を以下の式で求めることができます。
製造間接費の合計×直接材料費の消費量÷直接材料費の消費量合計
各商品の製造間接費をこれに当てはめて計算すると、
- 商品A 450,000×200÷300=300,000円
- 商品B 450,000×100÷300=150,000円 となります。
さらに、直接費と間接費とを合計することで、商品ごとの原価を求めることができます。
- 商品A 直接費275,000+間接費300,000=原価575,000円
- 商品B 直接費280,000+間接費150,000=原価430,000円
個別原価計算と総合原価計算の使い分け方
個別原価計算と総合原価計算は、目的や対象範囲によって使い分けることもあれば、2つを組み合わせて活用することもあります。このような計算方法の使い分けについて、解説します。
目的や対象範囲で使い分ける
原価計算を行う際、商品1つごとに異なる原価をより正確に割り出すことに重点をおく場合には、個別原価計算の方法を使用します。
一方、原価計算を行う手間を減らして業務を効率化させたい場合や生産全体にかかる費用を総合的に評価することを目的としている場合には、総合原価計算の方法が用いられます。
組み合わせて活用する
個別原価計算と総合原価計算は、それぞれの計算方法に違いはあっても、直接費の賦課や間接費の配賦といった共通の集計方法を持っています。
2つの原価計算方法を組み合わせて活用し、それぞれのメリットを活かすことで より効果的な経営戦略を構築することが可能になります。
正確な個別原価計算には原価管理システムを活用する
個別原価計算を行う際に重要なのは、正確な費用を計算・把握することです。すなわち、正しい労務費の算出を行うには、1単位当たりの数量・数値を間違いなく導き出さなければなりません。
しかし、基本的に企業の会計期間は1ヶ月で設定されており、リアルタイムで正確な数量などを計算するのは困難です。そこで、原価管理システムを活用することで、人的なミスを防ぎながら効率的な個別原価計算を行うことができます。
使用するシステムによって機能は異なりますが、従業員1人が複数のプロジェクトを兼任する場合でも、正確な原価計算を行うことができるでしょう。また、工数管理システムを活用して、個別原価計算に必要とされる正確な工数の取得を行うことも可能です。
クラウドERPを活用する方法もある
近年では、1つのシステム内で複数の機能を搭載し、さまざまな業務を効率化できるシステムも登場しています。特に、クラウド型のERPは個別原価計算をはじめとして、プロジェクトに関する申請から工数入力、資産振替、AI技術を活用した方法まで行えます。
このように、クラウドERPを活用することで、正確性だけでなくスピード感も求められる個別原価計算について、大幅な自動化を行いながらスムーズに効率化できます。
まとめ
原価計算とは、商品の製造やサービスの提供にかかるコストを算出するもので、決算書の作成および経営管理に関わる重要な作業です。
原価計算には、個別原価計算と総合原価計の2つの方法があります。個別原価計算は各商品ごとに原価を算出するものであり、製品ごとの生産コストを正確に把握できます。主に、顧客から個別注文を受けることが多い企業において採用されています。
一方、総合原価計算は同一の製品を大量に生産する場合に用いられる方法であり、生産全体にかかる費用の総合的な評価が可能です。
個別原価計算と総合原価計算にはそれぞれメリットとデメリットがあり、目的に応じて使い分けたり、両者を組み合わせて活用したりすることによって、効果的な経営戦略を立てることができます。
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