ポストモダンERPとは?従来のERPとの違いやメリットを解説

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  • ポストモダンERPは機能をコア業務に絞り、不足機能はサービスを駆使し補完する形態である
  • ポストモダンERPは、従来のERPとは異なり短期間・低コストで導入できる
  • ポストモダンERPの実現には、スリム化かつパッケージ化されたERPの導入がポイント

ポストモダンERPとは、ERPの機能をコア業務に絞り、その他の不足する機能を最適なクラウドサービスで補完するERPのことです。本記事では、ポストモダンERPと従来のERPの違い、ポストモダンERPを実現させるためのポイントなどを解説しています。

目次

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  1. ポストモダンERPとは
  2. 従来のERPの種類
  3. 従来のERPの課題
  4. ポストモダンERPを導入するメリット
  5. ポストモダンERPを導入するデメリット・注意点
  6. ポストモダンERPを実現させるポイント
  7. まとめ

ポストモダンERPとは

ポストモダンERPとは次世代型のERPシステムを指す言葉で、「疎結合型ERP」とも呼ばれます。米国IT企業・ガートナー社によって提示されました。

ポストモダンERPは、ERP化を企業のコア業務のみに絞り、不足分の機能はSaaS型を含めた複数のアプリケーションで補完する点が特徴的で、これからのERPとして注目を浴びています。

ポストモダンERPの必要性

ポストモダンERPは、ビジネスの変化に適応し、効率性を高めるために重要です。従来のERPシステムでは対応できない、データの複雑性や多様性に対処する能力があります。

クラウドベースの柔軟な構造は、リアルタイムでの情報共有やデータ分析を可能にし、迅速な意思決定を行いやすくします。さらに、モバイル対応やAI、自動化技術を統合することで、業務の自動化や予測分析を行い、競争力を強化します。

また、ポストモダンERPは、デジタルトランスフォーメーション(DX)の中核をなす重要な要素です。
現代のビジネスは変化が速く、競争激化が常態化しています。ポストモダンERPは、DX戦略の一環として、ビジネスの競争力を高め、変化に適応する力を強化するための重要なツールになります。

ポストモダンERPと従来のERPの違い

ポストモダンERPと従来のERPは、システムの構成・ERP化する業務範囲に違いがあります。

前述の通り、ポストモダンERPでカバーできるのは企業のコア業務のみであり、足りない業務範囲は他システムやSaaS型アプリケーションで補完します。

つまりポストモダンERPはERP化の範囲が狭く、複数のシステムやアプリケーションでシステムが構成されているのが特徴的です。

一方、従来のERPは1つのシステムで社内業務をほぼ網羅できる点が大きな特徴です。なお従来のERPには2つの種類があり、それぞれ特徴やカバーできる業務範囲が異なります。

次世代型コンポーザブルERPとの違い

2015年にポストモダンERPが提示され、従来のオンプレミス型だけでなくクラウド型のERPも登場しました。2020年以降では、ガートナー社が提案した新たな次世代型ERPである「コンポーザブルERP」が注目されています。

コンポーザブルERPとは、複数の機能やアプリケーションを自由に組み合わせて構築するERPであり、ブロックのように機能はいつでも組み換えできるのが特徴です。

時代の変化に合わせて柔軟に対応でき、業務のプロセスが大規模で複雑だとしても細かい部分までカスタマイズできます。よって、従来のERPよりも多くの要件をカバーできるとされ、多くの企業が導入を進めています。

また、リモートワークやタブレット端末の普及により、コンポーザブルERPはクラウド型をベースとしています。

従来のERPの種類

従来のERPは「モノリシック型」と「コンポーネント型」の2種類に大別できます。自社に最適なERPを選定するためにも、それぞれの特徴や強みを理解しましょう。

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モノリシック型ERP

モノリシックとは「一枚岩」を意味します。業務遂行に必要な機能が1つのシステムに集約されている点が特徴的で、オールインワンタイプとも呼ばれています。

モノリシック型ERPは、各部門で運用されている基幹システム(調達・製造・販売・在庫管理の他、財務・人事・労務など)を1つのシステムに統合します。

各部門ごとに分散しがちな社内の情報・データも1つのデータベースで管理できるため、企業の運営状況や財務状況を一目で確認しやすい点がメリットです。社内の情報資源が莫大になりやすい大企業でよく採用されています。

コンポーネント型ERP

コンポーネント型ERPは、必要な業務を選択・組み合せて構築するERPです。モノリシック型のように社内の基幹システムを一律に統合するのではなく、ERP化したい基幹システムだけを取捨選択できる点が特徴的です。

自社の事業や業務内容にあわせた柔軟なカスタマイズが可能である他、機能が少ないため、モノリシック型に比べると導入・運用コストが小さい点も特徴的です。管理すべき情報資源が少ないスタートアップ企業・中小企業での採用が多いです。

従来のERPの課題

ポストモダンERPは、従来のERPの課題の解決手段として注目されています。ポストモダンERP導入の意義を理解するためにも、従来のERPの課題を知っておきましょう。

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モノリシック型ERPの課題

モノリシック型ERPはカバーできる業務範囲が広く、社内の情報収集がしやすい点にメリットがあります。一方、大がかりなシステムであるため、次のような課題も抱えています。

改修しにくい

モノリシックは社内業務の遂行に必要な機能が1つのシステム内に集結しています。機能同士が密接に連携しているため、1つの機能を改修(バージョンアップ)すると周辺機能にまで影響が出やすく、この点がシステム改修のしづらさにつながっています。

他機能に重大な影響が出る恐れがあるだけに、思い切った改修に二の足を踏むケースは少なくありません。たとえ改修に踏み切ったとしても、システム全体にどの程度影響が出ているのか把握するのが困難です。

また、できる限りリスクを避けるには慎重な改修計画が必要であるため、たとえ小規模な改修であっても、思いのほか大きな時間・手間がかかることがあります。

モノリシック型ERPは改修が難しいだけに時流への迅速・柔軟な対応は望めず、時代遅れのシステムになる恐れがあります。市場での競争力の低下を招くこともあるでしょう。

運用に手間やコストがかかる

モノリシック型は1つのシステムで社内業務を網羅するため、ERPの中でも大がかりなタイプにあたります。規模が大きくなるほど、サーバなどのハードウェアも数多く必要となり、それだけに運用・保守には莫大な時間・手間・お金のコストが発生します。

特に自社の事業や業務フローに特化したシステムを構築している場合、運用・保守には特別な知識が必要となるため、人件費やベンダーへのサポート料金といったコストがかさみやすくなります。

一部の障害の影響が大きい

モノリシック型は機能同士が密接に連携しており、部分的な機能障害がシステム全体に多大な影響を及ぼす可能性が高いです。機能同士がつながっているため問題点をピンポイントで特定しづらい点もモノリシック型のデメリットの1つです。

たとえ部分的な機能障害であっても、メンテナンスが完了するまではシステム全体が停止するケースも少なくありません。場合によっては事業が停止することもあるでしょう。

コンポーネント型ERPの課題

コンポーネント型は自社の事業や運営状況にあわせて柔軟なカスタマイズができる点がメリットです。しかしシステムがパッチワーク化しやすいだけに、次のような課題もあります。

システムが複雑化しやすい

コンポーネント型ERPは自社の運営状況や事業内容の変化に合わせて、機能を柔軟に追加・拡張できます。つまり古い機能と新しい機能が混在することになるため、内部がパッチワーク化しやすく、カスタマイズを経るごとに内部構造の把握が難しくなります。

これに伴い、システム障害時の問題点の特定が難しいメンテナンスに時間や手間がかかるといったデメリットが発生します。自社で手に負えなくなれば、運用・保守を特定のベンダーに依存せざるを得ず、サポート料金などのコストがかさみます。

コストが増加していく

コンポーネント型は導入後時間が経つごとに、コストが増加していく傾向があります。拡張性が高いだけにシステムの内部構造が複雑化しやすく、それに伴って運用・保守に時間と人手がかかりやすいためです。

たとえばシステムの運用・保守専門の人材を雇うまたは育成する場合は、人件費がかかります。外部のベンダーに委託する場合、費用はさらに割高になるでしょう。

また、コンポーネント型は新機能を柔軟に追加できる点が魅力ですが、一般的には機能を追加するほど運用コストは高くなります。追加した新機能と古い機能の一部が重複するケースも多く、この点もコスト増につながります。

ポストモダンERPを導入するメリット

従来のERPが抱える課題の解決策として提示されているのが、ポストモダンERPです。コア業務に焦点を当てて機能を絞り込んでいるだけに、従来のERPに比べてシステムがスリムであり、特に導入・運用・保守の面でメリットを見込めます。

ポストモダンERPの導入によりどのようなメリットを得られるのか、具体的に解説します。

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複雑化・巨大化の回避

ポストモダンERPは、従来のERPに比べて複雑化・巨大化を回避しやすいのがメリットです。

従来のERPはカバーできる業務範囲が広いだけに、システム自体が巨大化しやすいです。コンポーネント型はモノリシック型に比べれば機能数を絞り込めますが、カスタマイズがしやすい反面、システム内部が複雑化しやすくなっています。

一方、ポストモダンERPはコア業務に必要な機能のみを実装します。不足している機能は他のシステムやSaaS型を含めたアプリケーションを柔軟に組み合わせて補完するため、システムそのものは大幅にスリム化できます。

低コスト・短期間で導入できる

ポストモダンERPは従来のERPに比べて導入コスト・導入期間が小さい点がメリットです。ERP化するのはコア業務のみであり、他はSaaS型アプリケーションで補完するためです。

システム自体がスリムであるだけに従来よりも少ないサーバ・デバイスで運用でき、導入費用や運用・保守にかかるコストを抑えられます。

また、ポストモダンERPはSaaS型アプリケーションとの併用が一般的です。SaaS型アプリケーションは多くのベンダーからリリースされており、自社に必要な機能のみを選択できるため、この点もコストの削減につながります。

拡張性が高い

ポストモダンERPは自社の業務内容に合わせたシステム構築が可能であり、つまり拡張性・柔軟性に優れています。

ERP化する業務以外については、業務内容や運営状況の変化にあわせてその時々で最適なクラウドサービス・SaaS型アプリケーションを選定できます。また、ERPシステム自体がシンプルであるため再構築も比較的容易です。

一方、従来のERPは最初に頑丈なシステムを構築するため、その後の改修やバージョンアップは容易ではありません。改修のしづらさは、急激に変化するビジネス市場への対応の難しさにつながり、ひいては競争力や生産性の低下を招くこともあります。

その点、ポストモダンERPは時流にあわせたシステムのカスタマイズや再構築がしやすいため、競争力の維持・向上がしやすいでしょう。

ポストモダンERPを導入するデメリット・注意点

ポストモダンERPを導入する際、新しいシステムへの移行に伴うトレーニングや運用コストがかかることがあります。既存のプロセスとの整合性を保つことや、導入に時間がかかることで、予期せぬ問題が生じる可能性もあります。

また、カスタマイズが難しくなることや、特定の業務に合わないケースもあります。そのため、十分な計画とリソースを用意して段階的な導入を検討することが重要です。

ポストモダンERPを実現させるポイント

ポストモダンERPを実現するには、いかにERPをスリム化できるかが重要となるため、次のようなポイントを抑えましょう。

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ERP化すべきコア業務を見極める

ポストモダンERPを導入するには、ERP化すべきコア業務を見極める必要があります。

基盤業務は業種や事業形態によって異なりますが、一般的には会計・人事・労務・販売・調達・在庫管理・原価管理が該当します。自社がERP化したい基盤業務・コア業務を見極め、それらを網羅したERPを導入しましょう。

ERPの積極的なSaaS化

ポストモダンERPの導入と併せて、ERPの積極的なSaaS化を図りましょう。SaaS化することで、サーバーの設置やシステムのアップデートなどをベンダー企業が担ってくれるため、自社でサーバーやシステムの保守を行う必要がありません。

これにより、導入費用やシステムの運用・保守のさらなるコスト削減につながります。

基盤業務・コア業務に必要な機能がパッケージ化されたERPを選ぶ

ポストモダンERPを導入する上で特に重要なのが、パッケージ化されたERPの導入です。必要な機能がパッケージ化されたERPを導入することで、自社でのカスタマイズやシステム構築の手間が不要となるため、導入や運用・保守コストを削減できます。

また、カスタマイズが不要なだけにシステムの複雑化・巨大化が起こりにくい点もメリットです。拡張機能はERP外に追加するため、ERPシステム自体はスリム化できます。

経営トップの支援も必要

ポストモダンERPの導入を成功させるには、自社の要件を網羅したERPを構築させる必要があります。そのためには、経営トップの支援も必要不可欠です。

というのも、ERPの変更に伴う影響は大きく、多くの労力が割かれます。また、導入にあたっては通常業務と並行して行う必要があるため、担当部署や担当者の業務負担の増加が懸念されます。

ここをカバーするには、経営トップがポストモダンERPの重要性などを社内に周知させたり、業務負担を調整したりするなど、企業全体での取り組みが重要です。

まとめ

ポストモダンERPとは、従来のERPが1つのシステムで社内業務を完結するのに対し、複数のシステム・アプリケーションを併用するシステムです。コア業務のみをERP化し、他機能はSaaS型アプリケーションなどで補完します。

従来のERPの課題であった、改修・バージョンアップのしづらさ、運用・保守におけるコスト面、拡張性の高さに比例した複雑性などを解決します。

ERP化をコア業務のみに絞ることで、システムの複雑化や巨大化を回避できるため、運用・保守の時間・手間・費用のコストが比較的小さくなります。導入するには、ERP化すべきコア業務の見極めやパッケージ化されたERPの選定が重要です。

めまぐるしく変化する市場で競争力を確保し続けるためにも、柔軟性・拡張性に優れかつ低コストで運用できるモダンポストERPの導入を検討しましょう。

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