従業員の健康管理とは｜企業の義務と健康管理の必要性・注意点を解説

企業の従業員の健康管理は、いくつかの法律で義務付けられており、厚生労働省が推奨しているストレスチェックには57もの項目があります。本記事では、従業員の健康管理の必要性と、必要な健康管理項目を解説し、効率的に健康管理を行うために必要なシステムを紹介します。

目次

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1. そもそも「健康管理」とは
2. 社員の健康管理が重要な理由
3. 企業に求められる「安全配慮義務」
4. 健康管理に関する法律
5. 社員の健康管理を行うことで得られるメリット
6. 社員の健康管理をするための取り組み
7. 社員の健康管理を行う際の注意点
8. 円滑・効率的な健康管理にはシステムの導入がおすすめ
9. まとめ

そもそも「健康管理」とは

企業の健康管理は、従業員の身体的・精神的な健康を維持し、向上させるための総合的なアプローチです。内容は、健康診断、健康情報の収集・管理、予防プログラムの提供、ストレス管理、労働環境の改善、ワークライフバランスの支援など、多岐にわたります。

また、データ収集と分析を通じてプログラムの効果を評価し、持続的な改善を図ります。適切な管理によって従業員の健康増進とモチベーション向上が図られ、長期的な成果や組織の健全な成長が期待できます。

健康管理を行う部署

健康管理は、企業において主に人事総務部や労務部の役割として担当されることが一般的です。健康管理は業務ではなく従業員個人の管理となるため、普段から従業員個人の管理を行っている部署が担当するのがスムーズです。

大企業では、専門的な健康管理部署を設置することもあります。この部署は、健康診断の管理、健康プログラムの提供、従業員の健康情報の一元管理などに専門的に取り組みます。

産業医も健康管理において、重要な役割を果たします。従業員の健康状態を評価し、健康診断の結果を分析して適切な対策を提案します。また、労働者の健康相談やメンタルヘルスの支援も行い、安全な労働環境を確保します。

社員の健康管理が重要な理由

社員の健康管理は、企業にとって重要な要素です。健康な従業員は生産性が向上し、仕事への取り組みが活発化します。また、メンタルヘルスのサポートはストレス軽減や離職率の低減に繋がります。

従業員の健康への投資は、企業の社会的責任を示すだけでなく、従業員の満足度と忠誠心を高め、企業の長期的な成長に繋がる重要な要素です。健康管理によって、生産性向上・離職率低減・企業イメージ向上などを図ることができます。

企業に求められる「安全配慮義務」

企業の「安全配慮義務」は、従業員や関係者の安全を保障するために法的に求められる義務です。これには労働環境の安全管理、適切な安全教育・訓練の提供、労働者の健康への配慮、作業手順の明確化、安全な労働道具や装置の提供などがあります。

安全配慮義務を守るためには、いくつか注意すべきポイントがあります。労働安全衛生法や労働基準法などの法令を遵守し、事故や健康被害の防止に努めることが重要です。以下では、そのポイントについて解説します。

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適正労働条件措置義務

適正労働条件措置義務は、従業員の心身の健康を保護するために労働条件を改善・調整する義務です。労働時間・休憩・休日・労働環境などを適切に維持し、過度な労働による健康被害を防止することを目的としています。

ストレス社会と呼ばれる現代において、労働時間の適正な管理は非常に重要です。企業は従業員の健康と安全を守るために、適性労働条件の確保と労働環境の適切な整備を積極的に実施する必要があります。

参考：労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン｜厚生労働省

健康管理義務

健康管理義務は、企業が従業員の健康状態を把握し、健康管理を実施する法的責任です。健康診断やメンタルヘルス対策を通じて従業員の健康状態を監視し、体調不良や疾患、メンタルヘルスの問題を早期に発見・対処します。

企業には労働安全衛生法に基づき従業員の定期的な健康診断が義務付けられており、その結果に基づいて適切な措置を講じる必要があります。企業は従業員の健康と安全を保護するために、健康管理義務を遵守し、健全な労働環境を提供することが求められます。

参考：労働安全衛生法｜e-Gov法令検索

適正労働義務

適正労働義務は、労働時間・休憩・労働環境を従業員の特性に合わせて調整し、過重労働や健康被害を予防するためのものです。労働基準法に基づいて従業員の権利を守りつつ、適切な労働条件を提供することが求められます。

従業員の適性な能力や健康状態を考慮し、柔軟な労働環境を確保することで、生産性向上と働く人々の健康を同時に実現します。企業は法的基準を順守し、適正労働義務を遵守することで、従業員との信頼関係を築き、社会的責任を果たします。

参考：労働基準法｜e-Gov法令検索

看護・治療義務

看護・治療義務は、従業員が病気や怪我をした際に、適切な治療や看護を行う義務です。業務中の不調や怪我に対しても適切な対処が求められ、従業員の健康と安全を守る役割を果たします。

早期発見と適切な医療措置を通じて、従業員の健康回復と職場の安全確保を目指します。部下や同僚の異変に敏感に対応し、病院受診を促すことも重要です。コミュニケーションを通じて健康状態を把握し、適切なケアを提供することが求められます。

健康管理に関する法律

健康管理に関する法律は、労働者の健康と安全を保護し、労働環境の改善を促進するために制定されています。生産性の向上と労働環境の質的向上を両立させるため、以下2つの法律の遵守が重要です。ここからは、健康管理に関する法律について解説します。

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労働契約法第5条

労働契約法第5条は、企業や組織が従業員の健康と安全に配慮する「安全配慮義務」を規定しています。この条文は、労働者が安全で働きやすい環境で業務を遂行できるよう、雇用者が努力するべき義務を明記しています。

具体的には、労働者の健康・安全への配慮、適正な労働条件の提供、労働環境の改善などが含まれます。

参考：労働契約法第5条｜厚生労働省

労働安全衛生関係法

労働安全衛生関係法は、労働者の安全と健康を確保するための法律群です。労働者の労働災害予防や健康維持を目的に、事業所内の安全衛生管理や労働環境改善について定めています。

法的措置として、安全委員会や衛生委員会の設置、安全管理者や産業医の任命、労働災害防止計画の策定、労働者への安全教育、定期的な健康診断の実施などが規定されています。

労働者の権利保護と職場の安全確保を両立させるため、企業はこれらの法的義務を遵守し、労働環境の向上に努める必要があります。

参考：労働安全衛生法｜e-Gov法令検索

参考：Ⅰ 労働安全衛生関係法令の順守｜厚生労働省

社員の健康管理を行うことで得られるメリット

社員の健康管理を行うことは、企業にとって多くの利点をもたらします。社員の健康を継続的にサポートすることで、組織としての健全な成長と生産性の向上に期待できます。ここでは、社員の健康管理を行うことで得られるメリットについて解説します。

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休職・離職を防止できる

健康管理による早期の健康状態の把握と適切な対応により、従業員の体調不良やストレスなどの問題を未然に防ぐことができます。適切なメンタルヘルスケアや健康教育によって従業員のストレスや負担を軽減し、ワークライフバランスを促進します。

これにより、業務へのモチベーション向上や健全な労働環境が確保され、休職や離職のリスクが低減します。健康管理を通じて従業員の健康増進とサポートを行うことで、組織全体の持続的な成果達成と人材の定着が期待できます。

従業員の生産性が向上する

健康管理を適切に行い、従業員の体調不良を防ぐことは、生産性の向上に繋がります。一見健康に見える従業員であっても、長時間勤務やストレスの大きい業務を繰り返していると疲労が蓄積し、仕事のパフォーマンスは低下するものです。

逆に、体調の良い従業員は高い集中力を発揮します。また注意力欠如によるミスや怪我も防止できます。従業員に健康的な状態を維持させ、仕事の能率を上げることは、結果的に自社に利益をもたらします。

企業イメージが良くなる

社員の健康管理を重視することで社会的責任を示せるため、企業イメージの向上に繋がります。健康支援プログラムやメンタルヘルス対策は、従業員の幸福感と生産性向上に繋がり、従業員との信頼関係を築きます。

優れた労働環境を維持することで、優秀な人材を惹きつけ、定着させる要因となります。また、社会的に認知されることで業界内での評価が向上し、ブランド価値が高まります。企業が従業員の健康を尊重し、積極的な対策を講じる姿勢は、社会的貢献度を強調します。

社会保険料の負担を軽減できる

社員の健康管理を行うことで、社会保険料の負担を軽減できます。健康な職場環境や適切なメンタルヘルスサポートは、労働災害や病気の発生率を低下させ、それに伴って労災保険や健康保険の給付費用も減少します。

健康管理により病気の予防や早期発見が促進され、治療費の削減や従業員の健康状態の向上につながります。企業は社会保険料を軽減するだけでなく、組織全体の健康を維持し、長期的な経済的利益を期待できます。

社員の健康管理をするための取り組み

社員の健康管理を重要視する企業は、さまざまな取り組みを通じて従業員の健康と福祉を促進しています。ここでは、社員の健康管理をするための取り組みについて8つの例を解説します。

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労働時間を見直す

社員の健康管理を推進する際、労働時間の見直しは重要なポイントです。過度な残業や長時間労働を避けるために、労働時間の適正な制限と管理を行いましょう。

フレックスタイムやリモートワークの導入は、柔軟な勤務体制を提供し、従業員のワークライフバランスの改善に期待できます。また、業務プロセスの見直しやタスクの優先順位付けを行うことで、効率的な業務管理も可能です。

健康への意識を高めるために休憩時間の確保や健康促進プログラムも導入し、生産性向上と共に従業員の健康状態を向上させる取り組みが重要です。

健康診断を実施する

健康診断の実施は、身体的な健康だけでなく生活習慣やストレスも評価し、健康リスクを総合的に把握できます。個別の診断結果を従業員と共有し、適切なアドバイスを提供します。

プライバシー保護に十分気を配りつつ、集計結果を匿名で分析し、組織全体の健康トレンドを把握することが重要です。これにより、早期の健康課題を把握し、健康な職場環境の促進や従業員のモチベーション向上が期待されます。

ストレスチェック制度を導入する

ストレスチェック制度は、従業員のメンタルヘルスを評価し、適切な対策を講じるための取り組みです。専用のチェック表を使用して従業員がストレスの度合いを評価し、職場のストレス要因を把握します。

これにより、個々のストレスレベルや原因を特定し、適切な支援策を提供できるようになります。異常な結果が見られる場合、カウンセリングや専門家への紹介を行い、早期の支援を行います。

ストレスチェック制度の導入により、職場のストレス要因を把握し、予防策や改善策を実施することが可能となります。ただし、従業員のプライバシーを尊重し、匿名性を保護するための仕組みが必要です。

ストレスチェックの項目

ストレスチェックには、57項目版と80項目版があります。57項目版では基本的なストレス要因や健康状態に関する項目が含まれていますが、80項目版ではさらに詳細な観点が追加されています。

80項目版では、働きがいやワークエンゲージメント・ハラスメント・上司のマネジメント・人事評価などの項目が含まれており、これにより職場環境や人間関係、職務遂行に関連する幅広い側面を評価することが可能です。

また、80項目版は集団分析を通じて職場改善策を検討する際にも有利です。これにより、従業員のストレス要因や満足度をより詳細に把握し、適切な対策を導き出すことができます。

参考：職業性ストレス簡易調査票（57 項目）｜厚生労働省

参考：職業性ストレス簡易調査票(80 項目版)｜厚生労働省

安否確認を把握できるようにする

安否確認を導入することで、災害や緊急時に従業員の安全を確認し、迅速な対応が可能となります。連絡先情報の集約や更新、緊急連絡体制の整備を通じて、従業員が安否を報告しやすい環境を構築します。

また、家族情報の収集も行い、従業員と家族の安全を確認できるようにします。ただし、プライバシーとセキュリティも考慮し、情報漏洩を防ぎつつ効果的な安否確認を実現しましょう。

快適な職場環境を整備する

社員の健康管理を促進するためには、快適な職場環境を整備することが重要です。適切な照明や通気性のある空間、快適な温度調整など、快適さを提供する必要があります。また、作業スペースの適切な配置やデスクの高さ調整など、作業効率を高める工夫も欠かせません。

精神的な健康に配慮するためには、ストレス軽減のためのリラックススペースや休憩室の提供、静かな作業スペースの確保などが有効です。

これらの要素を考慮し、職場環境を整備することで、社員はより快適で健康的な環境で働けるため、モチベーションや生産性が向上し、企業と社員双方にとってメリットをもたらすことが期待されます。

福利厚生を充実させる

福利厚生の充実も健康管理において重要な取り組みです。企業は、健康保険や厚生年金をはじめとする社会保険制度を提供するだけでなく、健康増進のための施策を実施することも求められます。

具体的な取り組みとしては、フィットネス施設の提供・健康診断やメンタルヘルス支援の充実・リラクゼーションルームの設置などがあります。また、柔軟な休暇制度や在宅勤務の機会を提供し、ワークライフバランスを促進することも大切です。

福利厚生の充実は、社員の満足度や忠誠心を高めるだけでなく、優秀な人材の獲得と定着にも繋がります。企業はこれらの取り組みを通じて、社員の健康と幸福を支援し、組織全体の生産性を向上させることができます。

健康に関する研修やセミナーを実施する

定期的に健康に関する研修やセミナーを実施することもおすすめです。これにより、従業員は健康に関する知識や情報を得る機会を提供され、健康的な生活習慣が促進されます。

栄養・運動・ストレス管理・メンタルヘルスなど幅広いテーマをカバーすることで、参加者は自身の健康に対する意識を高めることができます。また、専門家やトレーナーの指導の下で学ぶことで、正しい情報を広め、健康への取り組みが効果的に行われるよう支援します。

相談窓口を設置する

相談窓口の設置は、社員の健康管理を支援する効果的な取り組みです。従業員が仕事やプライベートの悩み・ストレス・メンタルヘルスの問題などを匿名で相談できる場所を提供することで、コミュニケーションを促進し、心身の健康をサポートします。

専門家によるアドバイスやカウンセリングを受けることで、問題を早期に発見し、適切な対策を講じることができます。相談窓口の存在は従業員の信頼を築き、職場の雰囲気を向上させ、ストレス軽減やメンタルケアの向上に寄与します。

社員の健康管理を行う際の注意点

社員の健康管理を行う際、注意すべき点が2つあります。注意点を知らずに健康管理を実施すると、健康管理を適切に行えない可能性があるため、実施する前に把握し、必要に応じて準備を済ませてから実施しましょう。

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業務への影響を考慮する

社員の健康管理を行う際は、業務への影響を考慮する必要があります。健康管理業務は人事総務部などが担当することが多いですが、従来からの業務に健康管理業務がプラスされるため、業務負担が増えます。

また、セミナーや研修を実施する場合、通常業務の時間を割いて参加してもらう必要があります。人的リソースが不十分な状態での健康管理の実施は、業務がパンクする事態につながるため、業務への影響を考慮した上で十分な準備をしてから実施しましょう。

個人差を想定した運用が必要

健康状態・健康意識は個人によって大きく異なるため、自社で行う健康管理による効果も個人差が生じます。普段から健康を意識した生活を送っている従業員とそうでない従業員に同じセミナーを受講させても、同じだけの受講効果は期待できません。

健康意識の低い社員が多い企業の場合、健康管理を実施する効果が思うように得られないかもしれませんが、健康管理の必要性は非常に高いと言えます。健康意識や現在の健康状態などの個人差にどう対応すべきかを考えて運用しましょう。

参加を強制しない

「安全配慮義務」の遵守は絶対に必要なものですが、企業で独自に実施する健康管理プログラムに関しては、参加を強制すべきではありません。

たとえば、健康セミナー・eラーニング・スポーツイベントなどのプログラムが考えられますが、これらへの参加は従業員が自由に決められるようにしましょう。

健康管理プログラムの実施は、社会的なイメージ向上には効果的かもしれませんが、最も重要なのは従業員が健康な状態を保つことです。参加を強制すれば、新たなストレスの原因にもなってしまいます。自発的な参加を促す環境づくりを目指しましょう。

円滑・効率的な健康管理にはシステムの導入がおすすめ

健康管理システムは、従業員の健康管理を円滑・効率的に行うためのツールであり、アプリを活用したものもあります。このシステムは、従業員の健康データや健康診断結果を一元的に管理し、健康情報の入力やスケジュールの確認を容易にします。

従業員一人ひとりの健康状態に合わせたカスタマイズも可能で、データの分析による健康トレンドの把握や予防策の提案が行えます。健康管理システムを導入することで、従業員は手軽に健康情報を管理し、自身の健康状態に関心を持ちやすくなります。

また、リアルタイムな情報提供や健康アドバイスを通じて、健康増進への積極的な取り組みが期待できます。

まとめ

企業の健康管理は、従業員の安全と健康を保護する社会的責任です。健康な職場は、生産性向上と離職リスク低減に繋がります。健康管理システムの導入は、情報共有を助け、従業員エンゲージメントを高め、効果的な管理を可能にします。

また、アプリなどのオンラインプラットフォームは従業員とのコミュニケーションを強化し、エンゲージメントを高めます。

従業員は自身の健康情報にアクセスし、健康状態を管理できます。企業の健康管理は、企業と従業員の双方にとってメリットがある重要な取り組みです。