電子契約における法改正の内容|電子契約の変更ポイントも解説
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- 電子契約に関する法律が改正され、契約書類における電子化の内容が緩和されている
- 法改正による電子契約の変更ポイントは、タイムスタンプ要件や検索要件の緩和である
- 法改正による電子契約の注意点は、電子契約で対応できない法律があること
電子契約に関する法律が近年も改正され、国税関係書類の電子化に関する法律が緩和されるなか、多くの企業で書面の電子化やデジタル化が進んでいます。本記事では、電子契約における法改正の内容や変更ポイントを、分かりやすく解説します。
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電子契約に関する法改正
政府のデジタル化の推進にともない、電子契約に関する法律の改正・施行が2021年・2022年と立て続けに行われました。それにより、電子契約に関する規制が緩和され、電子契約導入のハードルが低くなりました。ここでは、電子契約に関する法律改正の概要を解説します。
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電子帳簿保存法
電子帳簿保存法は、税務関係の帳簿や書類のデータ保存を可能にする法律で、1998年7月に施行されました。その後、2005年4月に施行されたe-文書法の影響もあり、幾度もの改正を経て、現在は2021年・2022年に改正されたものが最新となっています。
以前は、帳簿や書類の電子保存には、さまざまな要件を満たす必要がありました。しかし、今回の改正ではその要件が大幅に緩和され、中小企業も含めて電子帳簿の電子化を進めやすくなっています。
電子帳簿での保存は、今までの紙媒体の保存に比べ、帳簿整理の手間や保管スペースの削減、帳簿整理のための備品や消耗品などのコスト削減などのメリットがあります。また、業務の効率化による人的コストの削減にもつながります。
デジタル改革関連法
デジタル改革関連法とは、2021年5月12日に参院本会議で可決・成立された、デジタル社会の実現を目指す6つの法律を指します。成立の背景には、国や民間を問わずデータ活用が不可欠となった社会に、現行の法体系が対応しきれていないことが挙げられます。
デジタル庁の設置もこの法律の1つであるデジタル庁設置法に基づいています。この6つの法律の中で、企業のデジタル化の推進に大きくかかわるのはデジタル社会形成整備法で、48の法律が一括改正され、押印義務の廃止や書面化義務の緩和などが図られています。
法改正による電子契約の変更ポイント
ここでは、電子帳簿保存法やデジタル改革関連法の改正により、電子契約がどのように変更されたのかを具体的に解説します。大きな変更ポイントは下の6つです。
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法改正による電子契約の変更ポイント
電子帳簿保存法による保存義務
電子帳簿保存法による保存義務には、電子帳簿等保存・スキャナ保存・電子取引の3種類があります。ここではその3種類についてより具体的に解説します。
電子帳簿等保存
改正前までは、電子帳簿の保存に8つの要件を満たす必要がありました。しかし改正により、要件が緩和され、電子保存がしやすくなっています。要件には例としていかのようなおのがあります。
- システム関係書類の備え付け
- パソコンとその周辺機器の整備とマニュアルの備え付け
- 税務署員の質問検査権によるダウンロードの求めに応じる
そして、改正前の保存要件を満たす場合は、優良な電子帳簿として認められ、万が一申告漏れがあった場合でも、過少申告加算税が5%軽減されるというメリットも付け加えられました。
スキャナ保存
スキャナ保存では、受領者がスキャナで読み取る際の国税関係書類への自署が不要となりました。また、検索要件も緩和され、必要な検索項目は、取引年月日・取引金額・取引先の3つのみとなりました。
検索では範囲指定や複数項目を組み合わせた検索機能が必要ですが、税務職員の質問検査権に基づくデータのダウンロードの要求に応じられればこの検索要件は不要になっています。これらの緩和で、スキャナ保存が楽にできるようになりました。
また、スキャナ保存に対する要件の緩和に対し、適正なスキャナ保存を担保するために不正があった場合の重加算税の加重措置が加わりました。隠蔽・仮装の事実がある場合は、申告漏れ等に課される重加算税が10%加重されます。
電子取引
改正された電子帳簿保存法では、電子取引であっても出力書面での保存が許可されていましたが、その制度は廃止さ れました。したがって、電子取引を行う場合は電子データでの保存が義務づけられました。ただし、消費税における電子取引については除かれています。
また、スキャナ保存と同様に不正があった場合は重加算税の加重措置が行われます。ただし、電子取引での電子データ保存の義務化は、2023年12月31日までの猶予期間が設けられています。現在対応できていなければ早急な対応が必要です。
事前承認制度の廃止
電子帳簿等保存・スキャナ保存では、2022年1月以降、承認制度が廃止され、届出の必要がなくなりました。それまでは、保存開始3ヶ月前までに所轄税務署長の承認を受ける必要があり、電子帳簿保存推進の妨げの一因ともなっていました。
事前承認制度の廃止で、各企業はそれぞれの都合で電子帳簿保存の開始ができるようになりました。ただし、過少申告加算税の5%軽減の適用を受ける場合は、適用を受けるための届出書の提出が必要です。なお、電子契約については以前から届出は不要でした。
タイムスタンプ要件・検索要件の緩和
改正された電子帳簿保存法では、スキャナ保存と電子取引でのタイムスタンプ付与期限が大幅に緩和され、2ヶ月と概ね7営業日以内と延長されました。改正前のスキャナ保存では、受領者が行う場合は概ね3営業日以内、経理担当者が行う場合は最長約2か月以内でした。
さらに、改正前までは発行者と受領者両方のタイムスタンプ付与が必須でしたが、訂正や削除の履歴が残る会計ソフトや経費精算システムなどを利用すれば、タイムスタンプの付与が不要になり、タイムスタンプ付与は必須の条件ではなくなりました。
適正事務処理要件の廃止
改正前の電子帳簿保存法では、スキャナ保存の際に、適正事務処理要件を踏まえる必要がありました。しかし、改正で適正事務処理要件は廃止されました。
それにより、タイムスタンプ付与担当者以外の事務担当者が不要となり、事務担当者以外のチェックや定期検査も不要になりました。また、スキャン後は電子データが原本となり、紙媒体を保存しておく必要もなくなりました。
タイムスタンプ要件の緩和・検索要件の緩和・適正事務処理要件の廃止で、スキャナ保存は各段にやりやすくなり、ペーパーレス推進の原動力にもなっています。
押印義務の廃止
デジタル改革関連法の中のデジタル社会形成整備法で、総務省・財務省・金融庁・法務省・国土交通省・厚生労働省に関連する22の法律で押印が廃止されました。その中には不動産取引も含まれ、電子化の遅れていた不動産関係も電子データ化が全面的に認められました。
しかし、押印はなくても、その文書が本人の意思で作成されていることを証明できなくてはなりません。そこで、推奨されているのが、押印の代替手段の1つである電子署名の活用です。これにより、今まで対面で行っていた業務がテレワークで行えるようになります。
電子署名法では電子署名に、本人によって作成されたものであること(本人性)、改ざんされていないこと(非改ざん性)の2つを要件として要求しています。そのために、印鑑証明の代わりになる認証局が発行する電子証明書が必要となります。
参考:押印、対面規制の見直し・電子署名の活用促進について|内閣府ホームページ
書面化義務の廃止
書面化義務の緩和は、内閣府・金融庁・総務省・法務省・農林水産省・経済産業省・国土交通省関係の32の法律で行われました。それにより、これまで書面での契約や交付が義務づけられていた書類のデータ化ができるようになりました。
特に、2022年5月の宅地建物取引業法の改正・施行で行われた書面化義務の廃止は、不動産業界に大きな変化をもたらしました。重要事項説明や37条書面への押印が不要となり、電子データでの交付が可能になったことで、不動産取引での電子契約が全面解禁されました。
参考:押印、対面規制の見直し・電子署名の活用促進について|内閣府ホームページ
法改正による電子契約の注意点
法改正により電子契約の要件が緩和され、既に電子契約の導入を決定した企業や、これから導入しようと考えている企業が増えてきています。ここでは、電子契約を導入する場合の注意点を解説します。
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法改正による電子契約の注意点
業務フロー整備が必要
電子契約の場合は、今までの書面契約での業務フローから若干の変更が必要です。たとえば、IT書面一括法で、電子契約には顧客の承諾が必要とされています。したがって、事前に顧客に対して電子契約で行うことを知らせ、承諾してもらうステップが必要になります。
電子契約が顧客の業者選択における一つの指標になる場合もあります。顧客が電子契約を拒んだ場合に、書面での契約が行えるフローを残しておくのも一つの方法です。
逆に、紙書面で必要であった印刷・製本・押印・郵送・訪問・ファイリング・台帳作成などのステップは必要ありません。また、テレワークも行いやすくなるので、企業によっては業務フローの一部に加えていくのもおすすめです。
電子契約で対応できない法律がある
さまざまな法改正で、電子契約を行いやすくなりましたが、公正証書化の必要があるものや消費者を保護すべきものには、法律で書面交付を義務つけている契約や文書があります。その一例を下に紹介しておきます。
- 事業用定期借地契約(借地借家法23条)
- 企業担保権の設定又は変更を目的とする契約(企業担保法3条)
- 任意後見契約書(任意後見契約に関する法律3条)
なお、特定商取引法が2023年6月1日に改正・施行され、特定商取引の契約などの書面について、一定の条件のもとで電子データなどでの交付が認められるようになりました。
法改正に対応した電子契約には電子契約システムが有効
国のIT化推進により、電子契約関係の電子帳簿保存法・電子署名法・e-文書法・IT書面一括法などの改正が進み、各企業でも電子契約を導入しやすくなりました。しかし、これらの法律を隅々まで理解して、業務を行うには難しさもあります。
そんな不安にこたえるのが、電子契約システムです。現在販売されている電子契約システムは、今回の法改正にも対応していて、システムで進めていけば法に抵触することはなく、安心して利用できます。
外部の機関から取得する必要がある電子署名やタイムスタンプも、電子契約システムを使えば、申請書を提出することなく、手軽に利用できます。その際の手数料もクラウド型の導入であれば使用料に含まれているものがほとんどです。
また、電子契約システムには、契約書テンプレート機能・ワークフロー管理機能・契約書送信合意機能など、電子契約の安全性を守るための機能や業務の効率化を図る機能を多く搭載しています。電子契約システムを導入する際には、自社に合った機能を選ぶのが大切です。
電子契約システムとは、企業などが契約時に交わす署名や押印等の書類でのやり取りを電子上で行うことができるシステムです。この記事では、電子契約システムの仕組みや、メリット・デメリット、選び方や導入する際の注意点などを解説します。
おすすめの電子契約システム9選|選び方や導入手順を詳しく解説
電子契約システムとは、PDF形式の契約書にインターネット上で押印や署名をして契約締結できるシステムのことです。システムの導入をしたくても種類が多くてどれを選べば良いか分からない企業もあるでしょう。本記事では、おすすめの電子契約システムと選び方を解説しています。
まとめ
電子契約は、電子帳簿保存法・デジタル改革関連法などの改正による電子化の要件緩和が進み、各企業で取り入れやすくなりました。特に、事前承認制度の廃止やタイムスタンプ要件が緩和されたことは大きな影響を与え、中小企業の導入も進みつつあります。
ただし、すべてが電子化できるわけでなく、法律上電子契約ができない契約や文書があるので、注意しなくてはいけません。これから電子契約を導入するなら、電子契約システムの利用が有効で、各企業の業務の効率化にも大きな力となります。
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