労務業務を効率化させる方法|ポイント・手順・役立つツールを解説
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- 労務業務は、勤怠管理・給与計算・社会保険など、労働に関すること全てを含んでいる
- 労務業務を効率化させるには、業務の分類や期間によるスケジュール化がポイントになる
- 労務業務の現状把握・課題の明確化・実行とフィードバックを行うことが効率的である
労務業務は、従業員の労働環境に関わることを行うため、労務業務の効率化は、労働者の労働効率や、会社全体の労働環境と生産性に関係します。本記事では、労務業務の内容と労務業務を効率化させるポイント、改善する手順を解説し、効率化に役立つツールも紹介します。
労務とは
企業において、一般的に労務とは労働に関する業務全般を指します。報酬を目的とした労働自体も労務と呼びますが、労務業務には、勤怠管理・給与計算・社会保険など、労働に関する全ての業務が含まれます。
労務業務は、従業員の労働環境に関わることを行うため、労務業務の効率化は、労働者の労働効率、ひいては会社全体の労働環境と生産性にも関係します。
労務業務を効率化するには、現状を把握し、課題を明確にしてから、改善計画をスケジュール化し、実行・フィードバックを行うのが効率的です。その際は、業務の分類やスケジュール化、ITツールによるデジタル化、アウトソーシングの活用といった対策がポイントです。
主な労務業務の内容
労務業務の主な内容は、勤怠管理や給与計算など多岐にわたります。労務業務を人事管理の一部として考えるケースもありますが、ここでは、労務と人事は異なるものとして解説していきます。
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勤怠管理
勤怠管理とは、出退勤や残業時間、有給休暇の取得状況などを管理する業務です。残業があった場合は、その時間に応じて割増賃金を支給します。
労働時間・残業時間・休憩時間・休日は、企業側の都合で決められるものではなく、労働基準法に従って管理する必要があります。仮に違反した場合は、企業側に罰則が科されます。
そのため、労務担当者は、従業員の就業時間を1日・1週間・1ヵ月単位で確認し、残業時間が労働基準法の範囲内に収まるように、管理しなければなりません。
労働基準法で定める労働時間・休日に関する主な制度は以下の通りです
- 労働時間は、原則として、1日8時間、1週間40時間まで
- 休憩時間は、労働時間が6時間を超える場合は45分以上、8時間を超える場合は1時間以上
- 休日は、少なくとも毎週1日、あるいは4週間を通じて4日以上
- 残業時間(休日労働を含まない)の上限は、原則として1ヵ月45時間、年間360時間まで
給与計算
給与計算とは、勤怠情報を基に従業員の給与額を計算する業務です。具体的には、従業員ごとの賃金形態に基づいて給与を計算し、割増賃金・住宅費・交通費などの各種手当を加算して、控除額を差し引いた後に、支給額を決定します。
給与計算は給料日前に業務が集中するため、一時的に担当者の負担が増加します。さらに、手作業による給与計算は膨大な仕事量となり、人為的ミスの発生に繋がります。
給与計算でミスが発生すれば、従業員との信頼関係に悪影響を及ぼす可能性もあります。そのため、数ある労務業務の中でも、給与計算は特に責任重大な業務だと言えます。
社会保険
民間企業では、一定の要件を満たした際、従業員は社会保険・労働保険に加入しなければなりません。従業員の入社・退社時などに、労働・社会保険の手続きを行うのは、労務担当者の仕事です。
なお、保険への加入は、書類の作成・届出に期日があるため、期日内に、正確に手続きを完了しなければなりません。
保険の手続きを忘れていた場合、病気やケガ、年金受給の際などに、従業員が不利益を被ってしまいます。そのため、労働・社会保険の業務は、正確性が求められる業務と言えます。
労務業務で扱う保険は、以下の通りです。
- 社会保険:健康保険・厚生年金保険・介護保険(40歳以上)
- 労働保険:雇用保険・労災保険
年末調整
年末調整とは、1年間に源泉徴収された所得税などについて再計算し、支払うべき所得税の金額との過不足を精算する業務です。
所得税は、1年分の所得に対して支払われる税金であるため、本来は所得が確定してから一括で支払うものです。しかし、1度に全額を支払うと、従業員の負担が大きくなるため、多くの場合、企業が毎月の給与から所得税の概算を源泉徴収しています。
年末調整は、ごく一部の人を除き、企業が給与を支払っている全ての従業員が対象となります。なお、派遣社員は、派遣元の企業が年末調整を行います。
年末調整は、所得税の計算だけでなく、従業員への書類の配布・問い合わせへの回答・所得税の還付・追加徴収まで含まれるため、膨大な作業量になります。期日内に正確に処理するためには、11月頃から計画的に進めていく必要があります。
福利厚生
福利厚生とは、企業が従業員とその家族に対して、給与や賞与とは別に支給する報酬のことです。企業が福利厚生を整備する目的は、従業員のモチベーションアップと、人材の定着、生産性の向上です。
福利厚生には、法定で定められた「法定福利」と、社内で独自に定める「法定外福利」の2種類があります。
法定福利には、健康保険・雇用保険・労働保険などの各種保険が含まれます。労務担当者は、採用時に社会保険の加入手続きを行い、従業員の住所・扶養家族等に変更が合った際は、年金事務所へ届け出ます。
また、法定外福利は、企業が任意で実施している福利厚生です。主なものに、社宅の提供・育児支援・特別休暇・慶弔見舞金などが挙げられますが、企業により内容が異なるため、労務担当者は、自社の規定を正しく理解しておく必要があります。
参考:調査の結果|厚生労働省
人事関連規程管理
人事関連規程とは、就業規則や社内規定を管理する業務のことです。就業規則とは、労働条件や服務規律をまとめた規則類を指します。社内規程とは、企業が独自に定める社内ルールのことです。
従業員10名以上の企業の場合、就業規則の作成、および行政官庁への届出が義務付けられています。労働基準法で作成が義務付けられているものに、以下の事項が挙げられます。
- 始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇並びに就業時転換に関する事項
- 賃金の決定、計算・支払の方法、賃金の締切り・支払の時期、昇給に関する事項
- 退職に関する事項(解雇事由を含む)
社内規定は企業により異なりますが、主なものとしては、人事評価規程・育児介護休業規程・通勤(マイカー)規程などが挙げられます。
就業規則・社内規定は、時代や事業規模の変化に合わせて、適切なタイミングで改定していくことが重要です。
安全衛生管理
安全衛生管理とは、健康診断の結果の記録と従業員への通知、対象者への保健指導、労働基準監督署への報告を行う業務です。
健康診断は、採用時のほか、年1回以上の割合で定期的に実施しなければなりません。さらに、通常の健康診断に加えて、近年のメンタルヘルス対策の重要性から、2015年12月1日より、1年ごとのストレスチェックの実施が義務化されています。
その他にも、セクハラ・パワハラ・マタハラといったハラスメント対策、長時間労働の是正なども、安全衛生管理に含まれます。
労務業務で効率化できること
労務業務の中で効率化できることとしては、人事計画と採用活動、人材育成が挙げられます。ここでは、効率化によって生産性を上げることができる、これらの業務内容を解説します。
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人事計画
人事計画では、現状でどれだけの人材が足りないのか、部門ごとにどのような人材を欲しているのかといった、これからの人事配置における計画を行います。そして、新規採用に頼らずに、今いる人材をどのように配置すれば効率化できるかを考えます。
従業員数が多い企業であるほど、人事計画は難しく、最近ではITツールを活用して人事計画を行っている企業もあります。人事計画の基本は、部署ごとの担当者にヒアリングを行い、必要とする人員の数や要件を算出して行います。
採用活動
現状のリソースでは十分でないと判断した場合、企業は採用活動を行います。採用活動は、人材の募集から内定・入社まで全てを行う必要があり、ただ募集をかければ良いのではなく、エージェントや上司など、大勢の人とのコミュニケーションを必要とします。
そのため、採用活動で効率化できることは限られます。例えば、採用までのプロセスを見直して課題を見つけ出し、優先順位を付けます。そして、ITツールを活用してコミュニケーションの部分を自動化することを考えます。
人材育成
新入社員研修をはじめとして、労務業務では人材育成も大きなポイントです。新たな人材採用にコストをかけることなく、優秀な人材を育成することができれば、人件費を抑えながら企業の収益を向上させることもできます。
昨今では、デジタル化に伴って社内全体への教育を行うことも珍しくなく、労務業務では様々な対応が求められています。なお、人材育成と合わせて評価業務を遂行し、従業員の業務に対するモチベーションの向上にも繋げる必要があります。
労務業務の効率を改善する手順
労務業務の効率化には、以下の手順に沿って改善を進めることが有効です。ここからは、労務業務の効率を改善する手順について解説していきます。
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労務業務の効率を改善する手順
現状を把握する
業務の効率化には、まず業務の現状を把握する必要があります。そのためには、従業員にヒアリングを行い、どのような業務があり、一つひとつにどれくらいの工数と時間がかかっているかを確認しなければなりません。
業務の洗い出しができたら、フローチャートを活用して、業務を整理していきます。業務の現状を把握することは、業務の重複や煩雑化・属人化といった課題を見つける手助けとなるため、時間がかかっても必ず行いましょう。
課題を明確にする
業務の現状が確認できたら、業務を実施する中での問題点や課題を発見することが必要です。現状の課題を明確にすることは、非効率な業務を特定し、改善に導く手助けとなります。
その際、問題点や課題を発見するには、重複業務・煩雑化している業務・属人化している業務をポイントに探してみるのも1つの方法です。
問題点や課題を改善するためには、社内会議や業務改善の専門家と意見交換したり、同業他社の事例を参考にしてみるのもいいでしょう。
改善策をスケジュール化する
課題を明確にした後は、改善策をスケジュール化します。スケジュール化する際は、業務を細分化し、改善に必要な作業を洗い出しましょう。改善に必要な作業が分かったら、それぞれの作業にかかる時間・工数を計算し、リソースを割り当てていきます。
例えば、依存関係にある業務から先に取り掛かり、関連する作業は並行して行うことで、時間や工数を削減することができます。
また、作業の進捗状況を把握するためには、あらかじめマイルストーンを設定しておきましょう。マイルストーンを設定しておけば、スケジュールに遅れが生じた際も、早急に対応することができ、新たな課題の発見にも繋がります。
改善計画の実行とフィードバック
改善計画は実行して終わりではなく、実行した後の効果検証が重要です。効果検証を行う際は、改善計画を実行する前と後の状況を比較したり、関係者からのフィードバックを参考にしましょう。
効果検証の結果、改善がされていない業務については、新たな改善計画を検討する必要があります。効果検証と改善計画の検討・実行を繰り返し、PDCAを回し続けることで、業務を最善の状態に近づけることができます。
労務業務を効率化させるポイント
続いて、労務業務を効率化させるポイントについて解説していきます。労務業務を効率化するには、以下のポイントを意識して取り組むようにしましょう。
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労務業務を効率化させるポイント
業務を分類する
労務業務は、定型業務と非定型業務に分類することができます。これにより、業務プロセスが可視化され、改善点の発見に繋がります。
定型業務とは、決まったプロセスで行われる業務のことで、勤怠管理や給与計算などが挙げられます。定型業務は、自動化・標準化しやすく、業務プロセスを最適化することで、業務の効率化が図れます。
対して、非定型業務とは、個々のケースに合わせて対応が必要となる業務のことで、従業員からの問い合わせへの回答、ハラスメント対応などが挙げられます。
非定型業務は、個々の状況に合わせた判断が必要となるため、自動化・標準化しにくく、適切な人材を配置することが、業務の効率化に繋がります。
業務の必要性と重要度を見極める
労務業務を効率化させるには、業務の改善も必要ですが、不必要な業務がなくなれば、それだけで大幅な効率化が実現できます。
業務にムダがないか確認したり、優先順位を決めたりして、できるだけシンプルな業務にすることが効率化のポイントになります。その際、フローチャートを活用すれば、業務を俯瞰的に捉えることができます。
例えば、フローチャートに工数・予算・発生頻度などの情報を加えておけば、業務のムリ・ムダ・ムラを発見しやすくなります。なお、業務の必要性・重要度を見極めるには、その業務がなくなると、どのような影響があるかを検討してみるのもいいでしょう。
検討の結果、必要性のある業務は自動化・標準化を検討し、できるだけシンプルな業務になるよう改善していきます。必要性がないと判断された業務は、廃止・統合して、効率化を図りましょう。
年間スケジュールを立てる
労務業務の範囲は非常に広く、並行して作業するのは難しいため、年間スケジュールを作成する必要があります。年間スケジュールを作成することにより、1年の業務の流れが可視化され、優先順位や期日を明確にすることができます。
年間スケジュールの作成により、定期業務と期限つき業務が一元管理できるため、並行できる作業を割り出し、重複作業は排除するなどして、業務の効率化を図ることができます。
また、年間スケジュールを基に、リアルタイムの進捗状況も把握できるため、業務の大幅な遅延を防ぐことにも繋がります。
業務を適切に分担する
労務業務は、業務の内容によって、担当者が固定化される傾向にあります。そんな業務負担の偏りを軽減するには、業務の適切な分担を行う必要があります。
業務負担の偏りを防ぐには、社内で業務の進め方やノウハウを共有し、進捗状況や課題を報告する場が必要です。業務の情報を共有することで、どの担当者も一定レベルのアウトプットを出せるようになります。
また、業務のノウハウをマニュアル化すれば、個人の経験や能力に頼る必要がなくなるため、属人化の防止に繋がります。そして、属人化の防止によって人材の育成が進み、最適な人材配置を実現することができます。
ペーパーレス化・デジタル化を進める
ペーパーレス化・デジタル化を進めることにより、労務業務の効率が大幅に向上します。従来の紙による管理を続けると、書類の発行・保管・検索に時間がかかり、手作業による記入漏れ・計算ミス・データの改ざんといったリスクを伴います。
さらに、書類を保管するためのファイルやスペースも必要となり、書類の紛失・盗難の可能性も否定できません。このように、紙での管理は、従業員が増えるほど負担が大きくなり、業務効率の低下を招きます。
しかし、労務業務がデジタル化されれば、書類の作成・発行・保管・検索業務が自動化されるため、作業時間の短縮によって業務効率が大幅に改善されます。
また、ペーパーレス化が進めば、書類を印刷するための費用や、書類を保管するためのファイル・キャビネット・人件費が不要となり、コスト削減にも繋がります。
労働管理に特化したITツールを導入する
労働管理に特化したITツールを導入することにより、人為的ミスや手間が軽減されます。例えば、労務管理システムを活用すれば、社会保険の手続きに必要な書類を電子申請できるため、届出の手間や時間を省くことができます。
労務業務が自動化されれば、労働時間や勤怠情報をリアルタイムで把握することができ、業務の正確性やスピードが向上します。さらに、手作業による記入漏れ・計算ミスといった人為的ミスも軽減され、データの改ざんなどの不正防止にも繋がります。
専門家に委託する
労務業務は多岐に渡るため、社内のリソースだけでは、対応しきれない場合もあります。法律などの専門的な知識や経験が必要とされる場面もあるため、専門家に委託することも検討してみましょう。
業務をアウトソーシングすることにより、法令遵守に関するリスクが軽減されます。法改正の際などは、法律に関する専門家に協力してもらうことで、法令違反を犯すことなく、スムーズに対応することができます。
なお、社内で人材を育成するよりも、アウトソーシングの方がコストがかからない場合もあります。ただし、アウトソーシングの導入にあたっては、業務に関する認識を一致させるために、手間と時間がかかります。
アウトソーシング先によって、対応レベルやセキュリティ対策に違いがあるため、十分に比較検討してから選ぶようにしましょう。
労務業務を効率化するツール
労務業務を効率化するツールの1つに、労務管理システムが挙げられます。労務管理システムとは、労務に関するさまざまな業務を自動化するツールのことです。システムの主な機能とメリットをまとめると以下の通りです。
労務管理システムの主な機能
- 従業員の基本情報の管理
- 勤怠情報の管理(勤務時間・残業時間・有給休暇の残日数の自動集計など)
- 就業規則の管理
- 福利厚生の管理
- 給与計算
- 入社・退社に関する手続き
- 年末調整の手続き
- 労働・社会保険の手続き
- 雇用契約書の作成・締結
労務管理システムのメリット
- 従業員の情報が一元管理できるため、従業員が増えても業務負担が変わらない
- 書類作成が効率化され、人為的ミスが軽減される
- 書類の発行が自動化され、各種手続きが早くなる
- 書類をデータ上で一元管理できるため、書類の保管・検索に手間やコストがかからない
- 労働・社会保険の手続きに必要な書類を電子申請できる
以上のように、労務管理システムには多くのメリットがあり、業務の効率化には有効なツールと言えます。ただし、運用する規模によっては、コストが高額になる場合もあるため、費用対効果を見極めてから導入を検討しましょう。
まとめ
労務業務を効率化させるには、業務の分類・スケジュール化を行い、できるだけシンプルな業務にすることがポイントとなります。
労務業務の効率を改善するには、業務の現状把握・課題の明確化・実行とフィードバックを行うことが効率的です。さらに、ペーパーレス化・デジタル化を進めることも有効な手段です。改善計画の実行後は必ず効果検証を行い、業務プロセスの最適化を図りましょう。
労務業務の効率化を進める際は、この記事を参考に改善計画を作成し、アウトソーシングや労務管理システムの導入も検討してみましょう。
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