労務管理とは|勤怠管理との違いやメリット・ポイントを解説

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  • 労務管理は従業員の働きやすさに大きく影響し、人材の生産性向上にも関わる業務である
  • 勤怠管理だけでなく、社会保険・雇用保険・ハラスメントへの対策も労務管理に該当する
  • 労務管理を行う際は、法令遵守の他、情報管理意識と改善意識を持つことが大切である

労務管理とは、勤怠管理や給与計算など従業員の職場環境を管理する業務のことで、企業の生産性を向上させるために重要な業務となります。本記事では、労務管理の目的・課題・仕事内容や、労務管理をする際のポイント、労務管理に役立つ資格について解説します。

目次

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  1. 労務管理とは
  2. 労務管理の仕事内容
  3. 労務管理の課題
  4. 労務管理のポイント
  5. 労務管理に役立つ資格
  6. 労務管理の効率化にはシステム導入がおすすめ
  7. まとめ

労務管理とは

労務管理とは、従業員の職場環境を管理する仕事を指します。例えば、労働時間・賃金・福利厚生を管理したり、ハラスメントや健康管理における対策を実施したりします。つまり、労務管理は従業員が心置きなく業務を行うための職場環境作りとも言えます。

従業員の働きやすさに大きな影響を及ぼすため、どの企業においても非常に重要な業務です。また、労務管理では就業規則や福利厚生の管理を行い、企業が法令違反を行わないように取締りを行う役割も併せ持っています。

そのため、法令を順守して企業の信頼を得る観点からも、労務管理は必要不可欠な業務と言えるでしょう。

労務管理の目的

企業が保有する経営資源は、ヒト・モノ・カネ・情報などに相当しますが、人材の採用・管理などヒトに関連する業務は、あらゆる企業において優先度が高いです。なぜなら、企業活動の効果は人材の量・質に大きく影響されるからです。

労務管理の主な目的は、人材の生産性向上です。やりがいを持って働ける労働環境や安心して働ける環境など、労働環境を適切な状態に維持することが業務であるため、重要な役割を担っています。

生産性が向上して企業の業績が上がれば、優秀な人材の採用にもつながるため、さらに生産性向上や企業価値の向上が期待できます。

労務管理と人事管理の違い

労務管理は、従業員の労働時間・給与・労働条件など、従業員の労働環境を管理します。そして、給与の計算・福利厚生・労働安全上の衛生管理・福利厚生など、より働きやすい環境の構築を図ります。

一方、人事管理は従業員の新規雇用・人材育成・退職などの管理で、労働者自体を管理します。その他にも、従業員の評価・従業員が持つ能力を最大限に生かせる人材配置など、労働者に関する業務を担います。

つまり、労務管理と人事管理はそれぞれ異なる対象を管理しています。しかし、2つの業務は1つの部署で管理されることもあるため、勘違いされるケースも少なくありません。適切な人事労務管理を行うには、それぞれの業務内容を正しく分類する必要があります。

労務管理の仕事内容

労務管理は、労働者の企業における労働に伴って必要になる仕事であり、業務の種類・内容は多岐にわたります。また、企業規模や業種によって手法などの詳細は異なります。ここでは、基本的な業務内容について解説します。

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従業員の勤怠管理

勤怠管理とは、企業が従業員の勤務状況を把握・管理することを指します。ICカードやタイムカードで管理し、日ごとの勤務時間を記録します。適正な給与支払いをはじめ、従業員の健康維持においても重要です。仮に過重労働の兆候があれば、業務の再検討を行います。

また、勤怠管理のデータは適切な管理をする必要があります。それは、事業場ごとの台帳を作成して賃金支払いに関する必要事項を都度記入することが、労働基準法で義務化されているためです。

なお、勤怠管理システムや就業管理システムなどのツールを活用すると、勤怠管理業務のスムーズな管理ができます。

従業員の給与計算

従業員の給与は支給額から控除額を差し引いて算定します。支給額は基本給と残業代で構成され、勤怠管理情報を基に給与を正確に管理します。また、支払い記録は台帳として保管することが義務化されています。

控除額は、健康保険料・介護保険料・厚生年金保険料・雇用保険・所得税・住民税などが対象です。なお、控除した分は税務署や年金事務所に納付する必要があります。

賞与は就業規則や賞与規定に基づいて算定されます。最初に賞与の総額が決定され、それを各従業員に配分するといった方法が一般的です。どのように配分するかは、従業員の業績や人事考課の内容によって変更します。

雇用契約・社会保険の管理

従業員を雇用する際には、企業側と従業員の間において、契約期間・就業時間・休憩時間・休日・従事する業務・賃金など、雇用契約に必要な情報を記載した「労働条件通知書」の交付も、労働基準法の義務化として定義されています。

また、厚生年金保険や健康保険などの社会保険、労災保険や雇用保険などに関連した手続きも労務管理に含まれます。

例えば、従業員の入社時には保険の資格取得、退職時には資格喪失、育児による休職時には各種給付金の申請、異動時には住所変更など、さまざまなシーンで手続きや届け出を行う必要があります。

参考:労働条件通知書|厚生労働省

健康・安全衛生管理と福利厚生の検討

安全衛生管理は、労働安全衛生法で義務付けられています。具体的な安全衛生管理は、企業の安全衛生を確保するための措置、従業員の健康保持増進を図る対策などです。また、社内の労働環境を整えるために行う従業員の健康管理も、労務管理に含まれます。

従業員満足度を高める要因の1つに、福利厚生の充実があります。給与や賞与など基本的な労働対価に加えて、従業員とその家族に提供するのが福利厚生です。具体的には、社宅・通勤手当・資格補助などが該当します。

こういった制度は、従業員や時代のニーズに応じて絶えず更新していくのが重要です。新たな制度を考案しながら適切な運用を行うことで、満足度の高い福利厚生を実現できます。

ハラスメントへの対策

集団で動く一般企業では、さまざまな個性の社員が交錯し合って就労するため、ハラスメントが発生しやすくなります。ハラスメントは、個人間の問題ではなく組織として解決しなければならない問題です。

そのため、人間関係に対する管理を徹底し、適切な指導を講じることが管理者の行わなければならない労務管理と言えます。

ハラスメントの発生を防止する対策としては、職場環境の分析・全社員向けの研修・相談窓口の設置などの検討が挙げられます。さらに、ハラスメントが発生した際は、対象者の処分だけでなく再発防止対策をするなど、組織全体としての対策を講じることが重要です。

年末調整に関する業務

従業員に対しては、年1度の年末調整を行いますが、年末調整も労務管理に含まれます。年末調整では、1年間に源泉徴収された所得税などを算定し、実際に納付しなければならない所得税との差異を算出します。

また、従業員ごとに受けられる控除が変わるため、控除証明書などの必要書類の回収や声掛けを行います。年末調整では、申告書などの必要書類を用意する手間がかかり、すべての従業員分となると相応の作業量が必要です。

そして、年末調整では税法が主に関係するため、税理士に相談しながら代行依頼を実施することも検討されます。

法定三帳簿の管理

労務管理の中には、労働者名簿・賃金台帳・出勤簿の3項目があり、合わせて法定三帳簿と呼びます。これらは労務管理において非常に重要な役割を持っており、保存の義務化に伴って3年間保存しなければなりません。

また、退職金に関わるものは5年間、雇用保険の被保険者資格に関わるものは4年間、安全衛生に関わるものは一定期間の保存が必要です。社会保険や雇用保険の手続きに必要になることも多いため、常に確認できるよう保管することが求められます。

労働者名簿

労働者名簿とは、労働者の名前・生年月日・住所など、労務管理に必要な情報を記載した帳簿を指します。また、労働者名簿には労働者の個人情報の他に、一人ひとりの入社日・退職日などの項目も記載することが義務化されています。

なお、労働者の退職後は5年間の保存義務が法令で決められています。よって、労働者名簿は重要な個人情報が記載されている点や、法律の順守といった観点からも従業員にとって重要な帳簿です。そして、厳しい管理体制が要求されます。

賃金台帳

賃金台帳は、基本給・手当・税金の控除額など、企業から労働者に対する賃金の支払い状況を主に記載した帳簿を指します。基本労働時間を含め、深夜労働・休日労働などの時間外労働の時間数も記載する義務があり、月単位の労働時間や給与額の正確な記録が必要です。

また、労働者の最終賃金の記入日から5年間の保管も必要です。さらに、労働者が退職した場合には離職票の交付が必要ですが、確認書類として離職前2年間分の賃金台帳を提出しなければならないため、迅速な手続きも要求されます。

出勤簿

出勤簿は、出勤日や労働日数などの労働者の労働時間に関する事項を記録した帳簿を指し、労働者の労働時間についての適切な管理を目的に作成されます。

出勤簿の作成は、他の2つの帳簿と同様に労働基準法で義務付けられていますが、形式の特別な決まりはありません

そのため、企業によっては紙面に従業員が1日単位で押印する場合や、勤怠管理システムなどのツールを用いる場合などさまざまな形式が採用されています。また、出勤簿の場合も、労働者の最終出勤日から3年間の保管が必要です。

就業規則の作成・管理

労務管理を行うためには、前もって就業規則を定める必要があります。就業規則とは、従業員の労働条件や勤務上のルールを文書にまとめた規則を指します。

就業規則に記載する具体的な項目には、「始業時刻・就業時間・休憩時間」、「休日や休暇」、「賃金」、「退職」、「労務災害」、「表彰や制裁」、「制服の貸与」などがあります。

就業規則は自社独自の定めではなく、労働基準法を遵守した規則である必要があります。

また、高度な法律知識が必要なため、自社で規則の作成が終了した後は、社会保険労務士や弁護士に精査を依頼しておくと安心です。

退職・休職・異動の手続き

育児休業・傷病休職・介護休職などの「休職・異動手続き」も労務管理に含まれます。例えば、休職に伴う保険給付の申請・傷病手当金の請求などです。

 一方、異動手続きについては、住所変更や社会保険料の報酬月額変更届を提出しなければならない場合もあるため、前もって確認しておかなければなりません。

また、退職手続きも労務管理の1つで、社会保険や雇用保険の資格喪失届の提出・労働者名簿の更新・退職手当の支給などが含まれます。従業員の退職後も書類の授受が必要となるため、労務管理担当者は退職者の連絡先を必ず把握しておきましょう。

労務管理の課題

労務管理は企業経営における重要な役割を担っていますが、日本国内では特有の課題もあります。ここでは、労務管理の課題をいくつか解説します。

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多様な就労形態に対応したトラブルの回避

現代では、少子高齢化に伴って労働人口が低下しているだけでなく、新型感染症の影響で働き方改革が浸透しており、在宅勤務やフレックスタイム制などの多様な就労形態が一般化している傾向にあります。

そのため、現状の需要に対応できない企業と労働者との間に食い違いが生じ、労務上のトラブルが個別化・多様化している状況にあります。これらのトラブルを回避するためにも、労務管理が担う役割が重要です。

また、新規採用枠を広げる中で、離職率を低下させ、現状の労働力をいかに確保・効率化するのかが、今後の人事労務管理にとっても大きな課題となっています。

情報管理におけるセキュリティ対策の徹底

働き方改革を意識したテレワーク・在宅勤務への対応などにより、企業内だけでなく個人のインターネット環境に関しても、セキュリティ対策を行う必要性が高まっています。経営者・管理者の目が届かない場所で作業を行う場合、情報漏洩などのリスクも高まります。

つまり、紙ベースでのやり取り・保管を削減し、クラウド・データ間での業務で作業は効率化されるものの、厳重なセキュリティ対策の徹底も行わなければなりません。このように、労務管理では情報管理におけるセキュリティ強化・対策が求められるのも課題の1つです。

労務管理のポイント

最近では労務上のトラブルが増加しており、その内容も個別化・多様化しているため、どのように対応するかが労務管理の課題です 。また、関連法案が制定されて既存の法律改正も頻繁に行われているため、法令への対応も必要です。

従来までの終身雇用や年功序列などの慣習がなくなり、成果主義や雇用の流動性が高まったことで、企業はこれまでにない課題に直面しています。ここでは、労務管理における課題を解決するために気を付けるべきポイントを解説します。

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法令・法律を遵守する

遵守しなければならない法令や法律は、労働基準法・労働組合法・マイナンバー法など広範囲にわたります。不注意でこれらに違反しないよう、正しい知識の保有が要求されます。

また、これらの法律は現状に対応して改正されるため、一度理解するだけでは不十分です。改正内容を把握し、就業規則や労働条件もそれに伴って変更しなければ、法律違反に該当してしまいます。

なお、法令に関しては専門資格を取得するのも効果的です。例えば、マイナンバー法であればマイナンバー実務検定といった資格があります。資格取得を目指して勉強することで、労務管理者としてのスキルアップにつながるでしょう。

参考:労働基準法に関するQ&A|厚生労働省

参考:労働組合法|厚生労働省

参考:「マイナンバー法案」の概要|内閣官房

情報管理意識を持つ

情報管理の重要性は、年ごとに増加しています。従来までは紙を媒体とする書類がメインでしたが、現在では電子データの管理にも注意が必要です。常にセキュリティ体制を整え、社内外からのサイバー攻撃に備える必要があります。

さらに、マイナンバー法の制定によって従業員の個人情報管理に関する重要性が高まっています。マイナンバー法では取扱い方法が詳細に規定されており、規定に沿った取扱いをしなければなりません。

改善意識を持つ

職場環境は絶え間なく変化しているため、常に最適な職場環境の改善意識を持つことが大切です。例えば、ハラスメントは比較的最近注目され始めた問題です。そのため、ハラスメント対策に配慮しつつ、ハラスメントの発生防止に努める必要があります。

また、残業時間を減らすための施策も時代とともに変化しています。そして、適切な業務配分や人材確保だけでなく、ITツールを活用した自動化も注視されています。

今後も変化の激しい現代に対応しながら、最適な職場環境を目指すことが企業の生産性向上につながります。

労務管理に役立つ資格

労務管理は、何かの資格を取得していなければできない業務ではありません。知識やスキルは必要ですが、必要不可欠なものは業務を遂行しながらでも習得可能です。しかし、以下のような資格を取得すると、さらに広い知識が得られるため円滑な業務遂行ができます

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労務管理士

労務管理士は、労働基準法や労務管理における専門的な知識の修得によって、職務能力の向上を目的とした民間団体が認定する資格を指します。社会保険労務士と混同されやすいですが、受験資格や試験内容などは社会保険労務士ほど厳格ではありません。

社会保険労務士との大きな違いは、労務管理士では社会保険労務士の独占業務にあたる手続き業務(1号業務)・帳簿作成(2号業務)ができない点です。ただし、企業内での労務管理が目的であれば、社会保険労務士ではなく労務管理士でも対応できます。

参考:労務管理士受験方法|一般社団法人日本人材育成協会

ビジネス・キャリア検定試験

主に企業で働く際に、必要な基礎知識から専門的な知識がどの程度自身に備わっているかを評価する検定が、ビジネス・キャリア検定試験です。検定は4段階の等級に分かれており、等級によって出題分野も異なります。

特に、労務管理に関する問題は2~3級に含まれます。この検定は労務管理の他にも、経理や営業といった幅広い分野についても学べるため、初心者向けの試験とも言えるでしょう。

参考:ビジネス・キャリア検定 |中央職業能力開発協会

社会保険労務士

社会保険労務士の資格を取得していると、行政機関への提出義務がある申請書や届出書などの作成が可能です。さらに、労働者名簿や賃金台帳の作成なども企業の代理として行えるため、将来的に自らの事務所を構えることもできます。

ただし、合格率は毎年6~7%と低めであるため、難易度は高い傾向にあると言えるでしょう。

参考:社会保険労務士試験のご案内|社会保険労務士試験オフィシャルサイト

衛生管理者

衛生管理者は、健康で安全に働ける職場環境の構築をするための知識を習得した資格者です 。常時50名以上の労働者が在籍する企業は、衛生管理者を置くことが義務化されています。

衛生管理者の免許は、衛生工学衛生管理者免許・第一種衛生管理者免許・第二種衛生管理者免許の3種類です。免許の種類によって扱える業種が異なるため、衛生管理者が必要な場合は目的に応じて資格を取得しましょう。

参考:衛生管理者について教えて下さい。|厚生労働省

労務管理の効率化にはシステム導入がおすすめ

労務管理システムとは、企業における労務に関する業務を効率化させるシステムを指します。具体的には、従業員の社会保険への加入や脱退、福利厚生や労働時間の管理などです。

多くの企業において、従業員の採用などを担当する人事部が労務関連業務も兼ねて行っていることが少なくありません。そのため、従業員が多い企業であるほど労務関連担当者の業務負担は大きくなります。

そこで、労務管理システムを導入して活用することで、労務に関連するあらゆる業務をシステム化し、担当者の業務負担の軽減に大きく期待できるメリットがあります。

労務管理システムとは?メリット・デメリット、機能や選び方を解説

労務管理システムとは、従業員の労働時間や社会保険・労働保険などの管理、労務手続きが行えるシステムです。本記事では、労働管理システムをよく知らない方・導入を検討している方のために、システムの機能や選び方、メリット・デメリットを解説しています。

まとめ

労務管理は企業経営において重要な役割を担っています。労務管理を通して従業員を適切に管理し、職場での能力を最大限に活かしてもらうことで、会社への貢献度や愛社精神を高められます。

労務管理とは従業員の管理を指し、労働契約の締結・労働条件の管理・就業規則の管理・保険手続き・勤怠管理・給与計算・健康管理・職場改善などの業務が対象です。法令遵守やプライバシー保護に配慮しながら、これらの業務を遂行する必要があります。

また、専門家への依頼や労務管理システムの利用でも業務の効率化が可能です。個人のスキルアップという観点では資格取得も有効であるため、労務管理への意欲を高めつつ業務に役立てるようにしましょう。

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