LLCとは?株式会社との違いやメリットをわかりやすく解説

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- LLCは、2006年の会社法改正で新たに設立できるようになった合同会社のこと
- LLCと株式会社の違いには、会社の所有者と経営者が同一かや役員任期の有無などがある
- LLCは、法人を目的とした業種やスモールスタートで業務を行いたい企業に向いている
LLCとは、2006年の会社法改正で、新たに設立できるようになった合同会社のことです。LLCは低コストでの設立や自由度の高い経営が可能ですが、株式会社との違いがわかりにくいです。本記事では、LLCの特徴やLLCが向いている企業などをわかりやすく解説します。
目次
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LLC(Limited Liability Company)とは

LLCとは、経営者や従業員が出資者となる合同会社を指します。2006年5月1日に会社法改正で廃止された有限会社の代わりとして誕生しました。小規模事業者や個人の起業家が設立することが多いですが、大手外資企業の日本法人もLLCで設立されています。
株式会社に比べて設立のハードルが低く、自由度が高いなどのメリットがありますが、世間的にはまだ認知度が低い会社形態です。
LLCの特徴
LLCは株式会社と違い、社員が出資者であることから意思決定が社内で行えるため、経営の自由度が高いのが特徴です。また、出資者の責任は出資額の範囲に限定されるため、会社が負債を抱えた際には出資額以上を返済する必要がありません。
さらに、損益分配はある程度約款で定められることもLLCの大きな特徴です。約款で損益分配の割合について定められていない場合、各社員の出資額に応じて分配される仕組みになっています。
LLCと株式会社の違い

LLCと株式会社では、同じ会社でも異なる点が多く存在します。ここでは、LLCと株式会社の違いを解説します。
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LLCと株式会社の違い
会社の所有者と経営者が同一か
LLCと株式会社は、会社の所有者と経営者が同一か否かが大きな違いです。LLCは会社の所有者が経営者であるのに対し、株式会社の所有者は株主で、経営者は株主から選ばれた取締役です。
そのため、株式会社が経営判断をする際には株主総会が開かれますが、LLCは自由な意思決定ができます。
役員の任期があるか
株式会社の代表取締役など、役員の任期は原則2年間、最長で10年間と定められていますが、LLCには役員の任期がありません。社員が出資しているLLCではそもそも役員が存在せず、任期を設ける必要がないからです。
役員の任期が満了した場合は、後任の決定や付随する多くの手続きを進めることが必要ですが、LLCではそのような手続きが不要となります。
決算公表が義務付けられているか
株式会社では定期的に公での決算公表が求められることに対し、LLCは決算公告が必要ありません。株式会社は、所有者である株主に決算書などを通じて、会社の状況を知らせることが義務付けられています。
ただし、LLCでも貸借対照表などの計算書類は、会社債権者の要求に応じて開示する義務があります。
LLCと株式会社の主な比較表
LLCは、他にも株式会社と異なる点が多くあります。さらに、企業ごとの特徴により、株式会社とLLCのどちらに向いているかも異なります。以下の表は、細かい違いを含めたLLCと株式会社の特徴まとめです。
LLC | 株式会社 | |
---|---|---|
所有と経営 | 原則株主と取締役で分離 | 原則同一 |
意思決定 | 株主総会 | 社員総会 |
役員の任期 | 原則2年 | 任期なし(役員なし) |
決算公告 | 必要 | 不要 |
定款 | 認証が必要 | 認証が不要 |
利益配分 | 出資比率に応じる | 企業の決めた約款に応じる |
設立に必要な費用 | 約20万~ | 6万~ |
LLCと有限会社・LLPの違い

事業運営の形態には、LLCと株式会社以外の種類も存在します。ここでは、LLCと混同されやすい有限会社やLLPとの違いについて詳しく解説します。
LLCと有限会社の違い
有限会社は少ない資本や取締役で設立できる会社として、株式会社と同様に法人格として扱われていました。有限責任を負う社員だけで構成されることが特徴です。
しかし、2006年に会社法が施行されて株式会社の設立条件が緩和されたことで、株式会社と有限会社を区別する必要がなくなり、有限会社は廃止されました。
会社法施行前に設立されていた有限会社は、株式会社への変更か特例有限会社への移行が行われ、現在では新たな有限会社の設立が不可能です。
有限会社は、社員が負う責任が出資額を限度とする「有限責任」である点ではLLCと同じです。しかし、有限会社で必要とされている最低資本金300万円は、LLCでは必要ありません。
参考:会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律 抄|e-Gov
LLCとLLPの違い
LLPとは「Limited Liability Partnership」の略で、日本語で「有限責任事業組合」を意味します。LLCとLLPの大きな違いは、法人格の有無です。LLPはあくまで共同事業を行うための個人同士の契約によって成り立つ「組合」であり、法人格は持っていません。
組合員が有限責任を負うことや、利益配分が出資比率によらない点などはLLCと共通していますが、法人ではないため会社として法人税の納税義務などはありません。利益に対する税は、組合員に直接課税されます。
また、2つ目の大きな違いは株式会社への変更可否です。LLPは法人ではないため、法人である株式会社への変更はできません。建設業など法人としての許認可が必要な事業を行う場合も、LLPは選択不可とされています。
LLCのメリット

LLCには、株式会社では得られないさまざまなメリットがあります。メリットを理解しておくことで、どのような事業がLLCに向いているかがわかります。ここでは、LLCのメリットを解説します。
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LLCのメリット
会社設立のコストを抑えられる
LLCは、会社設立のコストを抑えられます。株式会社を設立する際は、登録免許税で最低でも15万円、定款の認証にかかる費用で5万円、計20万円が必要です。それに対し、LLCは約款の作成が必要ですが、認定は不要です。
また、LLCの登録免許税は最低6万円のため、6万円から会社を設立できます。株式会社を設立する際の必要最低金額と比べると、15万円の差があります。スモールスタートしたい企業にはLLCが最適といえるでしょう。
会社設立の手間が少ない
株式会社が設立までに数週間〜1ヶ月かかることに対し、LLCは2週間程度で設立が可能です。定款を作成する必要はありますが、認証の手続きは不要です。
また、決めておくべき事項も株式会社に比べてはるかに少ない傾向にあります。会社設立の手間が少ない分、スムーズに事業をスタートできます。
経営の自由度が高い
LLCは社内で意思決定ができるため、自由度が高くスムーズな経営につなげられます。重要事項や社員への利益配分などは、自社の定款として柔軟に定めることが可能であり、定款を守る形であれば自由な経営が認められています。
株式会社では意思決定や利益配分などのルールについて細かく定められるため、制限がかかることもあるでしょう。社内での意思決定は不可能なため、柔軟な対応がしにくい傾向にあります。
節税メリットがある
株式会社では、法人税と出資者個人に対する所得税に課税されるため二重課税になりますが、LLCの場合は社員に対してのみ課税するパススルー課税が選択できます。
また、個人事業主の場合は法人化することで、経費と認められる範囲が増えるため、節税につながります。さらに、個人事業主の場合は累進課税で最大45%の税率が課せられる中、800万円以上の所得があれば、法人化することで税率が一定になるのも特徴です。
所得の多い個人事業主はLLCとして法人化することで、大きな節税メリットがあります。
LLCのデメリット

メリットが大きい一方で、LLCにはデメリットもあります。LLCを設立するためにはデメリットを理解し、事前に対策を取っておくことが不可欠です。ここでは、LLCのデメリットを解説します。
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株式会社に比べて認知度・信頼度が低い
LLCは株式会社に比べて認知度や信頼度が低い傾向にあります。決算公告の義務がなく、閉鎖的なイメージが強いことから、企業ブランドの構築や信頼関係が不十分な場合、取引や融資を受ける際には感覚的に判断され、不利な状況になりやすいです。
特に、企業を相手にビジネスを行う場合は不向きといえます。相手企業のブランドや立場もあるため、取引に応じてもらえない可能性も高まるでしょう。
上場ができない
LLCは株式を発行できないため、上場ができません。上場できないと、世間一般では会社の知名度が上がらないことになります。将来的に企業を発展させたい、事業を拡大させて有名にしたいという目標がある場合は、LLCは不向きといえるでしょう。
LLCから株式会社に会社形態を変更するという手段もありますが、その場合にも会社の経営が大きく変わるため従来通りにうまくいくとは限りません。会社を設立する際には、将来的な方向性も考慮して会社形態を決めることが重要です。
社員同士のトラブルや対立が起こる可能性がある
社員同士のトラブルや対立が起こることも、LLCの懸念点として挙げられます。出資者が社員である場合、重要事項を決める際は出資した社員全員から合意を得なければなりません。意見が衝突した際には、社員同士が対立して経営に支障が出る可能性もあります。
また、利益の分配比率でトラブルが発生することも考えられます。例えば、少なく出資した社員が多く出資をした社員と変わらない利益を得た場合、多く出資した社員が不満を感じてトラブルに発展しやすいです。
社員同士の調整や利益の分配方法は、あらかじめ話し合いをしておき、トラブルの未然防止に向けて理解を得ておくことが大切です。
株式の発行による資金調達ができない
LLCは株式会社ではないため、株式を使った資金調達ができません。株式会社の場合、株式の発行という形で広く社外に出資を募り、投資家から資金調達をすることが可能です。さらに、上場すればより多くの資金を得られます。
対して、LLCの場合は株式発行と上場が不可能です。主な資金調達方法は、国や自治体の補助金・助成金や金融機関からの借入・融資となります。ただし、設立前・設立直後などは信用に欠けるため、銀行から融資を受けるのが難しいケースもあるでしょう。
また、大規模な資金調達が困難なため、事業を急速に拡大できないというデメリットもあります。設立後、スピード感をもって事業を拡大していきたいと考えている場合は、LLCには向かないかもしれません。
LLCが向いている業種

LLCのメリットである、設立コストを抑えられる点や短い期間で設立できる点などを考慮し、さまざまな業種で活かすことが可能です。ここでは、LLCが向いている業種の特徴を解説します。
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一般消費者向けの業種
LLCは、会社名よりもサービス内容や商品のクオリティが重視されることがある、一般消費者向けのサービスや商品を扱う企業に向いています。
例えば、介護事業の場合は営業の際に会社名を使わないため、ネックとなる要素が少ないです。また、介護事業を始める際には「介護保険事業者」に指定されるため、法人化が必要です。
これらにより、会社の知名度が大きく影響しない介護事業者は、LLCと相性が良いといえます。
すぐに法人格を取得したい業種
LLCは会社設立にかかる手間が少なく、株式会社よりも短い期間で設立できます。そのため、契約・申請で法人格が必要な場合など、すぐに法人格を取得したい業種に適した設立方法です。
会社設立までにかかる期間は、一般的にLLCが2週間程度、株式会社が数週間〜1ヶ月程度となっています。LLC設立後に株式会社へ移行することも可能ですが、すぐに移行する場合、逆に手間がかかる恐れもあるため、期間だけでの選定は避けましょう。
費用を抑えて設立したい業種
LLCはコストを抑えて設立可能であり、スモールスタートで事業を始めたい組織に適しています。事業が安定するか不安を抱えている場合、初期投資を抑えられるとリスクが最小限で済みます。
事業が安定してきたら株式会社への移行手続きを行い、さらなる事業拡大を目指すことも可能です。
自由度の高い経営がしたい業種
LLCは、少人数でスピーディーに経営判断を行いたい業種に向いています。例えば、Web制作やアプリ開発に関わるエンジニア・デザイナー・マーケター、経営コンサル・ITコンサル、グラフィックデザイナーなどが挙げられます。
LLCは出資者の合意だけで意思決定できるため、スピード感のある経営が可能です。フリーランスの法人化をはじめ、少人数のチーム運営、家族経営、共同出資での運営に適しています。
少額の資金調達で手軽に経営を進めたい業種
法人としての形を持ちつつ、手軽に経営を進めたい業種にもLLCが向いています。ハンドメイド中心の小規模なECサイトやコワーキングスペースの運営、インフルエンサーなど、柔軟かつ機動力の高い事業を行いたい業種に適しているといえます。
また、株式会社ほどの資金調達が不要であり、小規模でも運用しやすい民泊や不動産投資でも、LLC設立が効果的です。なお、小規模であっても実際に利益が出せるビジネスモデルであることも重要です。
LLC設立の流れ

LLCを設立する際は、手順に沿って手続きを行う必要があります。正しい手順を理解し、スムーズに会社を設立しましょう。ここでは、LLCを設立する流れを解説します。
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LLC設立の流れ
基本的な設立項目を決める
LLCを設立する際は、会社の基本的な設立項目を決める必要があります。必要な基本項目は以下の通りです。
- 会社名
- 所在地
- 事業項目
- 事業年度(決算時期)
- 資本金額、社員(出資者)
- 役員
会社名の最初か最後のどちらかに「合同会社」をつけ、設立時に定めた事業目的から変更・追加する際はコストがかかる点に留意しましょう。また、決算時期は繁忙期を避けて定めるのがおすすめです。
資本金額は会社の信頼性にも直結する項目で、許認可制度によっても最低資本金が決まっているため、受けたい許認可がある際には最低金額の確認が必要です。
定款を作成
基本的な項目を決めた後は、定款の作成をします。会社設立をする上で最も記載事項が多い書類が定款です。定款は会社の基本ルールや設立の目的を記載するもので、具体的に定めることが大切です。
定款の内容は絶対的記載事項、相対的記載事項、任意的記載の3つに分かれており、絶対的記載事項である6つの項目は必ず記載する必要があります。必要項目が抜けている場合、定款が無効となるため不備のないよう注意が必要です。
絶対的記載事項で必要な記載項目は、以下の内容です。
- 商号(会社名)
- 事業目的
- 本店の所在地
- 社員の氏名または名称及び所在地
- 社員全員が有限責任社員である旨
- 社員の出資目的と出資金額、または評価基準
事業を開始すると定款をもとに経営判断を下すことになるため、慎重な検討が求められます。
登記書類を作成
定款の作成が終わったら、登記書類を作成します。登記には以下の書類が必要です。
- 合同会社設立登記申請書
- 登記すべき事項(CD-Rも可)
- 定款(保存用、CD-Rも可)
- 定款(提出用、CD-Rも可)
- 代表社員の印鑑証明書
- 払込証明書
- 印鑑届書
- 台紙(書類をまとめて印紙を貼る紙)
登記すべき事項と定款はCD-Rで作成できます。定款に関しては電子定款認証を作成することで印紙代を節約可能です。4万円という大きな額が節税できるため、定款はCD-Rでの作成が望ましいでしょう。
書類はインターネット上にあるテンプレートをもとに書類を作成することも可能です。登記書類を確実かつスピーディに提出するためには、税理士や司法書士など登記に詳しい専門家に依頼する手段もあります。
登記の申請
登記に必要な書類が揃ったら、本社の所在地を管轄する法務局に登記申請をします。法務局の窓口に提出することで登記の手続きは終わり、書類に不備がなければ1週間ほどで登記は完了します。
法務局に登記申請した日が会社設立日となるため、設立日の希望がある際には法務局の営業日に合わせて手続きを行いましょう。
その他の必要な手続きを行う
LLCの設立では、登記申請が完了した後も手続きが必要です。本社の所在地を管轄する税務署や地方自治体には法人設立届出書などの各種届出、年金事務所には社会保険に関する届け出、労災保険や雇用保険に関する届け出も必要です。
提出書類はそれぞれ期限が決められており、短いものでは5日のものもあります。提出書類と提出先が多く、ミスも発生しやすいといえるため、計画的な作成・提出が必要不可欠です。
LLC設立のポイント

LLCを設立する際には、いくつかポイントとして抑えておくべきことがあります。ここでは、LLCを設立するときに意識したいポイントを解説します。
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LLC設立のポイント
事業目的を決める
LLCは、定款に合った事業目的を決める必要があります。業種によっては許認可や別途届出が必要となり、不備があると許認可が下りず事業に支障が出たり、定款の変更が必要になったりすることもあるため、慎重な検討が必要です。
事業目的の変更や追加は容易には行えません。事業目的を決める際は、必要な許認可や届け出、申請方法まで慎重に調査し、不備のないよう確実な手続きが必要です。
社員となる出資者は慎重に決める
社員となる出資者は、慎重に決める必要があります。LLCは原則として、出資者である社員が会社の代表になります。会社の経営判断は、社員全員で話し合った結果が反映されるため、事業に協力的な人でないとトラブルの原因につながりやすいです。
出資者は事業の目的や経営方針に共感し、信頼できる人を見極めた上で判断することが必要不可欠です。
資本金の少なすぎに注意
資金が少なすぎる場合、信用を得にくいため注意が必要です。資本金は、会社規模や社会的信用にも影響し、資本金が少ないと目的通りの事業を行えなくなる可能性もあります。
特に、許認可が必要な事業によっては最低資本要件が決められているケースも考えられます。資本金を決める前には、許認可の必要性や資本要件の調査が欠かせません。
企業の資金は事業をスタートする際の初期費用はもちろん、ランニングコストやトラブルの対処など、万が一の際にも必要となることがあります
株式会社への移行も可能
LLCでスモールスタートを切った事業が軌道に乗ってきた場合、株式会社への移行手続きを行ってさらなる事業拡大を目指すことも可能です。株式会社へ移行すれば株式を発行して資金調達を行えるため、事業拡大に有利であると考えられます。
ただし、移行手続きには一般的に2ヶ月程度の期間がかかります。事前に要件や手順をよく確認し、期間に余裕を持って移行を検討しましょう。
まとめ

LLCは、社員が経営者や社員が出資社となる合同会社のことです。株式会社とは異なり経営者と所有者が同一であることから、株主総会や決算公告が不要です。意思決定の早さや経営の自由度の面でメリットがあります。
一方、認知度の低さで取引や融資が受けにくい点や、経営に関する社員同士の意見が衝突しやすいという課題も抱えています。出資者である社員が不満を抱えると、その状態が経営にも影響してしまうことが考えられます。
LLCを設立する際は、自社に適した企業形態であるかを適切に判断し、事業目的に必要な許認可の確認、出資者を慎重に決定しつつ、正しい手順で設立することが大切です。LLCの理解を深めて計画的に事業を設立しましょう。
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