アダプティブラーニングとは|意味やメリットをわかりやすく解説
Check!
- アダプティブラーニングでは、学習者が能動的に考え、学習することを目指している
- アダプティブラーニングは、一人ひとりに最適化した効率的かつ効果的な学びを提供する
- アダプティブラーニングでは、モチベーションが維持できるよう、工夫する必要がある
アダプティブラーニングは、一人ひとりに最適化された学習内容を提供できるため、効率的・効果的に学習を進められます。本記事では、アダプティブラーニングのメリット・デメリット・注意点や、企業での活用事例の他、主なツールについても解説します。
目次
開く
閉じる
開く
閉じる
アダプティブラーニングとは
アダプティブラーニング(Adaptive Learning)は、一人ひとりの個性・能力・適性に合わせてプログラムを進めていく学習方法を指します。個人に合わせて学習内容が最適化されることで、より深く掘り下げたアダプティブラーニングが得られます。
文部科学省が、2018年2月に発表した「学校教育におけるICT、データの活用」において、一人ひとりの状況に応じたきめ細かな指導をさらに促進するとの考えを明らかにしました。
この要素はアダプティブラーニングが目指すものそのものであり、教育現場においてアダプティブラーニングは、未来に向けた重要なアクションとして注目を集めています。
参考:Society5.0におけるEdTechを活用した教育ビジョンの策定に向けた方向性|文部科学省
\気になる項目をクリックで詳細へジャンプ/
アダプティブラーニングとは
アダプティブラーニングはEdTechの1つ
EdTech(エドテック)とは、教育と訳される「Education」と、技術を意味する「Technology」を合わせた造語です。教育市場では、すでにIT技術を活用した教育活動が多く展開されています。
新型感染症の影響で、社会活動のオンライン化に拍車がかかる中、最新のテクノロジーを教育分野と組み合わせて技術革新を起こすEdTechの需要が増加しており、これからも成長が見込まれます。
また、EdTechといえばオンライン学習を思い浮かべがちですが、実際は教育目標を達成するために作られたデジタル製品・ハードウェア・ツール・サービスの全体を指す巨大産業です。
EdTechとeラーニングの違い
eラーニングは、特定の場所で講師が直接講義をするのではなく、PCやタブレット端末などを活用してインターネット上で学習する形態を指します。時間や場所の制限がなく、学習環境を何度も整えられるのが特徴です。
試験や研修会場へ出向く必要がなく、また、今までのメディア(紙・スライド・テレビなど)でカバーできないタイプの教育を行うことも可能です。
一方で、EdTechはeラーニングの従来型「知識学習」の補助的な役割のほかに、グループ活動やコミュニケーションを含む「経験学習」のサポートとしての側面も備えています。
アダプティブラーニングと間違えやすい用語
現在では、学習方法についてさまざまな用語が使われています。そこで、アダプティブラーニングと間違えやすい用語を3つ解説します。
\気になる項目をクリックで詳細へジャンプ/
アダプティブラーニングと間違えやすい用語
アクティブラーニングとは
アクティブラーニング(Active Learning)は、文部科学省が提案した捉え方で、日本語で「積極的な学習」と訳されます。講義のような指導者から受講者に対する一方的な教育とは反対に、受講者一人ひとりが積極的に学習する学習形態を指します。
今までの学習形態からの脱却を目標にする概念といった意味では、アダプティブラーニングと似ています。しかし、着目しているのが個別最適か積極性かといった点で両者の違いがあります。
アダプティブラーニングでは、今までの画一性からの脱却を目標とし、受講者の多様性を考慮した学習を目指します。一方、アクティブラーニングでは、受講者がただ情報を受け取るだけでなく、ディスカッションなどを通じて自ら積極的に学習することを重視します。
ゲーミフィケーションとは
ゲーミフィケーション(Gamification)とは、ゲームの要素をゲーム以外の分野へ組み込むことを指します。ここでのゲームの要素とは、課題の達成により自身のレベル(達成度の指標)が上がったり、プレイヤー同士で交流・競争したりすることです。
現在は、ゲームは一般的な遊びの1つとなりました。子供だけでなく、スマホで大人もゲームを楽しむようになっています。これほどゲームが人を惹きつけるのには理由があります。システムやデザインの随所に、人を惹きつける工夫が施されているからです。
その結果、人を惹きつける要素をほかの分野に活用すれば意欲を高められるのでは、といった思惑からゲーミフィケーションが開発されました。特に、教育分野への活用が期待されています。
LMSとは
LMS(Learning Management System)というのは、eラーニングの実行に必要な学習教材の発信や成績などを統合する学習管理システムを指します。
LMSにより、eラーニングでは受講者の学習ペースやテストの得点、得手不得手などの管理ができ、個人の指導管理が容易になりました。LMSはどこまでもレポート回収・進捗管理などをサポートするためのシステムで、学習方法の1種類ではありません。
アダプティブラーニングのメリット
アダプティブラーニングの教育法にはさまざまなメリットがあります。受講者がアダプティブラーニング環境での学習で、どういった効果に期待が持てるのか前もって把握しておきましょう。
\気になる項目をクリックで詳細へジャンプ/
アダプティブラーニングのメリット
効率よく学力向上を目指せる
アダプティブラーニングは、あたかもベテラン家庭教師のように、受講者自身が苦手と気が付いていない箇所までも見過ごすことなく、十分に理解できるまで学習を促します。
受講者は、苦手な分野に集中した学習ができ、失敗に対しても早めに対処できるため、弱点を確実にクリアしながら学習を進められます。一方で、数学が得意な受講者は、次々に問題を解き明かし、自分のペースで先に進めます。
また、高度な課題にも取り組み、さらに実力を伸ばすことが可能です。今まで難しかった学習は、このような効率的な学習で、一人ひとりの学習効果を確実に最大化させることにつながります。
得意不得意分野・学習状況を可視化できる
アダプティブラーニングのメリットの1つが、受講者の得手不得手・学習状況などが可視化できることです。テスト結果や問題の回答をシステムが自動で分析・記録するため、受講者はどのような問題が不得手なのか、どこまで理解しているのか、指導者側で把握できます。
指導者はいつでもデータ確認ができ、受講者の学習状況に合わせた指導を行えます。AIを含むIT技術が発達した現在においては、このようなデータの分析と活用が無理なく行えます。
授業の質の均一化や向上になる
アダプティブラーニングは、指導者側の能力差を解消できます。アダプティブラーニングの実施においては、eラーニングのシステムを使用して、指導力が均一化されており、客観的データが採用されています。
指導品質の均一化とさらなる分析によって、指導の形式化と自動化にも役立っています。指導者の性格や指導法などの相性が気にならないため、学習方法として導入を検討しましょう。
情報共有がしやすい
情報の共有がしやすいのも、アダプティブラーニングのメリットです。指導者は受講者の学習状況を確認して指導者同士で共有できます。
また、システムにはソーシャル機能が備わっているため、受講者同士でのコミュニケーションや情報の共有も容易になっています。これにより、学習に対してモチベーションの向上も期待できます。
教材やカリキュラムの改善に役立つ
アダプティブラーニングは、受講者の理解力だけでなく、個々のコンテンツがどのように学習目標の習得に貢献したのかについても分析できます。これは、AIが各テキストの効果を精査し、教育カリキュラムやテキストをさらに品質向上させるシステムです。
これにより、教材の再検討・運用の改善に生かせます。アダプティブラーニングは、受講者一人ひとりに合わせた教育課程を提供します。そのため、教育課程や教材がマッチしていなければ、その都度再検討して更新が可能です。
過去のデータを有効活用できる
アダプティブラーニングでは、過去の学習者の膨大な量の学習データを分析し、有効活用することで、学習方法の最適化を行えます。例えば、成績優秀者のデータを分析して指導に取り入れることにより、より高いレベルの学びを実現可能です。
また、過去のデータから学習者がつまずきやすい課題やその解決方法を客観的に見いだすことで、実際に課題を抱える学習者の発見や効率的な指導に役立ちます。このように、過去のデータを有効活用することで、学習効率や指導品質の向上に繋がります。
アダプティブラーニングのデメリット
アダプティブラーニングの実施においては、メリットだけでなくデメリットも存在します。ここからは、アダプティブラーニングのデメリットを2つ解説します。
ICT環境が整っていない
アダプティブラーニングには、PCなどの端末やインターネット回線といったICT環境が必須ですが、保有している端末やインターネット回線は各家庭・地域によって差があります。
日本は諸外国と比較するとICT環境の整備が遅れており、誰もがアダプティブラーニングを受けられる環境が整っていません。しかし、2020年に新型感染症が拡大したことをきっかけに、ICT環境の整備が急激に進みました。
新たなライフスタイルが確立され始めている現代において、ICT環境はさらに整備が進むと予測されています。
指導者にICTの知識が必要
そもそもICTとは、「情報通信技術」のことで、友人や家族とのスマートフォンを経由したコミュニケーションもICTに該当します。アダプティブラーニングの実施には、ICTの知識を持った指導者が必要です。
デジタル教科書などのソフトも扱えなければならず、アナログな教育現場で長年勤務していたデジタル技術に疎い指導者にとっては、指導を行いにくい環境と言えます。
企業でのアダプティブラーニングの活用例
アダプティブラーニングを実施することで、学習機会の均一化、生産性やモチベーションの向上が期待できます。
受講者にとっては、時間や場所に関係なく学習したり、有用な知識収集やスキルアップにつなげられたり、などに期待ができます。ここでは、アダプティブラーニングの具体的な活用シーンについて解説します。
\気になる項目をクリックで詳細へジャンプ/
企業でのアダプティブラーニングの活用例
新人教育
アダプティブラーニングは、新人教育のプロセスを効果的に改善するための活用が可能です。最初に、アダプティブラーニングのための環境を整え、新人社員のスキルレベルや学習ペースに合わせた個別の学習過程を提供します。
これにより、各新人社員が自身の能力に合わせたぺースで学習できるため、効率的な教育が可能です。また、リアルタイムでの進捗管理も可能で、新人社員の学習状況や弱点を把握し、適切なサポートの提供ができます。
さらに、アダプティブラーニングにおいては、対話型の学習体験を提供するため、新人社員がより積極的な学習に取り組めます。
タレントマネジメント
タレントマネジメントとは、従業員一人ひとりの能力・スキル・経験などの情報を、採用・育成・配置への活用で企業の成長につなげていく人材マネジメントを指します。
従来までは、人事担当者が労力を費やして収集する必要がありましたが、アダプティブラーニングはタレントマネジメントにも活用できます。これにより、従業員の細かなデータを企業側が把握できるようになるため、平等な評価が実現します。
また、アダプティブラーニングの情報を人事評価や人員配置に生かすことでより働きやすい環境が構築され、モチベーションの向上につながります。
企業にアダプティブラーニングを導入するとできること
注目されているアダプティブラーニングシステムの効率的な運用を行った場合、企業においてどのようなことができるのでしょうか。ここでは、アダプティブラーニングができることを具体的に6つ解説します。
\気になる項目をクリックで詳細へジャンプ/
企業にアダプティブラーニングを導入するとできること
社員教育に活用できる
内定者や新入社員の知識レベルは、バランスを欠きます。また、キャリア層の社員教育においても、社員一人ひとりの能力・知識量の把握、それぞれのレベルに合わせた個別指導を行って能力を伸ばす、といった形が理想です。
この点で、アダプティブラーニングは、一人ひとりに合わせたレベル設定で教育の実施が可能です。また、コンプライアンス教育などの全社員を対象とした研修に有効活用できます。
さらに、研修コンテンツの習得や社員の出欠記録、複数回の研修実施、テストの集計、未受講者の特定などが可能です。社員の確実な受講を促し、受講が遅れている社員に対しては注意喚起を行うことにより、未受講のまま放置されるリスクを軽減できます。
時間の有効活用になる
企業がアダプティブラーニングを採用することで、学習時間を確保しにくい社員でも学習ができます。受講者の進捗状況や理解度などをAIが分析し、最適な学習プログラムが提供されることにより、効率良く学習可能です。
アダプティブラーニングは、一人ひとりの進捗状況・理解度・達成度を分析し、それぞれに最適な学習プログラムを提案してくれます。そのため、短時間での知識習得や弱点の克服が可能です。
早期人材育成に役立つ
企業での導入例が少ないアダプティブラーニングですが、内定者や新入社員などの人材教育に応用されています。これは、自分が認知していることを客観的に把握・制御するとき、もっとも学習効果が高くなるといった「メタ認知理論」を応用した特性を生かすものです。
受講者・教育者が、お互いに相手をよく認知できていない段階でアダプティブラーニングを活用することで、受講者は自身の知識レベルと弱点の把握ができ、教育者もそれらを把握できます。
また、一人ひとりに適した課題を配信し、弱点を克服していく学習を行えば、短期間で人材育成が可能になり、内定者や新入社員を早い段階で企業における戦力化が期待されます。
適切なアドバイスができる
eラーニングを進化させた学習形態とも考えられるアダプティブラーニングは、受講者の進捗状況や課題の正答率、現在の課題、弱点である課題をはじめ、すべての情報を保存・管理できます。
教育者は受講者の習熟度を可視化して把握でき、それがクラウド型のアダプティブラーニングシステムであれば、どこからでも参照できます。
アダプティブラーニングで受講者の実態を把握することで、仕事でミスが起きた場合の改善点を正確に指摘できるだけでなく、受講者一人ひとりの習熟度に応じて教育者が適切な助言もできます。もちろん、弱点を克服するための課題を、組み込むことも可能です。
教育の質を均等にできる
アダプティブラーニングの場合は、分析データによる学習プログラムが提供されるため、指導者の能力に影響されない均一的な学習ができるメリットもあります。
今までの学習法は、教育者の経験や感覚的な判断に頼るしかありませんでしたが、データによる課題提供のため、スキルの習得において教育者の差が生じることはありません。
また、教育者がマンツーマンで教える必要がなくなり、貴重な時間をほかの有用な活動に割り当てることが可能になります。学習者は、仲間同士の情報共有を行い、ゲーム要素を組み込むなど、学習意欲の向上にもつなげられます。
研修コストを削減できる
アダプティブラーニングは、eラーニングのメリットを享受できます。これにより、研修会場や講師を確保したり、受講者を決められた時間と場所に集めたりする必要がなくなります。
言い換えれば、従来の研修に必要だった会場費・講師報酬・交通費などが必要ないため、研修コストの大幅な削減が可能です。教材となる要素をサーバーで一元管理できるため、物理的な教材も必要なく、要素の再利用や修正が簡単に行えます。
また、要素とともに受講者の登録や学習進捗状況の一元管理を行えるのも、メリットです。これにより、管理者である企業は、一人ひとりの従業員の学習レベルを客観的に把握できます。
アダプティブラーニングの注意点
企業がアダプティブラーニングの導入を決定した場合、注意しなければならないのはどのようなことなのでしょうか。ここでは、アダプティブラーニングの導入における3つの注意点について解説します。
\気になる項目をクリックで詳細へジャンプ/
アダプティブラーニングの注意点
モチベーションを維持させる工夫が必要
アダプティブラーニングは、本質的にeラーニングによる自主的な学習方法であるため、受講者のモチベーション維持が困難な場合があります。
集団研修などの強制力がないため、仕事が忙しい、やる気が出ないなどを理由に、学習への取り組みが困難な従業員の発生も想定されます。
そこで、企業としても従業員に一任するのではなく、締め切りの柔軟な設定や社内キャンペーンなど、ゲーム感覚で学習が進められるような取り組みを行うことが重要になります。
初期投資のコストがかかる
アダプティブラーニングを人材育成に活用するためには、それなりのコストが発生します。例えば、適切な学習教材がそろったe-ラーニングシステムの導入はもちろん、管理担当者のコストが発生する可能性もあります。
また、既存のe-ラーニングシステムが適切でない場合、自社のニーズに特化したプログラムの作成を外部に依頼する必要があります。これまでの学習内容をアダプティブラーニングに反映させるには、費用的・人的ともにコストがかかる点に注意が必要です。
不向きな分野がある
アダプティブラーニングは、分析データによる学習プログラムのため、不向きな分野の存在にも注意が必要です。例えば、医療現場の技能習得やディスカッション形式で学習するコミュニケーション能力の向上など、実践的な学習や非言語領域の学習は不得意です。
アダプティブラーニングの能力には限界があり、対象となるすべての分野を得意としているわけではないため、従業員に学習させたい内容や導入目的に照らし合わせた導入の検討が重要です。
アダプティブラーニングの導入にはツールの活用がおすすめ
アダプティブラーニングを効率的に導入するためには、アダプティブラーニング向けのツール・サービスの活用がおすすめです。このようなツール・サービスにはさまざまな種類があるため、事前によく情報収集して自社に適したものを選定する必要があります。
例えば、対応可能な学習領域や言語、導入実績を十分に確認することが重要です。ツール・サービスには、学校教育向けや学術機関向け、金融機関向けなどそれぞれ適した利用環境があるため、学習領域や対応言語、導入実績から自社への適合性を判断し、選定しましょう。
まとめ
この記事では、アダプティブラーニングについて解説しました。アダプティブラーニングは、受講者一人ひとりに最適な学習を提供します。それにより、効率良い学力向上、得意不得意や学習状況の可視化、授業の質の均一化や向上、情報共有などのメリットがあります。
また、最近は新人教育のプロセスを効果的に改善するための活用や、従業員一人ひとりの能力・スキル・経験などの情報を、採用・育成・配置するタレントマネジメントへの活用などが展開されています。
さらに、これまで苦手とされていた感情面など非数値化領域への応用もスタートしており、効率のよい学習教材としての利用はさらに拡大すると考えられます。