フードテックとは?意味やメリット、最新の動向をわかりやすく紹介
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- フードテックとは、まったく新しい形の食品や調理法を発見・開発する技術のこと
- 食糧不足問題の解決や食の安全向上に繋がる技術として世界的に注目されている
- フードテックで生まれた技術には、人工肉や新食材、フードロボットなどがある
フードテックとはフード(食品)とテクノロジー(技術)を組み合わせた造語で、新しい形の食品や調理法を開発する技術のことです。食糧問題の解決に繋がる技術として、世界的に注目されています。この記事では、フードテックのメリットや最新技術を駆使した事例などを解説します。
目次
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フードテックの意味とは
フードテックとは、最新のテクノロジーで新たな可能性を広げたり、食の問題を解決したりする技術です。「Food」と「Technology」の造語で、流通や開発、調理など食に関わるあらゆる分野においてITを導入し、新たな価値を作り出す取り組みが行われています。
SDGsとも関わりが深く、近年は多くの企業が自社のブランド力向上も兼ねて取り組んでいます。フードテックは世界で深刻化する食糧問題や労働者不足、多様化する消費者の価値観やニーズへの対応など、様々な課題を解消できる手段として期待されている技術です。
フードテックが注目される背景
フードテックは社会を取り巻く環境や人々の価値観の変化により、注目を集めるようになりました。ここでは、フードテックが注目される背景を解説します。
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フードテックが注目される背景
人口の増加
世界的な人口の増加により、飲食料の産業が著しく成長したことでフードテックが注目されるようになりました。いずれ直面するであろう食料危機に対応するため、新しい食品のあり方が考案され、開発されています。
世界人口は今後も継続的に増加する見込みです。持続可能な食品システムの仕組みを作り上げるためにも、フードテックによる取り組みが期待されています。
食に対するこだわりが高まっている
フードテックへの注目は、人々の食に対するこだわりが高まっていることも関係しています。特に急激な経済成長を遂げた国の消費者が、安全で高品質、高付加価値な食品を求めるようになったためです。
例えば、ダイエット中の人は太らないのにお腹が膨れる食事や、低カロリーでも栄養価が高い食事を求めるでしょう。さらに最近は、農薬や添加物など食の安全性に関する問題意識も高まってきています。
多様化する消費者の価値観やニーズに対応するため、様々なビジネスモデルが生み出され、改善が続けられています。
SDGsへの取り組み
フードテックは、2015年の国連サミットで採択されたSDGsへの意識の高まりにより、成長しています。SDGsとは「持続可能な開発目標」の略で、世界共通の課題として17の目標を掲げたものであり、2030年までの達成を目標としています。
SDGsの17の目標にある「貧困をなくす」「飢餓をゼロにする」「気候変動に具体的な対策を」は、フードテックによって解決につながると期待されています。
参考:SDGs(持続可能な開発目標)17の目標と169のターゲット|農林水産省
フードテックのメリット
フードテックはテクノロジーの活用により、既存にない食品や生産過程が開発されるため、様々なメリットがあります。ここでは、フードテックのメリットを解説します。
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フードテックのメリット
食糧不足を解消できる
フードテックの活用により、食料不足の解消が期待できます。増加傾向にある世界人口は2055年には100億人を超え、食糧不足が起こると予想されています。農業や漁業などに関わる人手不足が深刻化する日本も、自分事として捉えるべき問題です。
フードテックによりAI技術を駆使した生産管理や、気候の受けにくい状況下での野菜の栽培、魚の養殖など、安定した食品生産が可能になります。新素材や新技術の開発など、様々な方法で食糧問題への対応が取り組まれています。
飢餓問題を解決できる
フードテックは飢餓問題の解決にもつながります。飢餓が深刻な国と食品の飽和状態にある国とがある中、テクノロジーの活用で食品のロスが減り、食料バランスを改善できると期待されているためです。
飢餓に苦しむ地域は食品保存できる仕組みが整っておらず、食品が入手しにくいこともあります。食品保存ができる設備や長期保存できる容器の開発、安価で豊富な栄養を含む食品の開発など、飢餓を解消するための仕組み化に向けた取り組みも行われています。
菜食主義者に配慮できる
フードテックは、菜食主義者にも配慮した食事を提供できるメリットがあります。菜食主義は宗教や動物愛護の観点、体質的な問題など理由は様々ですが、食べるものが限られています。
代替ミートのように動物性たんぱく質を使わない肉など、菜食主義者でも食べられるものが増えることで、栄養不足の解消や食の豊かさにつながります。
食の安全性が高まる
フードテックは、食の安全性を高められるメリットがあります。異物混入や食中毒など、食の安全性に関するトラブルは後を絶ちません。新技術の開発により製造段階で不具合を解消し、安全性を担保した状態で消費者に食品を届けることが可能になります。
例えば、食品に含まれる細菌を検査できるツールでは、消費者が腐敗した食品などを口にするリスクを減らすことが可能です。また、製造から供給までを追跡調査ができる技術では、生産過程に問題が発生していないか把握できます。
労働力不足を解決できる
フードテックとAIを組み合わせることにより、労働力不足が解消できるメリットがあります。少子高齢化の影響もあり、日本の農業や漁業などの第一次産業や製造業といった食に関わる労働者不足は深刻化しています。
しかし、AI搭載ロボットによる自動収穫や出荷量の調整などにより、最低限の労働力での農業が実現可能です。また、外食産業ではフードロボットの配膳による無人化なども取り組まれています。労働力不足の解決により、食糧不足の懸念点の解消にもつながります。
フードロスを削減できる
フードロスとは、本来はまだ食べられるのに廃棄されてしまう食品のことです。限りある資源の有効活用や環境への負荷を減らすためにも、事業者や消費者一人ひとりに対してフードロスの削減が求められています。
フードテックの活用はフードロスの削減にも有効です。例えば、庫内にカメラが搭載された冷蔵庫は、庫内にある食材を外出先からスマホアプリなどで確認できるため、無駄な買い物を防げます。
また、センサーが野菜の鮮度を検知し、早めに使い切った方がいい野菜を使用したおすすめレシピを提案してくれる技術もあります。このようなフードテック技術の活用が広まるにつれて、フードロスも少しずつ削減されていくでしょう。
フードテックのデメリット・問題点
フードテックは食に関する様々な問題を解決する糸口になりますが、お金がかかるという問題点があります。技術開発やフードテックを活かす環境を維持する費用は、決して安いとは言えません。
例えば植物工場であれば、太陽光に代わる電気や雨水の代わりとなる水道代、設備の維持費がかかります。新しい取り組みを始める場合は、テクノロジーへの初期投資やデータを収集する人件費など膨大な費用がかかるでしょう。
そのため、フードテックに参入できるのが資金に余裕のある企業のみで拡大しづらいという課題があります。
フードテックの6つの領域
フードテックは生産領域、流通領域、中食・外食領域、次世代食品領域、健康食品領域、調理技術領域の6つの領域でビジネス化されています。それぞれの領域で活用されるテクノロジーや解消される問題は異なります。
以下の表で、それぞれの領域の役割を解説します。
領域 | 詳細 |
---|---|
生産領域 | 農機の自動運転による労働者の負担軽減人工的な生育環境による植物栽培・漁業 |
流通領域 | 消費者の元へ直接向かう流通ルートを作り上げる |
中食・外食領域 | モバイルオーダーでフードロスを削減する |
次世代食品領域 | 人工肉などの新しい食品を開発する |
健康食品領域 | 必要な栄養素を1食で済ませられる食品を開発する |
調理技術領域 | フードロボットの導入による人手不足の解消分子ガストロノミーの開発で新たな食感や風味の開発・再現 |
日本政府のフードテックへの取り組み
フードテックへの関心は世界的に急増しているにも関わらず、日本は開発に遅れを取っています。国際競争の遅れから挽回に向け、現在は日本政府もフードテックに取り組んでいるところです。ここでは、日本政府のフードテックへの取り組みを解説します。
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日本政府のフードテックへの取り組み
フードテック官民協議会の立ち上げ
フードテック官民協議会は、農林水産省が立ち上げた会員制のプラットフォームです。食品業界の企業や研究機関、関係省庁を中心に参加し、フードテックの動向やイベント等の情報共有、専門的な議論や事業同士の連携を試みる取り組みがされています。
新たなビジネスモデルの構築やビジネスの実証事業や実証の支援など、食に関する社会問題の解決につながるフードテックビジネスの創出に向けた活動が行われています。
文部科学省のプロジェクト
文部科学省では「持続可能な社会の実現」に向けた取り組みが行われています。将来の環境変化に対応する革新的な食糧生産技術の創出をするプロジェクトでは、今後の食糧不足に対応するための研究が行われています。
例えば、家畜のために投入する膨大な飼料から生産効率の悪さに着目した、新しい食糧生産技術や新食品の研究などです。持続可能性による食の豊かさや世界の飢餓解消に向け、細胞や微生物などに関する様々な研究が実行されています。
参考:将来の環境変化に対応する革新的な食料生産技術の創出|未来社会創造事業
無駄のない食料消費社会を目指す技術開発
フードテックにより、無駄のない食料消費社会を目指す技術開発のための取り組みが行われています。
農林水産省の「2050年までに、未利用の生物機能等のフル活用により、地球規模でムリ・ムダのない持続的な食料供給産業を創出」するプロジェクトでは、昆虫や土壌微生物などに着目し、完全資源循環型の食糧生産システムの開発を目標としています。
例えば、害虫の天敵利用や強制微生物などの生物機能と青レーザーなどの技術を組み合わせて害虫や雑草の排除をするなど、農薬に依存しない方法などが研究されています。
フードテックで生まれた最新技術
フードテックの取り組みにあたり、様々な技術が開発されました。ここでは、フードテックで生まれた最新技術を解説します。
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人工肉
大豆ミートやグルテンミートなど、動物性たんぱく質を利用しない人工肉が開発されました。これにより、家畜の生産による環境への負担を減らすなど家畜の感染症拡大を防ぐことにつながります。
特に牛のゲップにはメタンガスが含まれている研究結果があるため、大量の飼育は自然環境に悪影響を及ぼすといわれています。肉を好む人も多い中、向き合わなければならない課題です。
また、人工肉は動物性タンパク質を摂取できない菜食主義者や宗教食を必要とする人でも、食べられます。環境への不可に配慮しながら、人々の食の豊かさにもつながるでしょう。
植物工場
植物工場は、植物が生育しやすい環境に整えられた工場です。植物が生育しやすく、害虫の被害や気候の変化を受けにくいため、育ちにくい野菜の栽培も容易になります。室内での栽培により、自然災害への備えとしても注目されている技術です。
植物工場では、かけ合わせなど栽培方法の工夫で、栄養素や機能性をコントロールしながら栽培することが可能です。健康志向が高まる中で注目されるであろう栄養素を多く含む野菜が生産されることで、食の豊かさにつながることが期待されています。
細胞培養
細胞培養は、動物または植物由来の細胞を人工環境で増殖させる技術です。例えば「培養肉」は、筋幹細胞を培養装置で増殖させて筋繊維を生成し、積み重ねて筋組織を形成していく形で作られます。
まだ発展途上の分野ですが、本物と変わらない味や食感の再現が可能です。また、魚の場合はマイクロプラスチックや寄生虫など、危険性を孕んだ魚肉の摂取を予防できることが期待されています。
ただ、コスト面や二酸化炭素の排出量の面で、課題も残っている技術です。
新食材
フードテックにより様々な新食材が開発されています。人工肉の他にも、微生物の細胞から作られるシングルセルプロテインや昆虫食品などです。
例えば、コオロギパウダーの入ったクッキーやせんべいなどを見かけるようになりました。昆虫食品の専門業者も存在します。昆虫には魚や肉の倍に値する良質なタンパク質が摂取できると言われています。
昆虫食品は飼育する際の環境への負荷が少なく、飼料交換効率が高いことでもメリットが大きいです。
他にも、スーパーでは見かけることの少ないアサイーやキヌアなど「スーパーフード」と呼ばれる食材も、単体で栄養価が高いとされ注目されています。
陸上養殖
陸上養殖は、陸上の人工的な環境下で魚などを養殖する方法です。船の利用やエサの残骸による海洋汚染の負荷を軽減し、人口増加に伴う需要から水産資源を保護することにつながります。
気候に左右されない管理の容易さや場所を選ばず養殖できることから、輸送コストの削減や消費者のもとへ新鮮な魚を届けられるというメリットがあります。
また、天然の海水で懸念される細菌やウイルスが侵入するという危険性もないため、安全な食品の提供につながるでしょう。食の安全性を担保しながら豊かさにもつながる技術です。
フードロボット
フードロボットは、食品の製造や調理、配膳ができる技術を搭載したロボットです。外食チェーンなどではすでに導入事例があり、フードロボットが食事を運んでいることも珍しくありません。
労働力不足の解消はもちろん、適切な管理を行えば高い衛生レベルの維持が可能です。人間と協働して一部の作業を担ったり、シェフとコラボしてPRをしたりなど幅広い用途でフードロボットが活用されています。
完全な自動化にはならずとも、労働力不足や安全性など飲食業が抱える課題の解決方法として注目を集めています。
フードデリバリーサービス
フードデリバリーサービスとは、店舗に足を運ぶことなく、電話やインターネット・スマホアプリからの注文で食事を自宅・職場まで配達してもらえるサービスです。感染症対策の観点から急速に需要が拡大し、日本でも生活に密着したサービスとなりました。
近年はデリバリー専門の飲食店も増加しており、広い店舗や凝った外装、机や椅子などの備品を必要としないため、コストを抑えて運営できるメリットがあります。また、注文が入ってから必要な数だけ調理するため、フードロスの削減にも効果的です。
モバイルオーダー
モバイルオーダーはモバイルアプリを通じて食品を注文するシステムです。フードデリバリーサービスでよく利用されており、注文者と店舗・配送者をマッチングさせ、注文から決済、配送の手配までをアプリで一括処理ができます。
店舗での待ち時間がなくアプリで決済も完了できるため、消費者にとって手間が少なくストレスが少ないです。
モバイルオーダーではオーダー数に合わせて調理します。無駄に材料を使うことがないので、フードロスの削減にもつながります。
フードテックが学べる大学・学科
近年、注目が集まっているフードテックですが、大学で学問として深く学びたい・将来的に問題解決に尽力したいという方向けにフードテックが学べる大学の学科を紹介します。
技術側からのアプローチができる学科
技術側からアプローチできる学科は、以下のようなものがあります。
- 食品科学系
- 情報工学
- バイオテクノロジー
食品科学系では、製造・加工・保存の方法から新しい食品テクノロジーを学び、研究できます。
また、フードテックに必要な機械のソフト開発やプログラミングなどの知識は必要になってくるので情報工学も重要な分野です。バイオテクノロジーでは、食品の品種改良を含む生物学・遺伝子学などを学べます。
食品側からアプローチできる学科
食品側からアプローチできる学科には以下のようなものがあります
- 栄養学
- 食品ビジネス学
フードテックにおいて、食品の栄養成分や健康に関する知識は重要です。栄養学や栄養科学の学科では、食品と栄養に関する基本的な理解や研究が行われます。
食品ビジネス学では、食品に関する基礎知識はもちろんのこと、商品流通やマーケティング戦略まで多岐にわたる分野を学習できます。特に商品流通とフードロスは綿密な関係があり、最小限に抑えるプロセスの研究を行えます。
まとめ
フードテックは、テクノロジーを利用して食に関する問題の解消や、食の可能性を広げて生活を豊かにするための技術です。SDGsで掲げられた目標にも大きく関わっており、国際社会において様々な取り組みが行われています。
日本は他国に比べてフードテックへの取り組みに遅れをとっていましたが、現在は日本政府を中心にフードテックに関するビジネスモデルや研究・開発を推進するプロジェクトが行われています。
フードテックは効率的で安定した生産を実現するため、食糧不足や飢餓問題への対応など、世界が抱える食の問題を解決する糸口となります。フードテックや世界が抱える食の問題について十分に理解し、できることを考えることが大切です。