職務給制度とは?移行手順や基本給・職能給との違いをわかりやすく解説
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- 職務給制度とは、業務の内容に応じて給与が決まる職務給が基本給の決定要素であること
- 職務給制度は、年齢など関係なく給与が決まるため、従業員の向上心が高まりやすい
- 職務給制度に移行する際は、一般的な給与水準の調査や従業員への説明が必要である
職務給制度とは、業務内容に応じて給与が決まる職務給が基本給の決定要素である制度のことを言います。制度を導入することで、役職や年齢に関係なく給与が決まり、評価の公平感を保ちやすくなります。本記事では、職務給与制度のメリットや移行手順などをわかりやすく解説します。
目次
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職務給・職務給制度とは
職務給・職務給制度とは、在籍年数や役職に影響されず、職務内容や評価に応じて給与の支給額が設定される制度です。従業員の職務内容や職務評価が同等である場合、入社3年以内の若手と10年以上のベテランでも同じ給与になるという、いわゆる「成果主義」です。
欧米諸国では一般的な給与制度ですが、近年は社会の変化に伴い、日本企業でも導入する事例が増えています。「同じ仕事をしているなら同じ賃金を払うべき」という価値観の変化も、職務給の注目に大きく関わっています。
職務給制度が注目される背景
職務給制度が注目される背景には、2020年4月から法改正によって、「同一労働同一賃金」のルールが導入されたことが大きく影響しています。同じ企業の正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間で生じる不合理な待遇差を解消するために定められたものです。
少子高齢化や人材の流動化により、今後の日本企業は人手不足が深刻化することが予想されています。同一労働同一賃金は雇用形態に関係なく、全ての従業員が納得して働ける環境づくりが必要であると考えられ、制定されたルールです。
職務給制度は同一労働同一賃金のルールにマッチした制度で、徐々に取り入れる企業も増えています。
職務給と基本給・職能給の違い
日本では長年「職能給」が浸透しており、現在もほとんどの企業が職能給を採用しているでしょう。基本給も職能給による影響が大きいです。ここでは、職務給と基本給・職能給それぞれの違いを解説します。
職務給と基本給の違い
職務給が、労働時間より成果をもとに給与が支払われることに対し、基本給は規定の労働時間を満たせば必ず支給される給与です。基本給は在籍年数に応じて上昇するため、職能制度と相性のいい給与の内訳になります。
一方、職務給は同じ労働時間働いたとしても、成果により給与が変動します。成果次第で、減給にも増額にもなります。従業員の裁量に任せる雇用形態である「裁量労働制」と相性のいい給与形態です。
職務給と職能給の違い
職務給では、業務内容や達成した成果をもとに給与が決定されます。それに対し、職能給では職務遂行能力を基準に給与が決められます。職務遂行能力は勤続年数やスキルをもとに判断されるため、職能給は年功序列を前提とした給与形態です。
終身雇用が当たり前だった日本社会では、勤続年数の長さによる職能給と相性がよく、長い間採用されてきた給与形態です。しかし、近年は働き方の多様化により終身雇用の概念が薄れつつあり、職務給に切り替える企業も増えつつあります。
項目 | 職能給 | 職務給 |
---|---|---|
評価基準 | 職務遂行能力 | 職務の難易度・責任 |
評価基準として重視されるもの | 勤続年数 | 職種・専門性・成果 |
マッチする制度 | 年功序列・終身雇用 | 同一労働同一賃金・裁量労働制 |
導入が多い国 | 日本 | 欧米諸国 |
考え方 | 人に仕事を合わせる | 仕事に人を合わせる |
特徴 | 勤続年数に応じて待遇も上がる | 成果や実績に基づいた昇給 |
職務給制度のメリット
職務給制度は、従業員の成果によって給与が決まるため、評価の公平性を保ちやすい・優秀な若手人材が評価されるといったメリットがあります。ここでは、以下3つのメリットを解説します。
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職務給制度のメリット
評価の公平性を保ちやすい
職務給制度は、従業員の成果や業務内容に応じて給与が決まるため、評価の公平性を保ちやすいです。職務評価によって支給内容が透明化されるため、いわゆる「給料泥棒」という概念もなくなり、企業側と従業員側の双方が納得しやすくなります。
職能給では、例え同じ仕事内容だとしても、年齢や継続年数、役職によって給与が変わるため、従業員から不公平さに対する不満が生じやすい環境です。しかし、職務給制度を導入することで、この不満は起こりにくくなります。
優秀な若手人材が評価される
職務給制度では、成果に応じた給与が支払われるため、従業員が率先して業務のスキルを磨き、優秀な人材へと成長しやすくなります。その結果、優秀な若手の人材が公平に評価され、年齢などに関係なく従業員の給与額に差が生まれます。
職務給制度により、若手が成果を出しても給与には反映されない職能給とは違い、若手のモチベーション維持・向上にも期待できます。また、従業員の定着率の向上にもつながるでしょう。
求職者へのアピールポイントになる
職務給制度によって、人材のスペシャリスト育成にも力を入れると、従業員の仕事に対するやりがいが生まれます。「自分の成果が給与に直結すること」は、求職者への大きなアピールポイントとなり、さらなる優秀な人材の確保にもつながるでしょう。
職務給制度のデメリット
職務給制度は、成果制度によってメリットがある反面、その制度によってデメリットも生じてしまいます。ここでは、以下2つのデメリットについて解説します。
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職務給制度のデメリット
評価制度に不満が生じる
職務給制度では、自身の成果が上がらないと給与も上がらないため、従業員の企業に対する愛着や意欲が低下する可能性があります。そのような状況下では、従業員個々のモチベーションの維持も難しくなるでしょう。
また、給与がなかなか上がらない従業員は、評価基準に対して不満を感じやすくなり、転職を視野に入れてしまうことも考えられます。そのため、評価制度に関して基準を明確にしないと、従業員からの不満が生じたり、勤続年数の低下が危ぶまれます。
評価に手間と時間がかかる
職務給制度における評価は、基本的に企業の人事が行うことから、職能給のように年功序列によって給与を決められる場合と違い、企業側の負担が大きくなります。つまり、評価制度の基準を作成するのにも手間と時間がかかってしまいます。
また、職務給では職務評価によって給与が決まるため、職能給に比べて業務内容や成果を精査して評価を決めなければいけません。そして、その評価に合わせて人材配置も行わなければならないため、組織の硬直化にもつながりやすく、注意が必要です。
職務給制度へ移行する手順
職務給制度への移行を考える場合、手順にならって計画的に進めることが大切です。ここでは、職務給制度に移行する手順を解説します。
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職務給制度へ移行する手順
給与水準を調査
初めの手順として、一般や同業種の賃金水準の調査が必要です。厚生労働省が毎年調査し掲載する「賃金構造基本統計調査」で、企業規模別や産業別など様々なカテゴリに分かれた調査結果を確認できます。
他にも、民間の研究機関や調査会社の発表したものや、人事に詳しいコンサルティング会社に相談することでも、給与水準を調査することが可能です。
給与制度の見直し
給与水準の調査結果を参考に、給与制度を見直します。現状の給与制度で抱える課題を明らかにし、自社に合った給与制度となるよう、シミュレーションをする必要があります。既存の従業員を移行後の制度に当てはめ、賃金総額が予測通りになっているか確認が必要です。
もし、給与制度に問題点があれば協議しながら再検討し、効果的な運用につながると確信できる結果になるまで、繰り返しシミュレーションを行うことが大切です。
従業員への説明・運用
職務給制度への移行は、従業員に必ず説明した上で運用する必要があります。なぜなら、給与は従業員のモチベーションに直結するため、詳細に説明して理解を得る必要があるためです。移行前に、制度を移行する目的や運用方法、変更点を具体的に伝えましょう。
賃金規定を変更・届出
新制度の運用が可能となったら、賃金規定の変更や労働基準監督署への届け出が必要です。賃金規定を変更する場合は担当部署で「就業規則変更届」にて変更案を作成し、経営陣の承認を得る必要があります。
また、従業員代表者の「意見書」を作成し、従業員全員が賃金規定について認知しており、了承まで得ていることを証明することが求められます。例え意見がない場合でも「特に意見はありません」と記載した意見書を受け取らなければなりません。
その後、「賃金規程変更届」と「就業規則変更届」を作成し、企業の代表者の押印をした上で管轄の労働基準監督署へ届け出をします。
職務給を導入する際の注意点
職務給を導入する際は、注意しなければならない点があります。ここでは、職務給を導入する際の注意点を解説します。
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職務給を導入する際の注意点
新入社員の給与を低くする必要はない
経験値の低い新入社員は給与を低く見積もられがちですが、職務給の場合は給与を低くする必要はありません。職務給では、入社して間もない新入社員であっても、高い成果を出せばそれに見合った給与を支払うことが妥当です。
ただ、研修期間など難易度の低い業務に携わらなければいけない時期は、職務給の運用だと著しく給与が低くなる可能性もあります。そのような場合は、研修期間のみ職能給にするなど調整することもできます。
業務内容の変更によって減給の可能性もある
職務給では、業務内容の変更によって減給の可能性があります。職能給で評価基準とされる職務遂行能力は業務の変更によって下がらないものとされていますが、職務給で基準となるのは業務です。そのため、業務の変更で賃金が変動することもあります。
会社都合での人事異動では、業務の変更によって減給となった場合、従業員の不満につながる可能性もあります。賃金規程にしっかりと明記した上で、従業員への徹底した周知も必要となります。
採用活動での注意点
職務給制度の導入は、求職者へのアピールポイントとなり、優秀な人材を確保するためのきっかけになります。しかし、採用時にはどのような成果を出してくれるかは見えません。
職種によっては採用後に期待通りの成果を出せず、ほかの職種への異動も難しいということもあり得ます。そうなると、離職へつながってしまいます。
特に中途採用においては、経験値の高い人材であっても必ず試用期間を設け、職務給で設定された賃金に相応しい仕事ができそうか確認することが必要です。
一般的に職務給は基本給に含まれる
基本的に、職務給は基本給に含めて支給されます。その場合、職務給は残業代や退職金、賞与などの対象になります。ただし、基本給に職務給と職能給を含めず手当として支払われない場合でも残業代として計算式に含める必要があります。
また、基本給のみを勤続年数で決定し、職務給を手当とする支給方法もあります。手当の場合にも残業代の計算には職務給を含める必要があるため、注意が必要です。
職務給と職能給を組み合わせることも可能
企業ごとの状況に合わせて、職務給と職能給を組み合わせることも可能です。特に中小企業では、1人が多くの役割を担っている場合も多く、単純に個別の成果だけで判断することが難しい傾向があります。
このような場合には、職務給制度と職能給制度を併用することで、仕事の成果とスキルの両方から評価を落とし込めるため、適切な評価をしやすくなります。
中小企業において、職務給制度と職能給制度を併用する際には、社内のすべての業務を棚卸しして、それぞれの職務の重要度や必要なスキルを明確にすることが重要です。評価の対象となる項目を明確にした上で、職務給の設計を考えると良いでしょう。
まとめ
職務給制度とは、従業員の勤続年数に関わらず、成果や実力などの職務評価をもとに給与を決定する制度です。近年の日本では、少子高齢化による人手不足も影響し、取り入れる企業が増えてきました。
職務給は成果に合った給与を支給することで、従業員の成長意欲を高め、若手のモチベーションアップにもつなげることができます。一方、業務の変更や成果が出ず減給になることで自社へのエンゲージメントが低くなることも懸念されます。
職務給制度を導入する際には、給与制度の見直しや従業員への説明、書類の提出など様々な手順が発生するため、計画的に進めることが大切です。この記事で解説した注意点などを参考に、職務給への移行を検討しましょう。