観光DXとは?観光業界が抱える課題やDX推進のメリット・事例解説

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  • 観光DXは、観光庁が推進する観光事業者と地域の連携を強化するための取り組みである
  • 観光DXの推進で、観光客にとってより魅力的な施策や新たな顧客体験の提供に繋がる
  • 観光DXを推進する際は、地域の課題の明確化や観光客の個人情報の取り扱いに注意

観光DXとは、観光庁が推進する観光事業者と地域の連携を強化するための取り組みです。観光DXを進めることで、観光客の利便性向上や人材の有効活用が可能です。本記事では、観光業界が抱える課題、観光DXを推進するメリットやデメリット、成功事例などを解説しています。

目次

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  1. 観光DXとは
  2. 観光業界が抱える課題
  3. 観光DXを推進するメリット
  4. 観光DXのデメリット
  5. 観光DXを推進する際の注意点
  6. 観光業界でのDX推進・成功事例
  7. まとめ

観光DXとは

観光DX(デジタルトランスフォーメーション)とは、観光庁が推進するプロジェクトで、デジタル技術を活用して観光事業者と地域の連携を強化するための取り組みです。デジタル技術によって収集されたデータの分析・活用を通じ、ビジネス戦略の再検討・新たなビジネスモデルの創出を目指しています。

観光DXによって、地域が持つ独自の文化・自然などの観光資源をブラッシュアップし、より魅力的な観光コンテンツにして観光客に提供できるようになります。そして、観光客がその地域に足を運ぶ価値を高め、観光消費額を増加させるのに大きく役立ちます。

技術革新が目覚ましい現代、社会の常識や人々の行動も変化しています。観光産業も、そういった時代の流れに合わせて柔軟に形を変えていくことが大切です。

観光DXの推進で、マーケティングやマネージメントのデジタル化を進め、旅行者の消費拡大や再来訪を促進しましょう。

参考:観光DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進|観光庁

観光DXが促進される背景

観光DXが促進される背景には、「DXの進行」と「新型感染症の蔓延」があります。インターネットやモバイルデバイスの普及、ビッグデータやAIの活用など、デジタル技術の進歩により様々な業界でDXが進行しています。

また、新型感染症の感染拡大によって、物理的な接触や接待への懸念が生じ、デジタルを活用した非接触のチケット予約・入場システム、デジタルガイドの提供が求められるようになりました。

これらの背景から、観光業界でも、DXの推進による新たなビジネスモデルの策定や、顧客接触手法を検討する動きが加速してきています。

観光庁が推進する観光DXの取り組み

感染拡大で落ち込んだ観光業のV字回復を図るためには、観光地の付加価値を高め、持続的な観光地経営を確立することが重要です。

また、デジタル化の遅れや生産性の低さなどといった、観光業の構造的な課題を解決するには、DXを推進するとともに、観光産業で働く従業員の労働環境を改善する取り組みが必要です。

そのため観光庁では、旅行者の利便性向上・観光産業における生産性向上などを目的とした、観光DXの推進による「観光地の地域活性化」「持続可能な経済活動の実現」を目指した取り組みを行っています。

参考:令和4年版観光白書について(概要版)|観光庁

観光業界が抱える課題

観光業界は今、離職率の高さ・生産性の低下・デジタル化の遅れ・利益の減少など、多くの課題を抱えています。それらの観光業が抱える課題について、以下で解説します。

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離職率が高い

観光業界の離職率は、他の業界よりも高い傾向があります。中でも、観光地にとって欠かせないホテル・旅館などの宿泊業、レストラン飲食業分野の離職率は平均で25%を超えており、早急な改善が必要です。

離職率が高い原因には、仕事内容が多岐に渡る・労働への対価が見合っていない・対人関係のストレスなどが挙げられます。離職率を下げるためには、従業員が働きやすく、やりがいを持って仕事に取り組める労働環境へと整備することが求められます。

生産性が乏しい

観光業界は、他業界と比較して生産性が乏しいと言われています。これは、1人の顧客に対して関わる従業員の数が多いことの表れです。おもてなしを大事にし、接客時間の長い宿泊業で、特にその傾向が見られます。

業務フローが複雑だと、運営が非効率になりがちです。生産性を上げるためには、業務フローの改善など、業務効率化を図ることが重要です。

デジタル化が遅れている

総務省の「令和3年情報通信白書」によれば、業種別DXの取り組みを実施していると回答した割合が、情報通信業で51.0%だったのに対し、宿泊業・飲食サービス業では16.4%でした。この結果からもわかるように、観光業界はデジタル化で他業界よりも大幅に遅れています

スマートフォンの普及や、宿泊予約サイトの登場により、従業員が対応しなくても予約業務は行えるようになったものの、まだ多くの業務は人の手を介して行われているのが現状です。そのため、デジタル化による業務効率化が急がれます。

利益が減っている

近年、観光産業が抱える大きな問題点として挙げられているのが、新型感染症の影響による利益の減少です。2020年以降、新型感染症の影響による収益減により倒産した宿泊業者は数多くいます。

倒産は免れたものの、収益が伸び悩み経営難に苦しんでいる宿泊業者もいまだ多く、観光DXの推進による業務改善化が望まれます。

参考:令和3年 情報通信白書|総務省

必要な投資金が確保できない

観光地における課題が分かっていたとしても、その課題解決に対する投資金が確保できない、というのも大きな問題となっています。それぞれの地域・観光地には予算があり、デジタル化などの導入には相応のお金が必要となります。

時代の流れに対応しようと、早くから動いていた場合でも、結局はお金の問題で行き詰まり、改善ができません。観光地の集客を増やして、利益を上げなければならなくても、そのための施策には投資金がかかります。そこには大きなジレンマ・課題が存在します。

技術者が側にいない

業務効率化のため、DXの導入を検討した場合、そのシステムを運用する人を用意する必要があります。しかし、後期高齢者の多い観光地の場合、パソコンやスマートフォンの利用にも慣れていない人が多く、簡単な動作・管理でさえ行えない場合があります。

また、システム自体がとても複雑で、日々の管理やトラブルに対応できる技術者が必要な場合もあります。それぞれの観光業界において、求める内容にも差があるため、システムの導入・運用についても課題が残ります。

観光DXを推進するメリット

観光DXの推進は、観光客の利便性向上・新たな顧客体験の提供・人材の有効活用など、さまざまなメリットがあります。観光DXを推進するメリットについて、以下で詳しく解説します。

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観光客の利便性向上

観光DXは、観光客の利便性を向上します。 観光客は、自宅からオンラインでいつでも宿泊先を予約できます。オンラインツアーを利用すれば、まるで現地に行ったかのような旅行体験を味わえ、ツアーでは訪れないようなディープなスポットを知ることも可能です。

また、AIを活用して、観光客の嗜好に合わせた観光プランの提案ができます。それによって、観光客はより良い旅行プランを計画でき、現地に行った際は満足度の高い観光体験ができることでしょう。

決済機能が充実していれば、キャッシュレスでスムーズかつスマートに決済でき、旅行先で余分な現金を持つ必要がありません。オンライン予約やキャッシュレス決済では、ポイントがつく場合もあり、観光客はお得に旅行を楽しめます。

観光マーケティングに繋がる

観光DXでは、データ分析やAIを活用して、観光客の嗜好や行動パターンを把握し、より正確なターゲットマーケティングを実施できます。これにより、観光地は訪問客にとって有意義で魅力あるサービス・プロモーションを打ち出せます。

SNSの口コミやレビューの活用により、観光客の声をダイレクトにすくい上げ、改善点を洗い出してマーケティング施策に活用することも可能です。また、SNSは、観光地と観光客の対話や、観光客同士の情報共有にも役立ち、観光客の旅行への意欲を高めてくれます。

観光DXは、これらの要素を組み合わせ、観光マーケティングに大きく貢献します。効果的なマーケティングによって競争力を強化し、少ない費用と労働力で、収益の最大化を目指せるでしょう。

新たな顧客体験の提供が可能

観光DXでは、オンライン会議システムを活用した、リアルタイムかつ双方向性のオンラインツアーを開催できます。現地スタッフと、自宅などにいる観光客をデジタル技術で繋ぎ、コミュニケーションを取りながらスムーズな観光体験を実現します。

また、音声ガイド付きのスマートグラスを貸し出して、施設案内や観光ツアーを開催すれば、観光客はより大きな驚きと感動を得られます。翻訳アプリを提供すれば、国外観光客も、外国人観光地でさらに快適に観光できるでしょう。

このように、観光DXは、従来の観光体験とは異なる新たな顧客体験を提供します。それにより、観光客が観光地に魅力を感じたり、親近感を持つなどの効果が狙えます。

人材の有効活用が可能

観光DXの推進により、これまで人が行っていた業務を自動化したり効率化したりして、労働時間を削減することが可能です。そのため、従業員は、どうしても人でなければ対応できない業務だけに集中できるようになります。

きめ細やかなおもてなしを観光客に提供することができれば、顧客満足度も高まるでしょう。顧客満足度の向上は、売上アップにも寄与します。

人的ミス・トラブルの防止

観光DXでは、宿泊予約やチケット発行など、さまざまな業務をデジタル化できます。予約状況はデータ上で管理され、従業員が予約表に記入する必要がないため、日程や人数の記載ミスが起こりません。

また、施設の利用チケットやクーポンがデータで管理でき、決済もオンラインで行えるため、チケットやクーポンの紛失リスク、金銭トラブルも低減できます。観光DXでは、このような人的ミス・トラブルの防止にも役立ちます。

観光DXのデメリット

観光DXには、導入コスト・手間がかかるなど、いくつかのデメリットが存在します。デメリットには、以下のようなものがあります。

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導入コスト・手間がかかる

観光事業はデジタル化されていない業務が多くあり、観光DXを実施するには、デジタル技術の導入・インフラの整備・システムの開発およびカスタマイズなどのコストが発生します。また、新たなプロセスやシステムの導入に伴う従業員への周知にも、時間を要します。

導入した機器の操作方法を全従業員に周知するには、社内研修を開催するなどの対応も必要になります。そのため、このような導入コストと手間を負担に感じてしまうケースは少なくありません。

DX人材の確保や育成が必要

観光DX推進には、DX人材の確保・育成が必要です。DX化には、ビッグデータの収集・管理などの高度なデジタル技術を要しますが、デジタル技術を扱えながら、観光産業の特性・業務にも精通している人材は、そうそう見つかりません。

DX人材の育成には時間も手間もかかるため、育成期間も考慮して導入スケジュールを立てることが必要です。

結果がすぐに出ない可能性がある

観光産業のDX化は、すぐには結果が出ない可能性を想定しておく必要があります。なぜなら、DXは単にデジタル化を進めるだけではなく、ビジネス戦略の再検討・新たなビジネスモデルの創出も見据えている、中長期的なプロジェクトだからです。

そのため、社内の体制強化だけでなく、市場との調整も必要となり、すぐに結果を出せない可能性は充分に考えられます。

観光DXを推進する際の注意点

観光DXは、観光産業全体の活性化に役立ちます。しかし、デジタル技術にはデメリットも存在するため、導入する際は以下の注意点を考慮しましょう。

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課題を明確にする

観光地が抱えている課題は、観光地ごとの特性により異なるため、他の観光地の成功例をモデルケースとして取り入れても、同じように結果が出せるとは限りません。そのため、観光DXの推進には、地域がどのような課題を抱えているのか、明確にすることが重要です。

観光客が感じている不満を分析し、手続きの簡素化・現地情報の充実化など、観光客が求める改善点を把握しましょう。また、インフラの整備状況・ネットワークの安定性に懸念がある場合は、改善策の検討も大切です。さらには、既存のビジネスモデルの見直しが必要になる場合もあります。

課題が明確になっていないと、観光DXを最大限に活かせず効果を充分に発揮できないため、課題を明確にしておく必要があります。

観光DXの実績を持つ企業と連携する

観光DXの実績を持つ企業と連携すれば、より効果的に観光DXを推進できます。具体的には、以下のようなメリットがあります。

  1. 観光DXの導入・運用に関するノウハウが得られる
  2. 観光DXに必要な技術やシステムを把握できる
  3. 観光DXを推進するために必要な人材を獲得できる。

観光DXの実績を持つ企業は、デジタル技術や革新的な発想を観光業界に応用するための専門知識とノウハウを持っています。その知見を活用することで、より効果的かつ効率的な観光DXを実施でき、観光産業全体の活性化に貢献することも可能です。

また、デジタル技術の導入には高度な専門知識や技術を要しますが、企業連携によって専門知識を有する人材や技術を獲得することもできます。

プロジェクトの成功に向けて企業が連携することで、技術革新や成果のスピードが早まります。このように、共同プロジェクトの実施によって、観光DXの実績を持つ企業との連携を行うことは、より効果的かつ成功確率の高い観光DXの実施に有効です。

セキュリティを考慮する

観光DXは、デジタル技術を活用するため、セキュリティを考慮するのが重要です。特に、

観光客の個人情報を取り扱う場合は、細心の注意を払いましょう。

新しくシステムを導入する際は、設計の段階でセキュリティ強化を考慮するようにします。また、データを扱う従業員をIDで管理し、アクセス履歴が分かるようにするなどの対応も必要です。

観光業界でのDX推進・成功事例

国内外問わず、観光業界では実際にDXを推進・成功した事例がいくつも報告されています。ここでは、国内事例・海外事例をいくつか紹介します。

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観光業界でのDX推進・成功事例

  1. 観光DX国内事例
  2. 観光DX海外事例

観光DX国内事例

国内ではDXによって、電車やバス、路面電車やロープウェイといった、観光地ならではの複雑な乗り物の運行状況の提供、初めてでは発見しにくい観光地・宿泊施設などの情報提供を行っています。

市町村が行っている場合、観光局が行っている場合、旅行会社・航空会社が行っている場合と、事例は様々です。

観光マップとGPS機能・アプリの連携

観光地における、観光スポットや交通状況を提供するアプリを開発し、観光情報を提供するサービスが登場しています。GPS機能を活用して、現在地から近い観光スポットを紹介したり、季節ごとのイベントを案内してくれたりもします。

また、国内の観光客向けとしてだけでなく、多言語対応もしています。複雑なバスや地下鉄などの乗り換え、徒歩におけるルート案内など、初めての観光でもストレスなくスムーズな観光旅行を実現できるように、アプリ・サービスを提供しています。

ポータルサイトと連携した観光案内

観光客向けのポータルサイトを用意し、宿泊先や食事処、季節に合わせたイベントなど、様々な情報を公開しています。検索者の観光の目的に合わせて情報を提供してくれるため、旅行計画の立案にも大きな役割を果たします。

また、観光地ならではのロープウェイやケーブルカーの時刻案内、バスの運行状況などをリアルタイムで表示し、観光旅行における利便性を高めています。サイト内で多言語対応も行っており、外国人観光客にも使いやすい設計となっているのも嬉しいポイントです。

AIを活用して24時間トータルサポート

航空会社における一例としては、ナビゲーションアプリと連携・開発をして、観光情報の提供を行っている事例もあります。共同開発により、ナビゲーション技術で利用されるAIの技術を活用し、自動応答チャットによって観光客の困りごとに対応しています。

人による対応を必要としないため、AIが24時間トータルサポートを行い、観光地における疑問や問題を即座に解決することができます。問い合わせを行う時間やコミュニケーションも必要としないため、外国人旅行者にとっても非常にありがたいサービスです。

観光DX海外事例

海外では、観光地の広大な敷地を利用した動画サービスの提供や、実際にその場で体験しているかと思わせる施策、「ぜひとも現地に行ってみたい」と思わせる施策が行われており、国内とはまた違った楽しみ方ができます。

中でも、最新の技術を使用したバーチャルツアー体験は、今後の展開に大きな注目を集めています。

SNSや動画配信サービスによるレジャー体験

SNSや動画配信サービスを活用し、海外からの注目を集めて、結果的に観光客の増加に成功している事例があります。作成したアカウントのデータ分析も可能であるため、視聴者のニーズに合わせた旅行プランの提供もできるとして、海外を中心に施策が増えています。

また、現地でさらに観光を楽しめるように、専用のアプリを用意して施設を案内したり、VR動画を作成して、VR技術による施設体験を実現したりもしています。感染症の蔓延によって閉鎖されていた場所が、新たなブランドアピールによって集客を行っています。

オンラインでバーチャルツアー体験

近年、メタバースや仮想空間・バーチャル世界を利用した、オンラインのバーチャルツアー体験も注目を集めています。インターネットが繋がれば、世界中どこからでもバーチャルツアー体験が可能であり、比較的低価格で観光体験をすることができます。
ただ観光地を巡るだけでなく、多言語対応した解説付きの音声案内や、DXを活用したクイズの出題やイベントの設定など、顧客のニーズに合わせて観光が可能です。こういったバーチャルツアー体験は、日々コンテンツが充実しており、今後の展開も大いに期待されます。

まとめ

観光DXは、観光客にも観光地にも多くのメリットをもたらします。観光客は、利便性が向上し、新たな顧客体験を享受できます。また、観光業に携わる人の業務を効率化でき、生産性も向上するため、観光業の発展においてDX化は必要不可欠です。

しかし、DX推進には、導入コストやDX人材の育成などの負担や手間がかかります。まずは、抱えている課題を明確にし、観光DX推進の具体的な目標や課題を把握することが、成功への近道です。

この記事を参考に観光DXの実施を検討し、より魅力的な観光地へと成長させる手がかりを掴みましょう。

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