金融業界におけるDXとは?金融DXの課題や施策事例を解説
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- 金融DXとは、金融に関する業務プロセスやサービスのDXを実現することである
- 金融DXを進めるには、セキュリティやデジタル人材の確保などの課題解決の必要がある
- 金融DX推進により業務が自動化され、人件費の削減や業務効率化に繋がる
金融DXとは、金融に関する業務プロセスなどのDXを実現することを言います。金融DXを進めることで、コスト削減や業務の効率化に繋がります。本記事では、金融DXをよく知らない方のために、金融業界におけるDXの課題やメリット、金融DXの進め方などを解説しています。
金融DXとは
金融DXとは金融機関がデジタル技術を活用し、顧客の利便性向上やコスト削減、リスク管理の強化などを図り、新たなビジネスモデルを創造する取り組みです。金融業界は、規制の厳しさや顧客のニーズの多様化など、さまざまな課題に直面しています。
これらの課題を解決し、競争力を維持するために、金融機関はデジタル技術を活用したDXの推進が不可欠です。金融DXは、金融業界の構造変革をもたらす可能性を秘めています。競争力を維持するために、金融機関はDXの推進に取り組む必要があるでしょう。
DX(デジタルトランスフォーメーション)とは
DXとはデジタルトランスフォーメーションの略で、企業がデジタル技術を活用してビジネスモデルや組織、プロセスを変革しながら競争力を高めることです。インターネットやデジタル技術の進む近年では、DX推進に力を入れている企業も少なくありません。
日本でもDX化を取り入れる企業が増えてきているものの、まだまだアメリカなどの海外より遅れている状況です。DX推進は金融業だけでなく、多くの業種が取り入れるべきですが、どの業種でもいくつかの課題があります。
金融業においてDXを推進する必要性
さまざまな業界でDXが進んでいますが、昨今では金融業でも推進されています。なぜ金融業にDXが必要なのか、代表的な理由を2つ解説します。
2025年の崖
レポート内では日本の企業のITシステムの老朽化が進んでおり、2025年までにこれらのシステムの刷新に約22兆円の費用が必要になると予測しています。この費用を負担できずにITシステムの刷新を怠ると、企業の生産性や競争力が低下するでしょう。
2025年の壁は、日本の企業にとって大きな課題です。金融業は、この課題を解決するために、デジタル技術を活用したDXの推進に取り組んでいく必要があります。
参考:DXレポート〜ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開〜|経済産業省
参入企業の増加
ネット銀行やQRコード決済をはじめとするキャッシュレス決済の流行により、金融サービスとIT技術を組み合わせたフィンテック領域に参入する企業が増えています。
また、現金を持ち歩かなくてもスマホ1つであらゆる支払いを済ませられるようになったことで、現金離れが進んでいます。競争の激化だけでなくユーザーニーズの観点から見ても、DX化の推進は事業の発展に役立ちます。
金融業界におけるDXの課題
金融業界においては、セキュリティへの不安やIT人材の確保など、DX推進に対する課題が多くあります。ここでは、金融業界におけるDXの課題を5つ紹介します。
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金融業界におけるDXの課題
古い習慣や制度が残っている
金融業の多くは古い習慣や制度が残っており、新たなシステムの導入がスムーズに進められない傾向にあります。銀行などの金融業は顧客からの信用を大切にしており、システムの変更によるミスやエラーが出ることは避けなければなりません。
そのため、レガシーシステムと呼ばれる長年使われてきたシステムを手放せないことが多くあります。レガシーシステムは老朽化や複雑化などの問題があるため、デジタル技術を活用したDXの推進はなかなか難しいでしょう。
しかし、DX化の遅れが利益の低下に繋がる可能性もあるため、システムだけでなく規制の緩和や古い制度の見直しなども必要です。手動による定型業務や対面契約など、今まで行っていたさまざまな手段の変更を行う必要があるでしょう。
セキュリティへの不安
セキュリティリスクも、金融業界におけるDXの課題の1つです。金融業界は顧客の個人情報や金融資産を扱っているため、DXの推進と共に顧客情報やさまざまな情報に対するセキュリティ対策を強化する必要があります。
インターネットバンキングやモバイルバンキングなどのデジタルチャネルの提供を行う際には、二段階認証などの万全なセキュリティ対策を行わなければなりません。情報漏洩があれば企業は信頼を大きく失い、利益が大きく低下する可能性があります。
デジタル人材の不足
金融業界におけるDXの課題の1つに、人材不足があります。金融業界はデジタル技術に精通した人材が不足しており、DXの推進を行うためには適切な人材を確保しなければなりません。地域金融機関や地方銀行は、特に人材が不足していると考えられます。
少子高齢化による人口減少、都市部への人口流出、金融業界の競争激化などにより、地方金融機関や地方銀行は人材不足に陥っています。DX化を行うためにはIT人材が必要なため、あらかじめデジタル技術に詳しい人材を確保しておかなければなりません。
金融業で使われているソースコードは難易度の高いものが多く、継承するのが難しいと言われています。そのため、DX化における人材の確保は大きな課題となるでしょう。
莫大な予算が必要
金融業は屈指の大企業が多いため、DX化には莫大な予算が必要です。大企業であればあるほどITインフラの整備にコストがかかります。
大企業であっても莫大な予算を簡単に計上することはできないため、金融業界におけるDXの大きな課題の1つと言えるでしょう。
顧客のITリテラシーが低い
顧客のITリテラシーが低い点も、金融DXが抱えている課題です。ITリテラシーとは、IT技術を活用する際に必要となる情報の扱いに関する理解や、操作に関する能力のことです。DX化を行ったとしても、顧客のITリテラシーが低いと利益は上がりません。
例えば、インターネットバンキングやモバイルバンキングを利用する際に、操作方法がわからなかったり、セキュリティ対策を理解していなかったりすることがあります。そのような場合、顧客はサービスの利用をためらってしまうでしょう。
金融機関は、顧客のITリテラシーを向上させるための取り組みを進めることが重要です。顧客向けの研修やセミナーを開催したり、わかりやすい説明やガイダンスを提供したりすることで、顧客がデジタル技術をより安全かつ効果的に活用できるように支援できます。
金融DXを進めるメリット
金融DXを進めると、コストの削減や業務の効率化など多くのメリットが得られます。以下で、詳しい4つのメリットを見ていきましょう。
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金融DXを進めるメリット
コスト削減
金融業界は煩雑な手続きによる高コストが問題視されています。しかし、DX化を取り入れることによりコストの大幅な削減が可能です。例えば、RPA(ロボットプロセスオートメーション)などの技術を活用すれば、人件費を削減することができます。
単純な作業を自動化できるため、事務作業を行う人材が少なく済むでしょう。また、ビッグデータやAIなどの技術を活用して顧客の行動パターンや市場の変化を分析すると、効率の良いマーケティングが行えるようになり、結果としてコストの削減に繋がります。
そのほかにも、チャットボットの導入やクラウドサービスの活用により、さまざまなシーンでのコスト削減が可能です。
業務の効率化
煩雑になりがちな業務を効率化できるのも、DX化を行うメリットの1つです。コスト削減と同様に、DX化によって便利なツールやシステムを導入すると、手続きの自動化や効率の良いマーケティングが行えます。
チャットボットの導入を行えば、顧客からの問い合わせに対しチャットボットで自動的に対応できます。これにより、人件費や時間の削減を図ることが可能です。また、ITインフラをクラウド上に移行することも有効です。
インターネット接続があればどこからでもアクセスできる利便性や、ベンダーが障害時の復旧作業を行うことによる自社負担の軽減が、業務の効率化に繋がります。
顧客の利便性向上
顧客の利便性向上とはデジタル技術を活用し、顧客が金融サービスを利用する際に、より便利で快適に利用できるようにすることです。例えば、インターネットバンキングやモバイルバンキングを導入すれば、顧客は24時間365日、場所を問わずに銀行を利用できます。
急な入出金が必要になった際も、インターネットバンキングがあれば非常に便利です。また、チャットボットを導入すれば、時間や曜日に関係なく問い合わせの返事をもらえ、顧客満足度の向上に繋がります。
新たなビジネスモデルの創出
金融DXを進めるメリットには、新たなビジネスモデルの創出も挙げられます。以下で、DX化によってどのようなビジネスモデルが創出できるのか見ていきましょう。
オンライン証券取引
DX化で創出できる新たなビジネスモデルとしては、オンライン証券取引が挙げられます。DX化を取り入れてインターネットバンキングやモバイルバンキングを導入すれば、オンラインでの証券取引が簡単にできるようになります。
従来は対面でのやり取りだった証券取引も、オンライン化することで身近なものになるでしょう。ただし、本人確認をしっかり行うなどセキュリティ対策を強化する必要があります。オンライン証券取引ができるようになると、新たな顧客も獲得可能です。
オンライン決済サービス
オンライン決済サービスは、インターネットバンキングやモバイルバンキングを導入することで取り入れられるビジネスモデルです。近年では、QRコードを読み取って支払いができる振込用紙も増えており、オンライン決済サービスを使う方も多くいます。
銀行やコンビニに振り込みに行くのが手間に感じている方も多いことから、オンライン決済サービスは今後も需要が高まると考えられるでしょう。
また、さまざまな商品やサービスの代金をオンラインで支払う機会も増えてきました。このような背景から、金融DXによる新たなビジネスモデルの創出が新規顧客の獲得や既存顧客の満足度アップに繋がると言えます。
AIによる投資アドバイスサービス
AIによる投資アドバイスサービスも、金融DXによって創出できる新たなビジネスモデルです。AIによる投資アドバイスサービスとは、AIを活用して顧客に投資アドバイスを行うサービスのことを指します。
AIは顧客の投資目的やリスク許容度、資産状況などを分析し、顧客に最適な投資商品やポートフォリオを提案することが可能です。過去のデータや顧客の資産状況から適切なアドバイスをしてくれるため、投資の初心者にも向いています。
金融DXの主な施策事例
金融DXについては、さまざまな施策を行っている企業が存在します。ここでは、主な施策事例を4つ見ていきましょう。
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金融DXの主な施策事例
AIやデータの活用
これまでは顧客の年齢や性別など、基本的な属性データのみで分析をしていましたが、近年ではビッグデータを利用した分析が欠かせません。ビッグデータとは、人間では全体を把握することが難しい巨大なデータ群のことです。
金融業においては、顧客の主な利用店舗や連携サービスの利用率など、細かな行動データを使って分析し、最適なアプローチをしましょう。
また、AIなどの最新技術を導入することにより、業務の効率化や顧客満足度の向上が狙えます。チャットボットを利用したスムーズな顧客対応をはじめ、過去データからの学習による将来の予測を基に、顧客満足度の向上を意識することも大切なポイントです。
RPAの導入
RPAとは、「Robotic Process Automation」の略で、ソフトウェアロボットや仮想知的労働者と呼ばれる概念に基づいた事業プロセス自動化技術の一種です。デスクトップ作業のみに絞ったものは、ロボティック・デスクトップ・オートメーションと呼びます。
ソフトウェアロボットを使用して人が行う定型的な業務を自動化できるため、業務の効率化を図れるのがメリットです。例えば、請求書の処理やデータ入力などの業務を自動化することができます。ミスや人件費の削減、24時間365日の稼働も可能です。
生体認証の活用
生体認証とは、指紋や顔などの生体情報を使用して本人確認を行う技術です。金融DXにおいては、インターネットバンキングやモバイルバンキングのログイン、ATMでの取引やクレジットカードの利用、口座開設や融資などの際に用いられます。
生体認証は従来のパスワード認証に比べてセキュリティ性が高く、使い勝手が良いのがメリットです。セキュリティの強化が重要視される金融DXにおいて、生体認証は重要な技術の1つと言えるでしょう。
クラウドシステムの導入
クラウドシステムの導入により、金融機関はITインフラのコストや管理コストを削減することができます。また、クラウドシステムはインターネットを介してアクセスするため、セキュリティが強化されるのも大きな特徴です。
さらに、クラウドシステムはオンプレミス型のシステムに比べて、導入や運用が容易であるため俊敏性や拡張性が向上します。クラウドシステムの導入は金融DXを推進する上で、重要な要素の1つとなっているため、積極的な導入が求められるでしょう。
金融業界におけるDXの進め方
金融業界におけるDXは、順を追って進めていく必要があります。ここでは、金融業界におけるDXの進め方を3つのステップに分けて見ていきましょう。
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金融業界におけるDXの進め方
デジタル人材の確保・支援者の選定
金融DXにおいては人材不足が懸念されているため、まずはデジタル人材の確保を行う必要があります。ITに強い人材を集め、DX化がスムーズに進められる体制を整えましょう。デジタル人材は社内で選定するほか、外部から派遣して貰う方法もあります。
また、デジタル人材の確保だけでなく、支援者の選定も先に行っておくのがおすすめです。DX支援業者にはさまざまな種類があるため、自社の方向性や課題に適した支援者を選びましょう。
システムの選定・構築
人材や支援者が揃ったら、使用するシステムの選定や構築を行いましょう。多くの場合がクラウドシステムを導入しますが、自社のDX化の目的や課題に合うシステムを選んで構築する必要があります。
選ぶシステムの種類によって用途や目的が異なるため、複数のシステムを組み合わせて顧客の利便性向上やコスト削減、リスク管理の強化などの効率化を図りましょう。
顧客のリテラシーに応じてプロセスを変える
金融DXの際には、顧客のリテラシーにも注目する必要があります。顧客リテラシーが低い場合には、わかりやすいマニュアルを作成したり、使い方を簡単にしたりするなどの工夫を行わなければなりません。
顧客のリテラシーに応じてプロセスを変えることで、顧客満足度の向上も狙えます。金融教育の実施や顧客向けの研修やセミナーを行いながら、顧客のリテラシーに応じたプロセスを構築しましょう。
金融DXで新規事業を立ち上げる際の注意点
経済産業省の調査によると、金融DXで新規事業を立ち上げる際に上手くいかなかった理由として、システム的には実現できるもののマーケット規模が小さい、PoCの段階で特定のベンダーに依存しすぎる、などがあることが分かりました。
ここでは、これらの状況に陥らないようにするための注意点を解説します。
参考:金融機関のITガバナンス等に関する調査結果レポート|経済産業省
適切なKPIを定める
新規事業の立ち上げは参考事例が少ないため、ビジネスモデルとして成り立つかを見極めることが難しい場合もあります。実際にサービスを開発し提供を開始しても、マーケット規模が小さく収益化できない事例も見られます。
このような事態を避けるためには、事前に市場規模や動向を調べることはもちろん、撤退基準を定めておき、リスクを最小限にとどめることが大切です。そのために必要な指標がKPI(重要業績評価指標)です。
あらかじめ事業目的に応じたKPIを設定しておくことで、成果が出ない場合には迅速に中止の判断ができます。また、KPIがあることで新規事業に関わるメンバーが、同じ目標に向かって進むことが可能になります。
PoCを極力内製化する
PoCとは、新しい技術やアイディアの実現可能性を検証するための試験的な取り組みのことです。新技術導入に伴うリスクを最小限に抑えながら、その効果を検証できるため、金融業においても導入されている手法です。
PoCはベンダーと協力して行うことが多いため、この段階で特定のベンダーに依存しすぎることが課題となっています。特定のベンダーのサービスに依存した構造をつくってしまうことで、実際に開発を進める際に他のベンダーへの切り替えが困難になります。
この状態に陥ると、ベンダー側が値上げをしても、同じベンダーに発注し続けなければならないといったデメリットが生じます。対策として、PoCの企画から試作まで極力内製化することが挙げられます。
そのためには、社内でPoCを実施するためのチームを組織し、必要な人材・ツール・環境を確保することが大切です。
まとめ
金融DXにはセキュリティへの不安やIT人材の不足、顧客のITリテラシーが低い点など多くの課題があります。しかし、コストの削減や業務の効率化など、DX化によって得られるメリットは多くあります。
金融DXを進めるためには、生体認証やクラウドシステムの導入が欠かせません。その他にも、AIの活用やRPAの導入など複数の施策が考えられます。本記事で紹介した金融業界におけるDXの進め方を参考に、ぜひ事業のDX化を検討してみてください。