サプライチェーンとは?問題やリスク、SCMのメリットを解説

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- サプライチェーンとは、製品の原材料の調達から消費に至るまでの一連の流れを指す
- 適切なサプライチェーンマネジメントを行うことで、供給を最適化できる
- 適切な管理がなされないと、過剰在庫や販売機会損失などの問題が起こる可能性が高い
サプライチェーンとは、製品の原材料の調達から製造・販売・消費に至るまでの一連の流れです。サプライチェーンを適切に管理することで、供給の最適化を図れます。本記事では、サプライチェーンのリスクやサプライチェーンマネジメントのメリットなどについて解説します。
目次
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「サプライチェーン」の意味とは

人間が扱うモノ(製品)は、通常原材料や部品の調達がされたあと製品が生産され、販売を経て消費者に提供されます。その一連の流れが「サプライチェーン」です。
調達・生産・販売の各プロセスが相互に繋がっているという考えから、供給を意味する「supply」に鎖を意味する「chain」が付いています。日本語では、サプライチェーンのことを「供給連鎖」と言います。
サプライチェーンの考え方では、調達から消費者への提供まで、一連のモノの流れに関して自社だけでなく他企業を含めて捉えています。例えば、メーカーの場合、原材料や部品のメーカーから運送業者や卸業者、小売業者までが含まれます。
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「サプライチェーン」の意味とは
ビジネスチェーンとの違い
日本語で「事業連鎖」と呼ばれるビジネスチェーンは、原料や部品の調達・製品の生産・消費者への販売といった、各工程における企業間の流れを表しています。ビジネスチェーンは、サプライチェーンと混同されがちな考え方です。
どちらも複数の企業間にまたがるプロセスを表していますが、サプライチェーンがモノの流れに特化するのに対し、ビジネスチェーンはサービスや情報の流れなどを含めた業界全体のプロセスを表しています。
バリューチェーンとの違い
バリューチェーンは、経済学者マイケル・E・ポーター氏によって提唱された考え方で、1つの企業での事業活動を表したものです。日本語で「価値連鎖」と訳され、企業での事業活動を価値創造のための一連の流れと捉える考え方です。
バリューチェーンもサプライチェーンと混同されやすい概念ですが、どちらも原材料調達から販売までの事業活動を対象とし、焦点を当てる部分に違いがあります。
サプライチェーンでは、モノがどのように供給されるかに着目しています。一方、バリューチェーンは、チェーンのどこでどのような価値が創造されるかに焦点を当てています。
エンジニアリングチェーンとの違い
エンジニアリングチェーンとは、製造過程における設計部門を中心とした業務のことです。企画の構想から製品設計、工程や設備の設計、生産準備からアフターサービスまでの一連の業務の過程が含まれているため、エンジニアリングチェーンには多くの部門が携わります。
エンジニアリングチェーンは、商品情報とその技術のつながりを指します。一方、サプライチェーンは材料の供給から顧客や消費者への出荷まで、業務過程における一連のモノの流れのことです。
エンジニアリングチェーンで決められた商品の仕様や生産体制に沿った仕様で、サプライチェーンによってモノが製造・出荷されます。
サプライチェーンマネジメント(SCM)とは

通常、生産を行うメーカーでは、販売を担う卸や小売業が仕入れる数を予測して材料を調達し、生産していました。また、卸も小売りが発注する数を予測してメーカーに注文し、小売りも売れる数を予測して卸に注文するのが一般的です。
仮に、調達・生産・販売業者が見込みだけで発注すると、予測が外れた場合に材料や製品の過剰在庫を抱えてしまいます。しかし、それぞれの供給先の生産や販売計画がわかれば、生産や仕入れの過不足を防げます。
サプライチェーンマネジメント(SCM)は、調達・生産・販売業者がそれぞれの供給先と連携して管理することで、サプライチェーン全体の効率化を目指す方法です。
ロジスティクスとは
サプライチェーンマネジメントと混同されやすいのが、ロジスティクスです。元々、ロジスティクス(logistics)は「兵站」を表す軍事用語でした。兵站とは、最前線の兵士へ食料・武器など、必要品の供給・補充・輸送をすることです。
現在では、商品が消費者へ届けられるまでの調達・生産・物流・販売の流れを1つの企業の中で一元管理し、効率化するという概念を指しています。
一方、サプライチェーンマネジメントは、複数の関連業者間で情報やノウハウを共有化して効率化を図るのが特徴です。そのため、サプライチェーンマネジメントの方がロジスティクスより概念的に上の位置にあると言えます。
SCMが重要視される背景
サプライチェーンマネジメント(SCM)という言葉が初めて用いられたのは、1982年のことです。しかし、この頃はIT技術が発達しておらずSCMを実現する環境が整っていませんでした。
一方、現在ではクラウドサービスやデバイスの普及で、自社だけでなくサプライチェーン全体でリアルタイムでの情報共有や連携が可能になりました。そのため、過剰在庫の防止などメリットが多くなり、SCMを導入する企業が増加しています。
また、スマートフォンの普及で情報の拡散が加速したため、ニーズの変動も以前よりも大幅に速くなっています。企業にとって需要予測が難しくなっていることから、需要の変動に迅速に対応するためにSCMの重要度が増すようになりました。
サプライチェーンのリスク・起こりうる問題とは

サプライチェーンがうまく機能するかどうかは、情報共有などのマネジメントがキーポイントとなってきます。適切な管理が行えていないと、問題が生じる可能性があります。ここでは、サプライチェーンのリスクや起こりうる問題について説明します。
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サプライチェーンのリスク・起こりうる問題とは
過剰在庫
サプライチェーンの管理が適切でないと、調達・生産・販売の情報共有が不十分になり、互いに何をどれだけ実行すればいいのかがわからなくなります。
その結果、メーカー側は販売できる量がわからずに原材料を多く仕入れすぎたり、販売業者はメーカーが作り過ぎた製品を引き取って過剰在庫になったりすることもあります。
仕入れた残りや過剰在庫を保管するため、スペース確保に費用や時間がかかるだけでなく、場合によっては廃棄しなければならないケースも生じるため、無駄が生じやすいです。
情報共有不足による機会損失
サプライチェーンの各プロセス間で、情報共有の不足は利益に大きな影響を与えます。例えば、需要の高まりで製品が必要になった場合、生産するメーカーおよび原材料の生産者などには需要増加の情報が伝わりにくくなります。
製品の販売で大きく利益を上げる機会が訪れても、原材料や部品の調達がすぐにできず、大きな利益を上げる機会を逃してしまう可能性が高いです。
国外の情勢に影響を受ける
現在では、日本の企業でも国外に工場を建てて生産するケースが増えています。また、原材料や部品などを、海外の現地企業から調達することも珍しくありません。
海外にサプライチェーンの全部または一部を置いている場合、地震や台風などの自然災害が起きると工場の生産や輸送が停止します。また、日本国内より紛争やテロ、暴動などの人的な災害リスクを抱えており、供給が完全に停止するケースも考慮しなければなりません。
セキュリティリスク
近年では、インターネットやクラウドサービスなど、ITインフラの発達により社内業務のデジタル化が進んでいます。一方、外部からの不正アクセスなどサイバーセキュリティに関するリスクが高まっています。
連携している企業のシステム経由で社内システムに不正アクセスされ、従業員の個人情報や顧客情報が抜き取られるといった事例も多発しているのが現状です。
サプライチェーンマネジメントの計画業務

サプライチェーンマネジメントの計画業務は、サプライチェーン全体を最適化するための戦略的な流れを指します。以下は、主な計画業務です。
- 需要予測
- 供給計画
- 生産計画
- 在庫計画
- 配送計画
- 販売計画
- リスク管理計画
- サステナビリティ計画
過去の販売データや、市場の動向などから将来の需要を予測する需要予測、需要予測を基に生産能力や在庫レベルを考慮した適切な共有量を決める共有計画といったように、サプライマネジメントでは流れに沿った計画業務の実行により、企業競争力の強化につなげます。
サプライチェーンマネジメントのメリット

マネジメントにおいて、問題やリスクの発生を回避するには、サプライチェーンの適切な管理、サプライチェーンマネジメント(SCM)が必要になります。ここでは、サプライチェーンマネジメントを行うメリットを解説します。
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サプライチェーンマネジメントのメリット
人員配置を最適化できる
近年では、調達や生産の拠点が国内外に散らばるなど、サプライチェーンの拡大やグローバル化が進んでいます。グローバル化などによりサプライチェーン全体が複雑化してくると、人員の適切な配置が難しくなってきます。
サプライチェーンマネジメントを活用すると、各工程で必要な人員の場所や数が把握しやすくなります。適切な場所に適切な人数を配置できるようになれば、余剰人員を減らすのはもちろん、人手不足のときにも対処しやすいです。
コスト削減につながる
サプライチェーンマネジメントにより、常に原材料の仕入れや製品の生産、在庫数、需要量などを各工程でリアルタイムに共有できます。そのため、製品の作り過ぎによって過剰在庫を抱えてしまうリスクや、管理にかかるコストの削減が可能です。
また、最終的に必要な量が調達や生産工程にも伝わりやすく、原材料の調達や運送の量をコントロールして無駄なコストが発生するのを抑えられます。
過剰在庫を防ぐ
サプライチェーンマネジメントによって、在庫や仕入れの情報をサプライチェーン全体で共有できるため、原材料の過剰調達や製品の作り過ぎを避けられるようになります。
その結果、原材料や製品の在庫を持ちすぎることがなくなり、倉庫などの保管スペースが減って保管費用の削減につながります。
情報共有がスムーズになる
サプライチェーンマネジメントによって各工程が連携されることで、製品の販売数や原材料の調達可能な量など、各工程が持っている情報がすべての工程で共有化されます。
これにより、適切な調達や生産・発注が可能になります。需要を超えた生産を行うといった無駄な作業の発生を防ぐことができ、そこに割かれる人員の削減も可能です。
リードタイムを短縮できる
サプライチェーンマネジメントにより、仕入れや在庫管理などのあらゆるデータを一元管理できるため、調達業務の効率化が可能になります。
サプライチェーン全体で情報を共有・管理することで業務が効率化されるため、各工程における作業開始から終了までの時間、リードタイムの削減にも期待できます。
サプライチェーンマネジメントのデメリット

サプライチェーンマネジメントを導入することにより、多くのメリットがある反面、デメリットも生じます。ここでは、サプライチェーンマネジメント導入により生じる、2つのデメリットについて解説します。
コストが負担になる場合がある
サプライチェーン全体を管理するサプライチェーンマネジメントを導入する際には、自社に加えて、関連各社にも導入が求められます。そのため、多くの手間とコストが発生します。
特に、導入後は運用費なども発生するため、高額な導入費用やランニングコストがかかります。しかし、競合企業に対する優位性の確保には、サプライチェーンマネジメントが重要であるため、安定した業経営の実現への必要経費として捉えることが大切です。
利益を得る機会を損失してしまう
サプライチェーン全体の情報を一元管理することにより、業務の効率化を図れます。しかし、業務の効率化ばかりに集中してしまうと俯瞰的な視点を失い、市場の変化を見逃すリスクが高いです。その結果、利益を得る機会を見逃してしまう恐れがあります。
そのため、業務の効率化や最適化を促進しながら、リアルタイムで市場や事業を把握し、変化にも柔軟な対応ができるように注意しましょう。
サプライチェーンマネジメントの強化で必要な取り組み

サプライチェーンマネジメントのメリット・デメリットを踏まえた上で強化を図る際には、以下のような取り組みが必要となります。
- データ活用とデジタル化の推進
- 需要予測の精度向上と計画性の見直し
- サプライチェーン全体の可視化
- パートナーシップの構築と協力関係の強化
- 定型業務の自動化によるDXの推進
現代のサプライチェーンマネジメントでは、デジタル技術を活用したデータ化・リアルタイムでの情報共有が非常に重要です。AIやブロックチェーンなど、セキュリティ対策にもつながる最新技術を効果的に利用することで、競争力のあるサプライチェーンを構築できます。
なお、持続可能なサプライチェーンを構築する際には、労働環境の改善や組織全体の意識改革なども必要です。
サプライチェーンの例

サプライチェーンは、身近な場面にも存在しています。ここでは、コンビニで販売されているおにぎりを例にして、サプライチェーンの流れを解説します。
工程 | 詳細 |
---|---|
原材料の調達 | 生産者・農協などの集荷販売業者から米や具材の仕入れ |
製造 | 中食事業者が工場でおにぎりを製造 |
配送 | 運送業者がおにぎりをコンビニへ配送 |
販売 | コンビニでおにぎりを販売 |
購入 | 消費者がおにぎりを購入 |
まとめ

サプライチェーンは、ある製品について原材料の調達から消費者への提供まで、一連の流れを相互に繋がった「鎖(chain)」に例えた概念です。このサプライチェーンを適切に管理し、全体の効率化を目指すのがサプライチェーンマネジメント(SCM)です。
近年では、ITの発達やグローバル化などにより、需要や供給の予測が付きにくくなりました。そのため、従来のままでは在庫の過不足が起きたり、災害や紛争で生産や輸送などが停止したりする事例が多発しています。
サプライチェーンマネジメントを活用して各工程が情報共有しやすくなると、リアルタイムで各工程の情報が得られます。効果的な利用により、販売での需要に合わせた適切な調達や生産が行えるなど、人員や費用の無駄を削減できるでしょう。
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